今日は愚かな昔話をしますよ(笑)

サーキットなどを走っている人なら、誰でも一度はチューンドカーに憧れた事があるはず。

現実的に普段も使う車でレーシングカーの様なマシンを作るのは無理だとしても、吸排気パーツを交換したり、エアロパーツや追加メーターを取り付けたり。

もっとコアな方であればエンジンを開いてハイカムを組んだり、ボアアップしたり、ミッションなどの駆動系にまで拘る方もいますよね。

チューンドカーと言えば、主に後者の様に車両構造やエンジン性能を大幅に変えてしまう、所謂”改造車”を指す事が多く、前者の様に気分的な要素やファッション性に留まる小改造を”ライトチューン”などと呼び分けたりする。

これからチューニングする私のBP-VEエンジン(笑)

実のところ真の意味でチューンドカーを知る者など、車好きの中でも少数派。

好きを通り越して中毒に至っている重症患者のみである。

通常のカーライフを送っていれば生涯知る事のない世界の話であり、興味半分で向こう側の住人に訊ねても異世界の言語で話は通じないので、好奇心を満たすためには自ら扉の向こうへ行き、理性を保ったまま帰ってくるしかないのである。

チューンドカーとは何なのか?

車を改造するとどうなるのか?

今日は、憧れや好奇心の先にある向こう側の世界を、少しだけ覗いてきた体験談を。。。

◆チューンドロードスターを製作する事になった経緯

◆エンジンチューンはどれくらい費用が掛かる?

◆衝撃!レース用2.1Lユニットの圧倒的パワー!

◆旬は短い?それとも他に原因があるのか?

■チューンドロードスターを製作する事になった経緯

昔からの常連さんなら、私がRX-8からNDロードスターに乗りかえるそれ以前、NBロードスターに乗っていた時期があるのをご存知の方も多いと思います。

1台目は新車で買って、2台目は中古でスーパーチャージャー付を買って…と、ここまでは良いとして。

2台目に買ったS/C仕様が予想に反して低速が鈍く不満を感じたわけですよ。

最近の遠心タービン式(ROTREXなど)の様に機械抵抗の少ないタイプなら良いのでしょうが、私のNBロードスターに装備されていたのは、過去にマツダスピードやノガミプロジェクトが取り扱っていたジャクソンレーシング製の旧式ルーツブロアで、コンプレッサーを回すために大きなパワーロスが生じると言う意外な盲点に気付いたわけです。(低速の出力やレスポンスを補うために、スロットル位置をサージタンク前に変更する下流式などへの改造も流行っていた)

例えばコンプレッサーを回すのに20馬力をロスして50馬力を発生させれば、差し引きで30馬力UPと言う計算であるが、低速に期待したいS/Cが実はそこそこ回らないと役に立たないどころか、機械抵抗でロスするだけのデメリットとして働く場合がある。

しかし、仮にもS/Cである。

今まで鈍足な車に乗っていたのに、炸裂するパワーを一度味わってしまうと、もうあの頃には戻れない(笑)

私は好奇心に駆られていた。

今までなんとなく胡散臭いとか、社会のはみ出し者が通うアウトローなイメージを持って避けていたが、走り屋御用達のチューニングショップと言うものに任せたら一体どうなるのか?

私が後にも先にも唯一1冊だけ買った自動車雑誌である、有害図書のハイパーレブを見て、静岡県のあるショップに電話をかけてみたのである。

これが2009年4月の事だ。

まず私は、現在のロードスターがS/C仕様である事、現状の特性に不満がある事を伝えた上で、機械的な調整やECUセッティングで改善出来る可能性があるのかを相談した。

すると、ECUチューンで低速をある程度補う事は可能だが、過給が完全にエンジン回転数に依存するS/Cではプーリー比を変えるなど部品が必要となるため割高となる事や、期待するほど改善出来るのかはデータが揃っていないのでやってみるまでわからないと言う回答であった。

S/Cに拘るのであれば、それを得意とするノガミプロジェクトさんの方が良いだろうと、まさかの他社名を向こうから出してきたのだが、話はここから変わってくる。

しかし、うちもチューニングショップとしてS/Cにも負けないメニューを提案できる自信がある。と言い出したのだ。

もし同じ様にお金を掛けるのであれば、うちが得意とするNAの良さを活かしたメカチューンでトライしてみませんか?

