■目次

◆スタビライザの働き

◆スタビライザのセッティング

◆プッシュ式とプル式の違い

◆スタビリンク調整の必要性

■スタビライザの働き

サーキットを走る車好きなら今更スタビライザの話なんて…と思うかもしれませんが、学校の授業じゃないですから、まあちょっと聞いてくださいよ(笑)

わかっている様で実は良く理解していない方も多いかもしれませんよ?

車高調を買ってスプリングやら減衰やらをセッティングだー!って散々いじくり回しても、スタビライザのセッティングについて語る人ってあまりいない印象を受けます。

だって、こんなモブパーツ、ハードなスプリングを使ってたら効いているのかどうかも良くわからないし、効かせ過ぎたら動きも硬くなってロクな事はないじゃん。

初級者が、柔らかい脚でロールが怖いだのなんだのって言ってる間の補助輪みたいな部品でしょ?

バチーンッ(ビンタ)

スタビライザに謝れ!!

モータースポーツを始めて間もない頃は、手軽にロールを押さえてくれるスタビライザで随分走り易くなったと感じたり、車高調なんて買うお金が無くても1~2万円も出せばちょっぴりスポーティーな動きを得られたりと随分お世話になった人も多いパーツだと思いますが、上達するにつれて段々と甘く見る傾向も出てくるパーツ。

しかし、実はこいつのセッティングを考えるのは超難しいので、効果の良し悪しを判断し難い。

そもそも、車を旋回させるにはしっかりロールさせてやる必要があると散々言ってるのに、車高調だのスタビだのと反発力を増してロールを抑えると言う一見矛盾した様なセッティングに仕上がって行く理由は何なのか?

ロールし過ぎると~荷重が~アンダーが、オーバーが~…

そう。そこがハードなスプリングを使う理由であったり、スタビライザの目的のヒントでもある。

実は凄いスタビライザの働きについて触れる前に、スタビが何なのか良くわからないと言う方のために、基本的な動きについてちょっとおさらいしてみましょう。

これはNBロードスターに取り付けられた実際のリアスタビの写真です。

スタビライザはボディ(メンバーなど)にブッシュを介して固定されており、左右のサスペンションを繋ぐコの字型の所謂トーションスプリングの事である。

スタビはスタビリンクを介して(直付けの車種もある)サスペンションアーム”など”と接続されており、理論上はロール軸にのみ作用する。

理論上は、と言うのは、実際の路面は国際格式の様なサーキットであっても完全に平滑な理想路面ではなくデコボコしているわけで、ストレートを加速中であってもサスペンションはいずれも独立した動きをしているからです。

実は常に少なからず機能しているわけで、ステアリングを切った時のフィーリングや切り込んで行く時の過渡特性、旋回中の加減速の動きにも影響が出るので、むしろサーキットに比べてデコボコの目立つ一般道を走る事の多いユーザーの方が、スタビライザを強化したら程度こそあれ直進安定性の変化を感じたり、運転が疲れる、乗り心地が悪化したと言うのもあり得る話なんです。

多くのカタログには乗り心地は変えずにロールだけを抑えるなんて書かれている事がありますが、それはあり得ないと断言しておきます(笑)

ちなみに、スタビライザの動作原理自体は非常にシンプルなもので、ロール軸を含む動きが生じた際に、縮み側と伸び側のサスペンションストロークに合わせて両端のレバー部分が捻じれる様に動きます。

この際に捻じれたスタビは元の形状に戻ろうとする復元力、これが所謂バネの反発力となって、縮んだ方を起こそうと、伸びた方を引き下げようとする事でロールを軽減する。

まあ、この機能については基本なのでご存知の方も多いと思いますが、本題としてスタビライザでロールを抑える目的は何なのかを知っておく必要があります。

脚を固めてロールを抑えるのにも同じ事が言えるのですが、余計な介入がなければ独立して動くサスペンションと違い、スタビライザは効きを強くしていけばいく程、左右の動きに制限を掛けてトーションビーム(リジッドサスペンション<車軸懸架>)の特性に近付くので、路面追従性の低下を招く。

即ち、トラクション性能の低下と言う結果に繋がる。

やっぱりロクな事ねーじゃん!って思うかもしれないが、実はそうでもない。

何かとトレードオフって事になる。

1つ目の例を挙げると、雨の日なんかに軽トラでドリフトして遊んでみたりすると、全然前には進まないけど、アングルを調整する上では意外とスライド中のコントロール性が良い事に気が付いたりしませんか?(笑)

極端に表現すると、路面追従性を優先して只管グリップする足で走ると、当然安定して良いタイムは出易いし、安心感がありますが、この様な足でグリップ限界を超えて滑り出した場合、ややコントロールがシビアになる傾向があります。

