DJデミオやマツダ2で耐久レースなどに参加しているいくつかのショップが、フロントブレーキの熱対策を兼ねてNDロードスター用に交換すると言った話題に触れていたり、実際にロードスター専門店として有名なノガミプロジェクトはフロントブレーキのグレードアップを可能にするキットを販売していたりする。
ややオーバーに言っているだけかもしれないし、長時間走り続ける耐久レースはともかく、並のユーザーがちょっとサーキットを走る程度で問題が発生するのかどうかは定かではないが、事実としてDJデミオ~現行のマツダ2に至るまでキャリパーピストンが”樹脂製”なのだとか。
今時、樹脂製のピストンがそれ程珍しいわけではないのですが、サーキットを走る事も想定した所謂スポーツカーの類に樹脂製ピストンが採用されていると言う例は聞かないので、ハードな走行には不向きである事はおおよそ間違いないと思われます。
一部では溶けるだとか、欠けるだとか噂はされているものの、実際に致命的なトラブルが起きたと言う車両が身近にはいないため、耐えられる限界については全くもって真相不明である。
しかし、ジムカーナやミニサーキットだからとナメていると、私のアクセラの様にブレーキが炭化して砕け散ったりなんて事もあり得るわけで、高負荷走行を前提としているなら保険の意味でも対策が出来るならやっておくに越した事はない。
ただ、パワーに期待出来る車ではないため、ジムカーナやミニサーキットに於いて駆動輪のブレーキ重量増加は致命的なので、DJデミオの標準ブレーキをそのまま使って、熱害によるトラブルが起こる”可能性”のある樹脂製ピストンだけを金属製に換えると言った方法はないのだろうか?
それが「ありますよ!」と教えてもらったので、交換作業と合わせてご紹介したいと思います。
■ブレーキキャリパーの取り外しとフルード漏れ対策
庭先でブレーキキャリパーのオーバーホールを行ったり、キャリパー本体を交換したりと言った作業も、ブレーキパッドの交換をした事のある人であれば作業自体はそれ程難しい事ではないです。
しかし、キャリパーに接続されているブレーキホースを取り外せば、当然ライン内部のブレーキフルードが流れ出てくるため、作業中は漏れ止めをしたり、完全に止められない場合は容器に受けたりするわけですが、そもそもどうやるの?って方も多いと思います。
せっかくなので、やってみたいけど漏れるフルードをどうやって止めておけば良いのかわからないと躊躇している方のために、分解手順と合わせて便利な道具をご紹介しましょう。
あ、そうそう。
今回の作業はエア抜きでフルードを消費するので、事前にブレーキフルードを準備しておきましょう。
エア抜きのみでフルード交換まで必要ないと思えば500ml缶でも十分ですが、ついでに4輪全部やクラッチのエア抜きも兼ねて交換しちゃおうって方は1~1.5L準備しておくと良いでしょう。
まずはキャリパーに接続されているブレーキホースを取り外します。
大体、キャリパーの裏側に接続されているので、確認すればすぐにわかると思います。
これ、ボルトで留められているけど一体どうなってるの?って気になる方もいると思いますが、取り外してみればわかりますよ。
撮影した角度が悪くて穴が見えませんが、バンジョーボルトと言って、側面に開いた穴と、軸内部が中空のパイプとなった特殊なボルトで、この内部をブレーキフルードが通っているわけです。
先程取り外したブレーキホースの先端を挟む様に金属製のパッキンが付いているので、取り付け時は忘れない様に取り付けておきましょう。
今回は再利用していますが、着脱を伴う作業を行う時はなるべく新品に交換するのが望ましいです。
再利用する場合はキズを付けない様に保管し、取り付け時は元通りの向きで使用してください。
さあ、このボルトを緩め始めると、キャリパーとブレーキホースの接続部からポタポタとフルードが漏れ始めると思います。
こればかりは完全に防げませんので、床を汚さない様にウエスなどを敷いておきましょう。
そのままにしているとホースからいつまでもフルードが漏れ続ける事になるため、いくつかの方法で漏れ止めを行います。
ブレーキホースを挟んで止めるクランププライヤーだったり、人によってはホースを折り曲げて結束バンドで留めると言う方もいますが、なるべくならホースに直接負荷を掛けるのは避けたいところ。
そこで私がオススメするのは、洗濯バサミの様な形状でホースの先端の穴を挟み込む様に塞ぐタイプのラインストッパーと言う工具です。
このタイプだと、社外品のステンメッシュホースなど、折り曲げやホースを押し潰して止める方法が取れない物にも対応可能なので結構便利ですよ♪
実際の使い方はこんな感じで、ホースの穴を挟んでやればゴムのクッションが穴をしっかり塞いでくれます。
これ一つでも良いのですが、ホースも色々な形状がありますので、複数の車種に触れる可能性のある方は数種類のストッパーがセットになった、ストレートのラインストッパーセットなどがオススメです。
フルードの漏れが止まったら後は何も気にする様な事はないので、ブレーキパッド交換時の感覚でキャリパーを取り外してやればOKです。
ホースも繋がっていないので、これで完全に取り外す事が出来ましたね!