もはやポン付けの過給機をECUのセッティングでなんとかしようと言った、お手軽チューンの領域ではない。

エンジンチューン…甘美な響きである。

しかし、当然それなりにお金も掛かるので、こんなバカバカしい事に大金を注ぎ込むなど愚行。

エンジンをチューニングした!などと得意気に語るのは、私はバカですと公言している様なものである。

なので、賢い私は迷わずこう答えた。

「じゃあ、それで!」

私は好奇心に負けたのだ。


■エンジンチューンはどれくらい費用が掛かる?

サーキットを走ったり、競技で同じ土俵に立とうと思ったら最低限掛かる費用ってあるじゃないですか。

一般的な消耗部品やドライバーの装備を除くと、私が思うに足回りで20~30万円、デフに15~20万円、バケットシートに10万円前後、そしてレギュレーションの範囲内で履けるタイヤを装着するためのホイールが1セットは欲しいので20万円~と言ったところか。

もちろん、上手く中古部品などを活用すれば費用を抑える事は可能だが、全て新品を使用して難しい作業はお店に任せるなどした場合、最短で向かっても80~100万円程度は掛かるわけで、エンジンチューンはこれらとは別に追加の費用が発生する事になる。

エンジンをチューニングする様な層が、走る上で基本的な部分をノーマルのままなどほぼ有り得ない事だし、なんならここにブレーキ強化だのエアロパーツワイドボディキットだのってメニューが追加されても不思議ではない。

なので、エンジンチューンなどと言ったメニューに手を出すのは、ライトチューンと呼べる範囲でやれる事はやり尽くした層が辿り着く境地と言える。

さて、いよいよエンジンチューニングを施すと言う話が進み始めましたが、はっきり言ってこの当時は相場など全く知らない。

一体いくら掛かるのか見当もつかないし、際限なく請求されても困るので、暫定で300万円を上限に予算設定した上で「200万円でどこまでできるのか?」と相談してみる事にした。

足りると思います?大した事もできないまま終わりそうな気がしますよねえ?

しかし、意外な事が判明したのである。

これが、意外と安いのだ(笑)

意外と安いとは言っても、思った程ではないと言うだけで高額出費である事に違いはないし、車種によってはこんなモンじゃ済まない例もあると思いますが、実際に当時の請求書の一部をお見せして詳細を説明する前に、私が支払った金額をお伝えしましょう。

私がこのチューニングに支払った代金は税込で1,835,831円(当時の消費税率は5%)となっており、これに往復の陸送費が乗っかって200万円を少しオーバーとなっているのですが、安心してほしい。

実はこの180万円を超える金額の内、単純にエンジンをチューニングするだけなら1/3以下であり、ほとんどは本来ステップアップで選択すべき”余計なパーツ”の金額が含まれている。

…と言うのも、単純に見積もりをして欲しいと伝えれば良かったのかもしれないが、いきなり200万円と言う金額を伝えた事が問題だったのか、色々と勧められて「せっかくだし、やっちまうか!」みたいなノリでガンガン行ってしまったのが最大の原因である(笑)

では、ここから先はエンジンチューニングに必要となる費用の詳細についてお話しましょう。

まずは基本的な部分なのですが、当然エンジンの着脱費用は避けられません。

それに加えてエンジンのO/Hを伴いますが、基本的なヘッドチューンであるポート研磨やECUのセッティングと言うライトなメニューで済ませるなら、ざっくりと見て40万円程度の予算で仕上がります。

これでも十分体感でき、ラップタイムにも表れるレベルで速くなる様なのですが…

私が初期に検討していたのは、カム交換まで含めた基本的なヘッドチューンを一通りコンプリートした形。

ここまでメニューに加えた場合で、おおよそ50万円前後で済んでしまうんですよ。

ね?高いっちゃ高いけど、恐らく多くの方が想像しているエンジンチューンの金額から考えると、意外と安いと思った方が多いのでは?