と言うのも、単純にグリップが回復してくれるなら良いですが、アクセルの加減やハンドルでスライドを制御してリペアしようと思っても、なまじグリップしようとするせいでグリップ限界との境が分かり難いためです。

その点では、軽トラの様にまるで動かないガッチガチの足の方が、オン・オフがハッキリしていて滑っている時の動きが分かりやすいわけですね。

NDロードスターでS以外のグレードにリアスタビライザを装備しているのも、ピークのグリップより滑り出す瞬間の感じ取りやすさや、スライド中のコントロール性を与えるためだと説明されています。

でも、足を固めちゃうと細いスタビの有無ではその差を感じ難いですし、主目的であるロール制御についても、サスペンションのメインスプリングで前後のロール剛性を整えていれば、スタビライザは不要とも思えますが、本当にそうでしょうか…?


■スタビライザのセッティング

コントロール性も悪くない。ロール剛性も十分となると、スタビライザは一体何してるの?

触れるとしても、ある程度足回りのセッティングが仕上がった後の味付けみたいな物だと言う人が多く、実際おまけの微調整みたいな物だと思います…が。

ちゃんと目的はあるんですよ。

コーナーリングに於いて、荷重移動を発生させてグリップ力の配分コントロールをしてやると言うのは誰もが意識する事だと思います。

旋回中にはしっかりロールさせて外側のタイヤを有効に使って…って、ちょっと待った!

そう、この時、内側のタイヤは何してるの?って考えた事はないですか?

そうです。多少例外もありますが、もちろん内側のタイヤも接地してちゃんとグリップしてるんですよ。

旋回中はロールさせて外側のグリップを最大に持って行く事を意識するので、外側のタイヤだけで走っているイメージにはなりますが、上手い人に話を聞いていると4輪を有効に使いましょうなんて言われますよね。

この時に4輪が発生させているグリップの合計を”トータルグリップ”と呼びます。

しかし、ロールさせて荷重移動を発生させると、外側のタイヤの面圧は上がってグリップが増す反面、内側のタイヤの面圧は下がってグリップは低下します。

この時、内側の低下したグリップ力を、増加した外側のグリップ力で完全にカバー出来ているかと言うとそんな事は起こらず、比較するとロールが増加(荷重移動が大きくなる)するにつれてトータルグリップは低下する傾向にあります。

つまり、コーナーリング時は”最大グリップ”を犠牲にしてでも、スムーズに”向きを変える(曲がる)”事に重点を置いていると言う事なんですね。

当然、グリップする方がコーナーリングスピードは上げられますが、曲がれなければ本末転倒なので、この辺りをバランス良くトレードオフしているわけです。

ここまで説明すれば、スタビライザが何をするのかもうわかったと思いますが、ロール剛性を上げて荷重移動が起こり難くする事で、多少曲がり難くなってでも、最大グリップ(トータルグリップ)を増加させるために効かせるわけです。

難易度は高いですが、自分が許容できる範囲で両方のバランスを調整するのがスタビライザのセッティングと言うわけで、これは更に前後のバランスも調整可能です。

ただ、ロール剛性を上げると言う意味では、ダンパーのメインスプリングを固めるのも同じ事が言えるので、足を固める理由もこれに近いですが、外側が縮まなくなっても内側は伸びますからね。

そこを引っ張り下げてくれるのがスタビライザの役割と言うわけです。

かと言って効かせ過ぎると、曲がり難くなる事はもちろん、冒頭で言った通りリジッドサスペンションに近い特性が目立ってきてトラクション性能が悪化しますので、味付け、微調整に使うと言う認識が一般的なわけです。

スタビを変更した時の印象は減衰力の調整に似ていますが、構造上、前後方向にはほとんど作用しないと言う特徴があります。

また、前後のロール剛性(傾き難さ)のバランスを変更すると”剛性感”に影響が出ます。

極端な前後バランスだと、まるでボディがぐにゃぐにゃになった様な印象を受けたり、ぐにゃぐにゃのボディでもバランスが良いとシャキッとした様に感じたりなんて事も。。。

実はほとんどの場合、ドライバーが感じている”剛性感”など実際にボディが緩いかどうかより、前後のロールの”時間差”を感じている可能性が高いと言うのは以前タワーバーの話をした時にも触れているので、興味のある方は是非合わせてご覧ください。


■プッシュ式とプル式の違い

伸びる方と縮む方で逆転するので、こんな呼び分けが正しいのかはわかりませんが、スタビライザの動作にはプッシュ式とプル式があるのをご存知?