キャリパーサポート側に差し込んであるスライドピン側までO/Hをする場合は、ナックルからキャリパーサポートも一緒に取り外しておきましょう。
まだ車も新しいので、今回はそこまで触れずにキャリパー本体のみとなります。
■エアコンプレッサーが無くても楽々ピストンを抜く方法
比較的新しい車両で、熱対策にピストンの交換のみを行う場合はブーツなどを再利用でも構わないかもしれませんが、O/Hを兼ねるのであれば、ディーラーでも普通に購入出来ますので、キャリパーシールキット(ブーツ類やグリスのメンテナンスセット)を準備しておきましょう。
キャリパーの取り外しまでは問題なくても、庭先でO/H作業までしない人が多い理由の一つに、キャリパーピストンを抜く手段がないと言う理由があげられます。
実際のO/H作業をご存知の方ならわかると思いますが、バイクや一部の軽自動車の様に小さなピストンを抜くなら比較的安価なピストンプライヤーを使って抜けない事もない様ですが、エア圧で押し出すと言う方法を取る事が多いと思います。
エア圧を利用して押し出すと言う事は、ちょっと値の張るエアコンプレッサーが必要になるわけですが、重整備の頻度が少ない並のユーザーでは、なかなかそこまでの道具は持っていないと言う人も多いはず。
一応、私は持っていますが、ほんの数秒のために重たいエアコンプレッサーを倉庫から引っ張り出して来るのも面倒なので、もっと手軽でスマートにピストンを抜く方法はないでしょうか?
それが、この作業では必ず準備してあるだろう”アレ”で簡単に抜けちゃうそうなので、ちょっと試してみましょう♪
必ず準備してあるだろう”アレ”とは、なんとパーツクリーナーである!
パーツクリーナーの圧力程度で本当に抜けるの?と疑問に思うところですが、もちろんそのまま吹き込んだだけで抜ける程ピストンは緩くありませんので、ちょっと工夫が必要です。
パーツクリーナーの風量自体はエアコンプレッサーに比べると遥かに弱く、ノズルも細いので、ただ穴に差し込んで噴射してもビクともしません。
なので、キャリパー内部の圧力が逃げない様に、ノズルの先にビニールテープをぐるぐる巻いて即席の蓋を作ってやりましょう!
ブレーキホースの接続されていたボルト穴より少し大きい程度なので、鉛筆くらいの太さになる様に巻いておけば十分です。
あまりシビアにならなくて構いませんので、先端を少しテーパー形状になる様に巻いておくと良いでしょう。
準備ができたら、キズ防止のためキャリパーにウエスを挟み、ブレーキホースの穴にノズルの先端を押し当てます。
ノズル先端を手で押さえる場合は、飛び出したピストンで指を挟まない様に注意して掴みましょう。
後はパーツクリーナーを噴射するだけ!