まあ、ここまで済ませたらヘッダーからマフラーまでの一式や大径スロットルエアクリーナーなんて吸排気系もセットでやりたいところですし、私は実際その辺も含めて事前に交換を済ませた状態で引き渡していますので、それらを合計するなら80万円くらいって事になるでしょうか。

そう考えると、実はエンジン本体のチューニング以上に、附随するパーツの費用が高額化して行く事に気付くと思います。

とは言っても、この程度のチューニングでは精々20馬力UP(実際には十分過ぎるくらいですが)がいいところで、同程度のパワーアップを望むならポン付けの過給機をセッティングしてもらう方が安上がりと言われる理由もわかる気がします。

さて、お気付きの方もいると思いますが、エンジンのチューニングはシリンダーヘッドだけじゃないですよね?

シリンダーブロック側、所謂腰下のチューニングと言うものがあり、シリンダーホールを拡大して大径ピストンに交換するボアアップと言うメニューがある。

ご察しの通り、シリンダー径が大きくなれば排気量が増すので、引き出せるパワーの上限が増す事を意味している。

このメニューの場合、通常のボアアップであればエンジンブロックの加工賃も掛かりますが、主にはオーバーサイズのピストンが追加で必要となるくらいで、程度によって大容量インジェクタ燃料ポンプが追加となる程度です。

…が、それを上回るメニューも存在する。

車をショップに預けて間もなく、予定していなかった作業が追加となったのだ。

「開発中だった2.1Lキットのテストが終わり、いよいよ発売となりました!」と連絡が入ったのである。

まだ、車が到着したばかりでエンジンを降ろしてもいない段階でこんな営業を掛けてくるなんて、どこのバカが買うんですか。

こんなもの考慮にも値しない。即答ですよ。

「いいですねー!それで!(錯乱)」

これなんですが、大径ピストンのみならず、鍛造のクランクシャフトとコンロッドまで組み合わせたストロークアップが加わり、大幅に排気量がアップする事となる。

もちろんそれに付随するパーツも必要となるので、部品だけで約60万円である。

ここまでを整理しましょう。

先程の基本的なヘッドチューンまでのメニューで約50万円です。

ここに2.1Lキットを追加して、単純に部品代を足しただけで110万円となりました。

しかし、排気量が増大し、それに比例してエンジンが要求する空気の量も増すのだ。

更に営業トークは炸裂する!

2.1Lキットの性能を最大限引き出すには、やはり吸気系の見直しは必要だと思います。

…との事で、追加で勧められたのが4連スロットルキットである。

附随するパーツなども必要となるので、これらを合計すると追加の部品代は40万円弱と言う事になる。

先程の金額に合計すると、ここで150万円に到達。

単純にエンジンをいじくり回す費用を、部品代が遥かに上回っている。

水冷式オイルクーラー(後の製品版と若干異なる)

結局、出力が上がった分、熱量も増加するので冷却系の強化を~などと言う話も加わり、新作と言う水冷式オイルクーラーや強化ラジエターを追加したり、エンジン出力の増加に見合ったクラッチを追加したりと、現状このショップで出来るほぼ全てのメニューをやり尽くした感じで仕上がる事となりました(笑)

それから3ヶ月ほど預けて公認車検用の書類まで一通り準備してもらい、一部値引きまで含めた最終的な請求額が、最初にお伝えした約180万円と言う金額である。

実のところ、作業が終わった納車後も新作のヘッダーが発売と営業のメールが来て買っちまったり、フジツボにワンオフでマフラーを作ってもらったりなど、最終的には最初に上限と決めていた300万円の予算に達する直前まで散財する事となった。

この世界はやりはじめたらキリがないのだ。

最近ではこんな事でも銀行の自動車ローンが組めたりするので、当時に比べると手を出し易い時代にはなっているのかもしれませんが、決して安い金額ではないので、賢い方なら1ランク上の車を買った方が良いのは言うまでもありません。

…が、それでは好奇心は満たされない!

人生をより豊かなものにするには、体験し、知る事が重要であるし、知って初めて評価する権利、説得力が生まれるのだ。

ハイブランドの時計やバッグを持った事もない人間が、100均やホームセンターの安物で十分だと言ったところで、仮にそれが正しい意見だったとしても説得力はない。

良い物に触れて、初めて物の良し悪しがわかる様になるのであって、経験に乏しく物差しも持たぬ者にそれを測り評価する事は出来ない。

チューンドカーの良し悪しを語りたいのであれば、少なくともその入口に立たなければ語る資格は無いのである。

知りたければ勇気を出して一歩前へ。

それができないと言う”まとも”な方は、これからどれほど愚かな事なのかお伝えするので、散財しなくても済む様に最後まで読んで(笑)


■衝撃!レース用2.1Lユニットの圧倒的パワー!