実際にはスタビライザの構造が異なるわけではなく、足回りの構造によるスタビリンクの向きって事になるのですが。

スタビライザを適切に機能させるには、おおよそ理想の可動範囲(捻じれ角度)となる様に、スタビリンクの長さを調整する必要があります。

通常、標準車高ではメーカーが設計した狙い通りとなっていますが、サーキット走行を想定して車高を下げた場合など、静止状態でのスタビの角度が不適切になる場合があります。

スタビリンクの調整についてお話しする前に、ちょっと異なる2つの方式を確認してみましょう。

まずはこちらがプッシュ式となっているNBロードスターのリア。

ロアアームに接続されたスタビリンクが下からスタビライザに接続されており、サスペンションのストロークに合わせてスタビを押し上げる事で機能する構造です。

主にダブルウィッシュボーンやマルチリンクの足回りに採用されています。

続いてこちらは、マツダ2(DJデミオ)のフロントですが、ショックから突き出したブラケットに接続されたスタビリンクが、スタビライザを吊り下げている様な構造になったプル式です。

こちらは先程と違い、ストロークに合わせて縮むショックに引っ張られてスタビが捻じれるわけですね。

主にストラットの足回りに採用されています。

後述しますが、上記2タイプの動作方式にはちょっとした違いがあって、スタビが捻じれる事によってスプリングレートが立ち上がる事に違いはないのですが、サスペンションがストローク量に対して効きの強さの”変化量”が逆の特性を示します。

また、スタビライザの話からは少し脱線するのですが、左右が独立していないトーションビーム(車軸懸架)などでは、その構造自体が強力なスタビライザとして機能するので、スタビ自体が装備されていない車種が多いです。(付いている車種もある)

少数ですがトーションビームでもスタビが装備されていたり、オプションやアフターパーツで追加出来る例は、捻じれ強度の補強(?)として味付けする事が目的の様です。

トーションビームは単なる台車の様に見えますが、実は良く考えられていて、部分的に微妙な板厚や梁の強度差で捻じれたり曲がったり、ブッシュを上手く配置してトーコントロールをしたり、特に最近では複雑な足回りにも匹敵する様な動きをする物も増えていますので、スタビライザとの相性が悪いとも言えくなってきていますね。


■スタビリンク調整の必要性

ローダウンしたら、スタビリンクの調整は絶対に必要なのでしょうか?

実のところ、そこまでシビアに考えなくても大丈夫だと思います(笑)

ですが、これが意外にも違いを体感出来る場合が多いので、やっておくに越した事はないと思います。

スタビを効かせ過ぎる必要はないけど、適切に機能する程度に整えておくと言う考えですね。

大体の車の場合、保安基準を満たすギリギリ近くまで車高を下げると、前項で触れた”適切な可動範囲”から外れる事が多々あります。

どこかに干渉してそれ以上動かなくなるって場合は論外ですが、そうでなければ捻じれる事でスタビライザが機能するわけですから、適切な可動範囲ってどう言う事よ?って疑問に感じる人も多いのではないでしょうか。

よく、車高を下げると「スタビが”バンザイ”した」なんて表現を聞く事があると思うのですが、これは車高が下がる事によって縮むショックやサスアームに釣られて、スタビリンクを介したスタビライザが持ち上がってしまう様子を指しています。

では、実際にバンザイするのかと言うと、この写真の例の様に、実は意外と分かり難い車種も多い(笑)

全然上を向いていない様に見えますが、標準車と比較するとすっごい上を向いているのですが…って、やっぱりこの状態だけを見るとそうは見えないですよね。。。

ロードスターなどは着地状態で覗き込むと、明らかにスタビが上を向いているので分かりやすいタイプですが、都合よく確認し易い車種ばかりとは限らないので、ローダウンする前に”標準の角度”を確認しておく事をお勧めします。

既にローダウンしちゃった車であれば、目安ですがロアアーム上のスタビリンク直下の位置に目印を付け、大体のレバー比を計算してみましょう。

アーム全長に対してちょうどど真ん中くらいであれば、ダウン量の半分伸ばしてやる(例:10mmダウンなら純正リンクより5mm長く)って感じですね。

さあ、このスタビリンクを調整してスタビライザを適切な角度に矯正してやる事が目的なわけですが、肝心なのは、それでどう変わるのか?って事ですよね。

主に2通りの意見を聞きませんか?

