■目次
■まずは車高調の基本原理を知る
ヘルパースプリングを使って車高が下がる理屈や、伸縮ストロークの変化について説明する前に、大前提としての車高調の基本原理を知っておく必要がある。
車高調とは、標準装備のショックアブソーバー(一部の車種を除く)と異なり、ショックの全長やスプリングに掛かるプリロードを調整する事で車高を上げ下げする機構を備えた、調整式ショックアブソーバー全般を指す。
おまけの機能に減衰力調整機構などが付いている物もありますが、今回の話には直接関係がないので、別の機会にお話しするとして、車高調を使って車高が変化する理屈をご説明しましょう。
尚、後述するこの項でのヘルパースプリングは比較的低レートで、1G状態では線間密着する「スプリングの遊び防止」を主目的とした物を指し、比較的高いレートを有したサブスプリングとして働く物はちょっと考え方が違うためこの項には含めない。
後者のサブスプリングは、線間密着を起こすまではメインスプリングと合わせた合成バネ定数でレートを読み、線間密着後はメインスプリングのレートが立ち上がるバリアブルレートのセッティングとなるため、ちょっとややこしい話になります。
まあ、現時点でこんな話をしても仕方がないので、まずは基本中の基本、以下の写真を見てください。
これは一般的な車高調の一例となりますが、左に写っている緑色のテインの車高調はネジ式、もしくはプリロード式と呼ばれるタイプで、最近は少数派となりましたがCリング式も調整の理屈はこれと同じ原理となります。(ネジで無段階調整か、Cリング用の溝で数センチ、数ミリ単位の調整かの違い)
尚、赤い矢印で示した物がヘルパースプリングで、上に付けたり下に付けたり、どちらでも構いません。
そして右に写っている金色のオーリンズの車高調は全長調整式と呼ばれるタイプなのですが、実は…全く構造は同じなのです。
大きな違いは、赤い四角で囲んだ部分が調整式のブラケットとなっていて”プリロードを調整しなくても”車高調整が可能となっている点です。
言い換えれば、車高を調整してもプリロードに影響を与えないと言う事も出来ますし、メーカーはそれをメリットと謳っている場合も多いです。
良く見てほしいのですが、左右の車高調共に赤い丸で囲んだ部分でスプリングの自由長に合わせた調整はもちろん、プリロードの調整が可能となっており、どちらも構造が同じだと言う事がわかると思います。
まあ、全長調整式は単純に車高を調整したいだけの場合は赤い四角で囲んだ部分を調整すれば良いだけなのですが、足回りの真価を発揮させたいならば、伸縮ストロークの調整を無視する事は出来ない。
ここまではよろしいですか?
どちらのタイプも、アジャスターでスプリングのプリロードを調整できるのはわかったけど、それによって車高が変化する理屈は?
下の図をよ~くご覧ください。
これは全く同じ車高調に、全く同じスプリングを組み合わせた物と仮定します。
良く言い争っているのを見掛けるプリロード、ないしはプレロードは日本語読みの発音の問題なのでどっちでも気にしなくて良いです(笑)
意味は事前荷重と言うべきか、要するに予圧、イニシャルであって、スプリングレート換算で数キロ、数十キロ分を縮めておく事を指すのですが、これは何が起きるかと言うと「ストロークの中立位置」が変わるんですよ。
伴い、車高もね。
事前にバネを縮めているからクイックになるとか思っている人もいる様ですが、もしかすると固有振動数の変化から多少影響があるかもしれないが、差が出るとすれば1Gで縮む量を超えた場合、もしくは伸びきった時の動きではないでしょうか。(ここで言う影響とは、数値的な話ではなく体感的な話で)
その他オープンエンドのスプリングなど、確かに初期のレート立ち上がりがリニアでない物を、メーカー指定のプリロードを掛ける事でレートを安定させると言う目的もある様ですが、私にはスウィフトのスプリングなどメーカー指定の2mm程度は掛けていても掛けていなくても正直言って違いは良くわかりません(笑)
ところで、この図は何かおかしくないか?と疑問に感じた人も多いかもしれません。
これ、プリロードの有無に限らず車高調の全長に変化がありませんよね?
どうして車高が変化するのか。
不思議に思った方は、車を着地させてみましょう!
これがプリロード調整で車高が変化する理屈。
プリロードを掛けていても1Gでのストローク量を超えない範囲では上記の図と同じ状態になります。
全長調整式は、この調整を無視してショック全長を直接変更出来る機構を追加した物と言うだけであって、車高を決めるのは”1G状態でのショック全長”と言う理屈そのものに違いはありません。
…ん?どう言う事かわからない?