車をショップに預けてから約3ヶ月…いよいよ完成したロードスターが帰って来る!

陸送のトラックが自宅前に到着し、車を降ろすためにエンジンが始動する瞬間である。

キュルルルル…

ズドォーーーーーーーーーーンッ!!!!

突如、早朝の住宅街に響き渡る轟音(汗)

あまりの音のデカさにびっくりして、思わず後ろへ引いてしまう。

ドドドドドドドド…

アイドリングしているだけで自宅の窓ガラスが揺れている(笑)

なんだこの音は?どう言う事だ??

察しの付く方もいると思いますが、NAで排気量が増したり、吸排気効率が向上すると思わぬ大音量となる事がある。

フジツボに製作依頼したワンオフマフラー

この時に使用していたのが、マキシムワークスのヘッダーサードのセンターパイプ、コーンズのN-Zeroマフラーであり、保安基準は満たしていたがそもそも静かとは言い難いものだったので、その内もっと大人しい物へ…なんて考えていた矢先の事。

あくまでもノーマルの1.8Lに装備する事が前提で設計されているパーツなので、2.1L化した車両で保安基準を満たせる保証などないわけだ。

とにかく煩い。ここまでくると公害以外の何ものでもない。

このままでは、近所の奥様方に「あそこの旦那さん、ちょっと足りてないわよ」とか噂されてしまうと、明るい内に表を歩けなくなってしまうので、最優先で何とかしなければならない。

直後に、フジツボにマフラーをワンオフで作ってもらったのも、この音をなんとかするためである。

いきなり課題が生じると言う幸先の悪いスタートだった。

とりあえずそんな話は置いといて、仕上がったロードスターをご紹介しましょう。

NB8C改、2.1L+4連スロットルロードスター誕生である!

エクステリアはNBターボ用のヘッドライトやリップスポイラを装備しているが、派手なエアロパーツは装備せずオリジナルを保っている。

ボディカラーはクラシックレッドにホワイトのストライプでちょっとやんちゃな仕様である。

元々、公式戦のジムカーナ用にと考えて製作した車両なので、当時のレギュレーションでB車両(ナンバー付改造車クラス)の規定を満たしたもので、ちゃんと公認を得て3ナンバーとなった保安基準適合車両です。

ちなみに、性能証明関係の書類一式は必要ですが、改造範囲の申請理由は「走行性能向上のため」とか、テキトー理由を書いておけば問題なく通るので、難しく考える必要はない(笑)

要は走行に差し支えない事が証明出来ればOKって事。

そして、こちらが本題の2.1Lエンジンだ!(演出のためファンネルのフィルターは外してあります)

当時これを見た人は「キャブですか?」などと質問してくる人も多かったですが、電子制御のインジェクションで、スロットル制御はワイヤー式のアナログ方式となっている。

それでも、炸裂する吸気音はキャブ同等にガボッ!ガボッ!と言った迫力のあるサウンドを奏でるのだ。

ハードなチューニングまではしなくても、4連スロットルは欲しいと言う人が多いのも頷ける。

そして、何よりこの見た目の美しさよ。

今時は見る機会も少ないだろう、NAチューンの境地4連スロットル

独立したスロットルバルブが各シリンダー毎に1つずつ用意されており、1本のアクセルワイヤーで4枚のバルブをまとめて制御するため、メンテナンスやセッティングの際は吸気圧を測りながら同調を取ったりしなければならないのが面倒だが、アクセル操作に対して凄まじいレスポンスを見せてくれる。

コーナーを立ち上がり、加速するために足をアクセルペダルに移そうと思った時には既に加速が始まっている超光速レスポンス!光よりも速くスロットルが開く(そんなわけない)

スロットルが剥き出しと言う構造上、吸気管は無くなるので、エアフローセンサーを廃止して圧力センサースロットルポジションセンサーでマップ制御とスロットル開度補正を組み合わせるDジェトロ方式に変更となる。