スポンッと音がすればご覧の通り、固着などが起きていなければ驚くほどあっさりと抜けちゃいます♪
圧力自体は低いので、エアコンプレッサーの様に勢い余ってピストンが吹っ飛ぶなんてリスクも低いですし、分解後にパーツクリーナーで清掃も行うので一石二鳥と言った感じ。
この状態ではまだピストンが浅く刺さっていますので、後は手で掴んでグリグリと取り外しましょう。
■キャリパーのO/H手順と金属製ピストンへの交換
ピストンさえ抜けてしまえば、後は通常のO/Hと同じ手順で作業を進めます。
ブーツを取り外すとキャリパー内部にアクセス出来ますが、矢印で示した内部の溝にゴム製のリングが装着されていますので、交換する場合は先の尖った精密ドライバーなどを使って取り外します。
“オーバーホール”と言うと難しい印象を受けるかもしれませんが、ほとんどは”洗浄”なので、実際の内容はゴムリングやブーツの交換程度です。
新しいので綺麗なもんですが、とりあえずパーツクリーナーとウエスを使って内部を洗浄しておきます。
長期間使用したキャリパーは、リングの嵌っていた溝に劣化したグリスなどが固まっている場合があるので、ドライバーの先端などにウエスを巻いて溝の清掃もしておきましょう。
新品のリングを取り付ける際はキャリパーシールキットに付属のラバーグリス(ピンク色のグリス)を少量指に取り、表面をグリスでコーティングしてやる感じで薄く塗布しておけばOK。
後は元通りにリングを溝に嵌め込んでおきます。
こちらは先程抜いたキャリパーピストンですが、本当に樹脂で出来ていますね。
全て樹脂と言うわけではなく、パッドの背に当たる部分にはリング状の金属プレートが組み合わせてあります。
今回は熱対策と言う事で、このピストンを金属製の物に交換しますが、通常のO/Hで清掃を行う際は矢印で示したブーツの嵌る溝を綺麗にしておきましょう。
今回は破棄するのでゴミ箱に直行です(笑)
ここで本題となる金属製ピストンが登場です!
ピストンの説明の前に、とりあえず作業手順を。
こちらのブーツ内側とキャリパーの溝に嵌る部分(赤い矢印の部分)、そしてピストン表面にも、キャリパーシールキットに付属のラバーグリスを塗布します。
先にブーツをキャリパーに取り付ける方もいますが、私は写真の様にピストン側に取り付けた後、下の方にずらしておきます。
この状態で、キャリパーの溝(先程のリングの溝の上にある細い方の溝)に赤い矢印の部分が嵌る様に上手く取り付けた後、ゆっくりとピストンを押し込んでやればOKですが、そのまま押し込むと内部のエアーでブーツが膨らんでしまうので慎重に、上手くエアーを抜きながら押し込みましょう。
それでは、交換用の金属製ピストンについてです。
今回調べたところ、主にDJデミオ・マツダ2の15MBで対策している様ですが、グレードや年式によってキャリパーAssyの品番が微妙に異なるものの、DJデミオの”1.3Lガソリンエンジンの2輪駆動のグレードのみピストンが異なる”様で、同じ1.3Lガソリンエンジンでも4WDモデルを含め、その他はディーゼルもガソリンもピストンサイズは共通である事がわかりました。(キャリパーシールキットも1.3LのFFのみ他のグレードと異なります)
なので、1.3LのFFのみサイズを確認して別のピストンを見付けてくるか、他のグレードからブレーキ一式を流用しなければ対策不可と言う事になりますが、その他全てのDJデミオ&マツダ2にトヨタ・ラッシュやキャミのフロントキャリパー用ピストン(トヨタ純正品番:47731-87401)が流用可能です。
無事に取り付けが完了すればこんな感じに。
ブーツが上手く嵌っていない場合は、この状態でブーツの外周が一部はみ出したりして浮くので、失敗した場合はもう一度ピストンを抜いて必ず正確に付け直してください。
ちなみに、樹脂ピストンと金属ピストンのサイズを比較したところ、ピストン径やブーツの嵌る溝のサイズなどは一致しますが、全長は金属製ピストンの方が2mmほど大きいです。
キャリパーに取り付けて押し込んだ状態ではごく僅か(0.1~0.2mm程度?)にツラよりはみ出しているものの、ほぼ完全にフラットになるので影響は無いと思いますが、社外のブレーキローターやブレーキパッドなど、純正よりミリ単位で厚い様な物を組み合わせた場合はもしかすると取り付けが困難、または不可となる可能性があるので注意しておきましょう。