例えば1輪に乗る荷重が200kgの車に、2kgf/mmのスプリングを使った場合(レバー比は1:1と仮定します)は、車を着地させると2kg毎に1mm縮む計算なので、100mm…つまりスプリングが10cm縮む事になります。
プリロードを5cm掛けていたとすれば、無負荷状態ではプリロード0に比べて事前に5cm縮んでいますが、着地させた時のスプリングの長さはプリロードの有無に限らず同じになります。
仮に11cmのプリロードを掛けている場合は、1Gのストローク量を超えているので、着地させても更に20kgを超える荷重を加えない限りスプリングは全く縮みません。
まあ、とりあえずですよ、1Gのストロークを超えない範囲のプリロードであれば、プリロードの有無に限らず”着地時のスプリング長は同じ”となるため”差が生じるのはスプリングロアシートから下のショック長”となります。
つまり、プリロードを掛けると車高が上がり、プリロードを抜いたり、スプリングを遊ばせると、その分車高が下がると言う事です。
以上が車高調の基本原理となります。
■伸縮ストロークは何で決まる?
前項で車高調の基本原理を説明しましたので、単純に車高を下げたい、伸びストロークを増やしたいと言った場合はヘルパースプリングの説明に移っても構わないのですが、お時間が許すなら、ちょっと寄り道してみませんか?
良く、ヘルパースプリングを使うと伸びストロークが増えると言う方がいますが、これをどう言う理屈で認識しているか確認してみると、ヘルパースプリングの分だけスプリングが長くなるから伸びるんだ!なんて無茶苦茶言う人がいるので、ちょっと待ってほしい(笑)
よ~く考えてほしいのですが、ショックのロッド長は全く変わらないわけですから、どんなに長いスプリングを入れようが、プリロードをギンギンに掛けてアッパーマウントを押し上げようと試みようが、ロッドが伸びきったらそれ以上は伸びませんのでね…そこは勘違いされないように。
伸縮ストロークを決める要素は、前項で触れた「中立位置」が関係しています。
総ストローク量は原則変わらないので、何かを得る代わりに何かが犠牲になっている事に気付くはずです。
例えば、無負荷状態でロッド長が20cmあるとしたら、大凡20cmのストローク量があると言うわけですよね?
実際の車高調にはバンプラバーや、アッパーマウントと接続するためのネジ部分などがあるので、単純なロッド長=ストローク量と言うわけではありませんが、ここでは分かり易く、ストローク量が20cmあると仮定しましょう。
では、次の図をご覧ください。
凄く都合の良い車高調の図ですね(笑)
なんと、そのまま着地させたらストローク量はちょうど半分の10cmぴったりで止まった様ですよ!
1G状態でその他負荷を掛けないこの時の位置が、所謂「中立位置」となります。
この時の縮みストロークと伸びストロークは、それぞれどれくらいありますか?と言うのが伸縮ストロークの判定です。
邪魔な部分を取り除いてショックを良く確認してみましょう。
先程の車高調のショック部分のみに注目すると、1G状態ではちょうど半分の10cmストロークしており、内部を可視化すると上記の状態。
ショック内に入っているロッド長が赤色で示した部分で10cm、外に出ている分が黒色で示した部分で10cmとなっており、黒部分が縮みストローク、赤部分が伸びストロークとなります。
ただ、この中立位置なのですが、条件によって伸縮ストロークの割合が変化します。
その条件とは、前項で説明したプリロード。
また、プリロード以外では主にスプリングレートによって変わります。
中央の普通と言うのが何を持って普通と言うのか微妙な表現ですが、縮みと伸びが大凡同等の状態を基準とした場合、スプリングを硬くすればする程、縮みストロークは増える反面、伸びストロークが犠牲になります。
対して、柔らかいスプリングを使用すると縮みストロークが減りますが、伸びストロークは増えます。
ただ、スプリングレートを変更すると、車高にも影響が出るわけですが、全長調整式を使用している人が陥り易い罠が当にこの部分で、スプリングレートを変えて車高が変化したなら、全長を調整して車高だけ再調整すれば良いと思っている人が多い点です!
全長調整式で車高のみを調整できる手軽さが仇となって、伸縮ストロークの割合が変化している事を忘れがちなのです。
また、プリロード式を使っている方や、この点を理解している方でも、現実としてハイグリップタイヤ、ないしはSタイヤなどを積極的に使う方、街乗りは考慮せずサーキット走行に全振りする方など、スプリングを硬くする傾向があるので、結果として伸びストロークは減ると言うパターンが多いですよね。
でも、スプリングが硬くなっているので、縮みストロークがそんなに必要なわけでもないし、どちらかと言うと本音はもっと伸びストロークが欲しい…なんてジレンマに陥る例が多いわけで。
綺麗な路面のサーキットを走り、縁石も踏まないと言うのなら伸びストロークなんて無視しても良いや!って思うかもしれませんが、実際の路面は大体ボコボコですよ(笑)
なので、ここでようやく登場となるヘルパースプリングにヘルプを求めようぜ、と言うわけです!
■助けて!ヘルパースプリング!