サーキット走行だけに絞るなら、スロットルポジションセンサーだけに頼るα-N制御の方がマップのセッティングはイージーだが、ライトONやエアコンなどの外乱に弱くなるので、どちらで制御するかは用途や好みで選択する事となる。

エンジンの制御方法が異なるためECUはフルコンに置き換えとなり、大体の事には対応出来るが故障の際に純正ECUの強みであるダイアグノーシス(自己診断機能)は使えなくなるので、トラブルシュートにはアナログな消去法でノウハウが問われてくる。

後にこれで苦労する事となるのだが、この時はまだそんな欠点には気付いてさえいない。

気になる納車時点でのスペックはレブリミット7600rpm、最大出力は実測値で225馬力、最大トルクは22.4kgf/mとなっていたが、後に排気系を変更してリセッティングを加え、最終的にはNAエンジンのまま240馬力弱まで絞り出した。

可変バルタイ付の後期エンジンなので、それらを駆使してアイドル回転域付近からノーマルのピークトルクを超え、3000rpmを待たずして弾き出した最大トルクをリミットまでフラットに維持する、言うなれば全域パワーバンドと言った今時のエンジン特性に近いものである。

高回転まで回してから炸裂するのではなく、下から上までさも当然の様にぶん回るエンジンフィールは衝撃的だった。

また、意外と気付かない人も多いが、地味に凄いのは4連スロットルハイカムを組み合わせているのに、800rpmで安定したアイドリングが可能であり、ISCVも装備されているのでライトやエアコンONでも自動的にアイドルアップ制御が働き、ストールやハンチングなどしない。

どうすれば吸気側への吹き返しを抑えられるのか、仕組みを理解してVVTの制御を調整すれば、低速域のオーバーラップを抑え、アイドル域が苦手と言うデメリットを完全にスポイルする事が可能なのも後期1.8Lをベースとするメリット。

今までは220km/hまで刻まれたフルスケールメーターもただの飾りだったが、これからは普通に到達する。

…と言うより、上限を振り切って目測で235km/hオーバーくらいまでは確認しているが、それ以上出そうな気配さえあるエンジン。

尚、このロードスターに横滑り防止装置やトラクションコントロールはもちろん、ABSさえ付いていないし、出力は大幅にアップしているにも関わらず、タイヤサイズはオリジナルのまま、ボディのワイド化やウイングの装備もない。

はっきり言って200km/hオーバーで走らせるなど不向きなパッケージだし、正直言って危険。(そもそもジムカーナ用に製作したので想定していない速度域)

スペックを見れば想像もたやすいが、ロードスターとは思えぬ加速Gでシートに押し付けられると言う表現がそのまま当て嵌まる。

ショートコースなどを走ると、1速でアクセルを踏み込めば、踏んだ瞬間にレブにぶち当たると言う程凄まじいピックアップで、なんなら2速のままヘアピンを曲がるとか、ファイナルギアをハイギアに振っても全然問題なく加速しそうなトルクです。

それは、外から見ていてもわかる程であった。

かなりハードにチューニングしたエンジンなので、少しでもトラブルのリスクを抑えられる様にと追加メーターの類を初めて取り付けたのもこの車。

後にも先にも、私が追加メーターなど取り付けた車はこのロードスターだけです。

また、A/Fメーターノッキングメーターは、後に自分でECUをセッティングするために取り付けたもので、ショップに預けている間にマイコン内燃機関工学などの参考書に目を通したりと、少しでも理解を深めようと言う努力もしました。

短時間では専門家の様な知識は得られなくても、全く知らないよりはイメージくらいできれば随分マシだし、何より知らない分野に視野を広げれば好奇心も満たせるからだ。

色々と試行錯誤する楽しさがあったのもこの頃でしょうか。

後に自分でECUのセッティングにチャレンジした際に、ログを収集していて気付く弱点は剥き出しのスロットルであるが故の吸気温度の高さ。

エンジンルーム内の熱気を直接吸う事となるので、条件次第ではあっさり80℃を超えたりする。

なので、フロントバンパー内のエアガイドを加工して、フォグランプの穴からヘッドライト裏に新たに開けた穴へ風が抜ける様に細工をしてみたり。

特にダクトホースなどを通さなくても、逃げ場のない空気はヘッドライト裏の穴を通ってスロットル前に送り込まれる事となるため、対策後の吸気温度は40~50℃で安定する様になりました。

吸気温度を下げる狙いは主にノッキング対策であるが、冷却のために仕方なくリッチに振っていた空燃比をストイキ寄りに薄める事も出来るので、パワーが出し易いと言った狙いもある。

これは一例ですが、この様な熱害対策やスロットル内に取り付けるベンチュリーカラーのサイズを変更してみたりと繰り返しながら、収集したログを頼りにECUのマップ編集を進めるのである。

こうして完成後も更に煮詰めて行ったロードスターで、満足する結果は得られたのか?