参考までに、純正ブレーキローターにプロジェクトμのブレーキパッドの組み合わせでは全く問題ありませんでした。
尚、今回は熱対策と言う事で樹脂製ピストンを金属製に変更していますが、樹脂製ピストンにも錆や固着が起き難い、フルードに熱が伝わり難い、軽いなどのメリットはありますので、金属製ピストンへの変更が”改善”と成り得るかどうかは車の用途にもよります。
街乗りのみで、ハードなブレーキングの機会が少ない方にはデメリットとなる可能性がありますので、サーキット走行をしないのであれば特に交換する理由はないでしょう。
キャリパーの組み立てが終わったら、元通りに取り付けてエア抜き作業を行いましょう。
…っと、その前に。
今回は新しいのでキャリパー本体しか触れていませんが、スライドピンまで清掃してブーツ交換を行う場合は、取り外したキャリパーサポートから矢印で示したブーツとスライドピンを引っ張れば簡単に外れます。
取り外したスライドピンと、キャリパーサポート側の穴を綺麗に清掃した後、新しいブーツにキャリパーシールキットに付属のオレンジ色のグリスを塗布して被せる様に取り付けます。
続いて、スライドピンにもオレンジのグリスをベタベタと塗って元通りに差し込んでやればOK。
穴の中は清掃し難いですが、分解や組み立てはキャリパー本体に比べると簡単なので大丈夫だと思います。
エア抜きの作業は、赤丸で示したブリーダープラグの先端にブリーダーボトルのホースを差し込んだら、10mmのスパナで少し緩めます。
緩め過ぎるとフルードが漏れたり、エア噛みの原因となるので、90度~180度くらい回せばOKです。(作業後にプラグを締める場合は、軽くキュッと締め付ける程度で)
この状態で運転席に乗り込み、リザーブタンクのフルードを切らさない様に補充しながらブレーキペダルを何度も踏むと言う作業をするのですが…
1人で作業する場合、運転席からではブリーダープラグの開閉は出来ないため、ただのホースを繋いでペダルを踏むだけではエアーの混じったフルードが逆流していつまでもエアーが抜けないと言う事がありますので、1wayバルブの付いたホースを組み合わせて逆流を防いでやると楽に作業が出来ますよ♪
まあ、多くのブリーダーボトルには1wayバルブ付のホースが付属しているとは思いますが。
エアーが戻り難い様に、ホースはなるべく上向きにしておきましょう。
この場合は”ペダルをゆっくり奥まで踏み込んで離すと言う操作を10~15回程度行えば大体抜ける”と思いますが、その間にリザーブタンクのフルードが下限のラインを下回らない様に注意してください。
慣れている方なら大丈夫だと思いますが、恐らく初めて作業される方は1度のペダル操作で考えている以上に減りますので、少なくとも5回に1度は目視で確認して、こまめに補充する事をおすすめします。
おおよそ10~15回ペダル操作を行ったらブリーダーホースを確認して、1wayバルブより手前にエアーが残っていない様であればプラグを締めましょう。
この際に、ブレーキホースやキャリパーピストンの周りからフルードの漏れがないかチェックしておく事も忘れずに!
問題がなければ、最後にペダルを何度か踏んでみて踏み応えがガッチリしていればOKです。
作業完了後はフルードの量の確認と、キャリパー周辺をパーツクリーナーで入念に清掃する事もお忘れなく。
今回はピストンの材質変更をしていますので、おまけに交換後のレビューもお伝えしましょう。
パッドの着脱作業やエア抜きを伴うのでピストンの材質変更の影響とは言い切れませんが、ブレーキング時のペダルタッチが固く、ディスク表面の状態を見た感じではパッドの当たり方にも少し変化が見られます。
ブレーキホースをステンメッシュなどに交換した人の多くが「フィーリングが変わった!」とコメントするのと同じ様に、単純に古くなった純正ホースを新品の純正ホースに交換しただけでもペダルタッチはカチッとしますので、実際にはピストンそのものではなくエア抜きの効果である可能性の方が高いでしょう(笑)
金属製ピストンへの交換は、あくまでも熱害による樹脂ピストンの溶損や変形対策なので、もしかするとフィーリングや効き具合に多少変化があるかも?くらいの小さな期待に留めておいてください(笑)