念のためですが、ヘルパースプリングが必ずしも良い結果を出す万能パーツと言うわけではないので、全ての車やカテゴリで有効なセッティングになるとは限りません。
過剰な期待はしない様に、あくまでもヘルパースプリングの働きについての説明と思ってご覧ください。
寸法の見方や取付方法の例はブログに書いたこちらの記事で説明していますのでご覧ください。
ここでは機能のみを説明します。
まずは、前項でお見せしたヘルパースプリングなしの車高調を再確認してみましょう。
ご覧の通り、1G状態でちょうど半分のストローク量となっていますね。
良いか悪いかは別として、この車高調の伸びストロークを増やすためにヘルパースプリングを取り付けてみましょう。
どうなるでしょうか?
赤色のメインスプリングには一切手を加えず、ロアシートを下げてヘルパースプリングを追加してみました。
理屈は単純に、スプリングを遊ばせた分だけ車高が下がり、それに伴った中立位置の変化が起きるのですが、ヘルパースプリングはスプリングの遊びを抑えるために使用されるパーツです。
言い換えれば、ヘルパースプリングを使うから伸びストロークが確保できると言うわけではないのですが、実際のショックには減衰力があるので、スプリングが遊んでいるだけの状態だとちゃんと伸びきらないと言う事もあるため、それを回避するために使うと言う目的もあります。
まあ、それはともかくご覧の通り、ヘルパースプリングは1Gであっさり線間密着して、メインスプリングは1G相当量縮みます。
これによって、0G状態のヘルパースプリング長と1G状態での線間密着長の差分だけ車高が下がり、同時に同等量の伸びストロークが増加します。
対して、伸びストロークの増加量分だけ縮みストロークが減ります。
この伸縮ストロークの量を微調整したい場合は、スプリングシートを調整してプリロードを掛けたり抜いたりする。
つまりヘルパースプリングを縮めたり伸ばしたりする事で調整可能です。
実際には、ヘルパースプリング自身も低レートながらスプリングレートを有しているので、寸分狂わずヘルパースプリングの差分=中立位置変化量とはなりませんが、遊び防止用の物なら大体イコールで考えて差支えありません。
最後に、上記のヘルパースプリング有無による中立位置の差がどれくらいあるのか確認してみましょう。
0G状態では当然ヘルパースプリングの有無による差はありません。
1G状態だと、左がヘルパースプリング無しの状態に対し、右のヘルパースプリングありの方は伸びストロークが増え、縮みストロークが減っているのが分かります。
前輪も後輪も同じ理屈でセッティング可能なので、自分の車に有効なセッティングを考えながら、中立位置を調整してみてください。
前輪駆動でトラクションが掛からない、旋回中の舵が利かない、ブレーキング時にリアが滑り易いなど、伸びストロークを増やすと改善する事があります。
もちろん良い事ばかりとは限りませんし、そもそも必要ないと言う場合もありますので、その辺りの判断は経験やノウハウが必要になるかと思いますが、セッティングの方向性として覚えておくときっと役に立つはずですよ!
追記:2022年3月25日
実践で効果を検証してみた話をこちらの記事で紹介していますので、興味のある方は合わせてご覧ください。
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ヘルパースプリングは車高調にしか使えないのですか?
ちょっと車高をあげでクロカンぽくしたいと考えています。(2~3センチ)
無理でしょうか?
また、リアはサスペンションとショックが別々の足回りです。
対応できるでしょうか?
メインスプリングとサブスプリング(ヘルパー)を繋ぐアダプターの作成や、スプリング座面の形状などを工夫すれば使用不可と言うわけではありませんが、市販の物は通常、直巻きスプリングと組み合わせるため”主に”車高調用となります。
また、解説しております通り、メインスプリングのプリロードを抜いた分(バネを遊ばせた分)車高が下がり、その遊びを埋めるためのテンショナーですので、ヘルパースプリングを使用して車高を上げると言う場合は、0G状態で線間密着させて”ただのスペーサー”として使用するか、メインスプリングのレートを遥かに大きく上回るレートのテンダースプリング(高レートのヘルパー、サブスプリング)を組み合わせると言う事になると思います。
ただ、この様な方法で車高を上げるのは非効率的ですので、同様の狙いがある場合は単純に高レートの硬いスプリングを使用したり、単なるスペーサーを追加して見掛け上のスプリング全長を伸ばす(または見掛け上のショック全長を伸ばす)と言う方法を取るのが一般的です。
例えば、スズキ・ジムニーなどで主流のショックとアームの接続部に数センチの継ぎ手を取り付ける、ストラットタワーとアッパーマウントの間にスペーサーを入れるなど。
尚、セパレート構造のサスペンションでヘルパースプリングを用いると、走行中のスプリングの撓みによってアダプター部分が外れて脱落する恐れがありますので大変危険です。
中には金属ワイヤーなどでメインスプリングとサブスプリングを固定したり、溶接などの方法で使用される方もいますがお勧めできません。