それが何とも言えない感じなのだ。

ノーマルで走っていた時は、一本クヌギに限定して言えば34秒半辺りの記録まで伸びていた頃で、現在のタイヤに比べれば当時のタイヤはグリップ力で明らかに劣るので、そう考えるとかなり健闘した記録ではある。

これ以上は無理だと思っていたが、2.1Lではクヌギランナーのランキング上はロードスター初となる33秒台を叩き出し、自己ベストでは33秒6(当時の使用タイヤ:前後205/45R16 DIREZZA Z1)まで到達したのですが…

大金を投じて、ノーマルのタイムをわずか1秒しか更新出来なかったのである。

まあ、パワーが大幅に増して本来のバランスは完全に崩れているので、ボディをワイド化して太いタイヤを履かせたり、リアウイングを装備したりと言った手段を取ればもう少し伸びた可能性もある。

とは言っても所詮は”可能性”の話であるし、何よりチューンドカーを作っておきながらノーマルのスタイリングを崩したくないと言うつまらない拘りから、車体のアップグレードを怠った結果、ただただパワーに振り回されて扱い難い、手に余る車になってしまったのだ。

とんでもない加速力や、コーナーで危険な挙動を見せるその刺激に魅了され、暴れ回る車を力でねじ伏せる自分に酔っていた。

速く走るために作ったはずが、振り回して遊ぶと言うスタイルに変わってしまうなど、これはもう愚の骨頂と言わざるを得ない。

そして、自分の走り方がおかしな方向に向かっている事に気付き始めた頃には、軌道修正しようにも、既に手遅れの状況となりつつあった。。。


■旬は短い?それとも他に原因があるのか?

まず、勘違いしないでほしいのですが、私はハードなチューニングは愚かな行為であると言ってオススメはしていないが、ロードスターをチューニングした事を後悔しているのかと言うとそうではない。

むしろ良い経験になったと思っているので、あなたに金銭的な余裕と飽くなき好奇心があるなら、一度は経験してみてほしいと思う。

対して、ギリギリの生活の中で無理をして手を出す事は絶対にしてはならない。

そうでなくとも、苦労やリスクは増えるので尚更である。

走り方の方向性がおかしな方向に向かっている事に気付いた私は、再びタイム更新を目標に軌道修正に入る。

それでも、ボディのワイド化などには手を出さず、あくまでもノーマルフェンダーに収まる範囲内でタイヤのサイズアップを図った。

この頃、ただただ刺激を追い求めて、ホームストレートで3速まで入る様なローギアのファイナルに変更していた事もあり、タイヤの幅だけでなく大径化する事で2速のリミットに収まる様にした。(厳密にはレブリミットを8000rpmまで引き上げた事も含まれる)

使用したタイヤはこの当時としては最高クラスのハイグリップラジアルである、DIREZZA Z1を選択。

フロントに205/50R16、リアに225/50R16と言う組み合わせとした。

しかし、一度変なクセが付いてしまったらなかなか抜けるものではなく、34秒台を辛うじてキープはしているが全然伸びない。

スランプに陥って苦戦している間に、いよいよタイムリミットが近付こうとしていた。

3年である。

これを長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれだと思うが、調子よく動いていた期間は3年だった。

クヌギランナーを開催し、タイムアタックを行うが、インコースのS字を抜けてバックストレートに立ち上がったところで全然加速しないと言う症状が発生。

アクセルを抜くとそのままエンストすると言う事態に。

なんとかすぐにエンジンの再始動はできたものの、初めて経験するぐずってまるで吹け上がらない様子に「これがエンジンブローなのか?」と嫌な予感が走ったが、幸いにもそうではなかった。

どうやらスパークプラグのかぶり症状の様で、この日はプラグを乾かしたりと言う方法で普通に走る分には問題ない程度に復旧は出来ました。

しかし、その日を境にアクセル全開で加速をすると、度々同様の症状が現れる様になってくる。

その頻度は日増しに悪化していった。

ここからが問題なのだが、フルコン化しているためダイアグは使用出来ないので、予想出来る範囲でアナログなトラブルシュートが始まる。

まずは失火を疑って、スパークプラグはもちろん、IGコイル一式にプラグケーブルなどを交換して様子見すると、一時的に治まった様に思われたがすぐに再発。

続いて燃料を噴き過ぎているのかと思い、制御マップの見直しやインジェクタ燃料ポンプ燃圧レギュレータの交換などを行うが治る気配はないし、かぶりの症状ではあるが燃料フィルターなども念のために交換したり。

ECUのログを確認しても制御上は妙な動きをしている気配も見当たらないが、こうなったら思い付く範囲でセンサー類を総交換してしまおう!と、カムポジションセンサーやらクランク角センサーやら、水温や吸気温センサーに圧力センサー、VVTのアクチュエーターなどなど、思い付く範囲で制御に絡んでくる電子部品を手当たり次第に交換しまくり、ダッシュボードまで取り外してエンジンルームから車室内のハーネス交換なども徹底的にやったが、それでも症状が消えないのである。

となると、アナログ制御されている機械類なのか?

コンプレッションゲージで念のために圧縮なども測定してみるが、圧縮抜け等は起きていない様なのでエンジン本体は無事な様子。

タイミングベルトの交換なども行ってみるが、それでも直る気配がなくいよいよお手上げとなったため、チューニングしたショップに相談したところ、ECUに問題があるかもしれないと言う事で修理に出したのだが、これが点検しても特に問題は無いと言う。

そして、この辺りから雲行きは怪しくなっていく。

チューニングの相談をしていた頃はどんなに初歩的な質問をしても、詳しく丁寧に答えてくれていたが、不具合が出てきて面倒な事になってくると段々と対応が素っ気なくなってくる。

ついには、まともに相手にされなくなるのだ。

地元のお店で、日頃からメンテなどで付き合いがあればもう少し対応も違うのだろうが、今となっては定期的に消耗部品を注文する程度の付き合いとなっているので、大して金も落とさない面倒な客にしか見えていないのだろう。

向こうも商売なので、大して金にならない客は相手にしたくないと言う気持ちもわからなくはないが、大金を払ってチューニングしたのだから、困った時のアドバイスやサポートくらいはあるだろうと期待してしまう。

しかし、そんな甘い考えが愚かなのである。

チューンドカーとはそう言うもので、初期不良や明らかな作業ミスならともかく、不具合が生じたからと言って誰が責任を持つわけでもない。

自分である程度理解して、コンディションを保てる者が、自己責任でやるしかないのだ。

保安基準は満たしているので、ディーラーでも通常の整備は受け付けてくれるが、エンジンの点検や修理となると話は別。当然断られる。

つまり、不具合が生じたその瞬間から孤立する。孤独な戦いが始まるのである。

これこそがチューンドカーの真の醍醐味(笑)

エンスーと呼ばれる人々や、プライベーター(プライベートチューナー)と呼ばれる人々がいる。

そう、早い話、中毒者たちである。

この中毒の世界を体験できるのは、ここに辿り着いた者だけだ。

チューンドカーを手にし、乗っているだけではこの世界を知ったとは言えない。

壊れて初めて、チューンドカーの世界を知る事ができるのである。

トラブルさえも快感に感じられる様な人でなければ、この世界に居続ける事は難しい。

当然の様に、壊れても金さえ払えば簡単に修理出来ると考えていた私にとって、この世界はあまりにも辛すぎた。

結局、誰にも頼る事は出来ないので、独りで数年もの時間を掛けて原因究明を進め、最終的にいくつかの故障と、主にはフリーダムのバグであると原因を突き止めるには至ったものの、修理完了を機に手放す事を決意。

これにて、私のチューンドカーライフは終了である。

二度と車を改造しようなどとは考えないだろう。

…しかし、後にコレに近い何かのハンドルを握る事になるが、この頃の私はまだ知る由もなかった。