スタビがバンザイすると…「効きが弱くなる」と言う人もいれば、いやいや「効きが強くなる」と言う人もいる。

アフターパーツメーカーの調整式スタビリンクの解説でも、メーカー(またはショップ)によってこの辺の意見が食い違っている様に見える事が多いと思いますが、実は意見が割れている様に見える理由には前項で説明したプッシュ式とプル式の違いがあるのです。

実際の車両ではショック自体の傾斜する動きだったり、スタビライザ本体の剛性だったり、各部ブッシュの変形なども起こるので”ただ捻じれるだけ”とはならないのですが、その辺りの外乱を無視した場合、ショック(またはアーム)のストロークはスタビの角度変化に対して直線的である事、スタビは円弧の軌道を描く事、スタビリンクの長さは常に一定である事。

これらの条件から起こる現象は”サスペンションのストローク変化量に対して、スタビの捻じれ角の変化量が一定ではない”と言う事が容易に推測出来ます。

わかりません?(笑)

で、あれば、ちょっと極端な図を描いてみると分かりやすいと思います。

念のため先にお伝えしておきますが、実際のスタビライザの軌道はもっと緩やかなので、以下に示す図の様に露骨な差は出ませんから、あくまでもイメージとしてご覧ください(笑)

こちらがプッシュ式のスタビライザの動きです。

スタビリンクを表している線には3種類の色を用意してありますが、いずれも長さは同じです。

オレンジのリンクの位置でスタビが水平状態…まあ、標準の適正位置としましょう。

そこからストロークしてリンクが青くなっている位置でスタビの捻じれ角をご覧ください。

更にリンクが緑色になっている位置までストロークさせてみると、あれれ?

ストロークの変化量は同じなのに、スタビの角度は半分しか捻じれませんでしたねえ。

そうです。プッシュ式の場合は、角度が大きくなるにつれ、より多くのストロークを発生させないと、後半に向かって効き方が減衰していきます。

この理屈から、予めバンザイしちゃっているとストロークに対して思った程スタビライザの角度が付かず、効きが弱くなるわけです。

なので、プッシュ式の場合はローダウンしたら”ショートスタビリンク“を使用して、突き上げてしまったスタビライザの角度を下げる必要があります。

お?ここで気付いた方もいますかね?(笑)

なんだか、チューニングパーツの定番みたいに「ショートスタビリンク」なんて言葉が一人歩きしている印象も受けますが、ショート化とは限らない例が予測できますよね?

こちらがプル式のスタビライザの動きになります。

下から押し上げていたプッシュ式とは逆に、上から引っ張る構造になりますが、なんだか様子が先程と異なりますね。

先程と同じくスタビリンクの長さは変わりません。

オレンジの位置からリンクが青色の位置に行くまでストロークさせると、プッシュ式と同じ様にスタビの捻じれが発生しています。

ここまでは同じです。

しかし、更に緑の位置までストロークさせてみると、ストローク量は半分しかないのに、スタビの角度は青色までストロークさせた時と同じ角度の変化量となっています。

もうわかりましたね?

プル式の場合は、角度が大きくなるにつれて、要求されるストローク量が減少していきます。

つまり、予めバンザイしちゃっていると、僅かなストロークで強烈にスタビが効くって事です。

プル式の採用例が多いストラットの車種などで、スタビリンクを調整しただけで乗り心地が良くなった!路面追従性が良くなった!なんて言うのも、スタビライザが張り過ぎなくなった事で改善された結果と言うわけです。

一概には言えませんが、プッシュ式に比べて変化を感じ易いタイプになると思います。

なので、プル式の場合はローダウンしたら”ロングスタビリンク“を使用して、引っ張り上げてしまったスタビライザの角度を下げる必要があります。

ただ、先程説明したプッシュ式に使用する”ショートスタビリンク“も、プル式に使用する”ロングスタビリンク“も、別の車種からの流用や汎用品を使用するのが一般的ですが、ヘッドの角度の問題などもあるため、都合よくちょうどいいサイズの物が見付からないと言う場合や、よりシビアに調整を行いたいと言う人には”調整式スタビリンク“と言うパーツもあります。

どちらも一長一短で、長さがある程度決まっておりヘッドの角度にも融通の利かない固定式に対し、調整式はある程度自由度がありますが、ターンバックルの構造をしている都合上、大きな入力があった際にネジ部分が破断し易かったり、固定しているナットが緩んで長さが変わってしまう事があったりと言うデメリットもありますので、頻繁に車高を調整する方でなければ、なるべく固定式のスタビリンクを使用するのが理想でしょう。

NDロードスターのリアスタビリンク

また、冒頭で言った通り、そこまでシビアに調整する必要はないと思いますので、明らかにバンザイしている、下がり過ぎていると言う事がなければ必ずしも交換が必要な部品ではありません。

一例を挙げるとNDロードスターのリアの様に、スタビリンク固定位置のレバー比の都合上、ローダウンしても大してスタビライザの角度に影響が出ない車種もあります。

いずれにせよ、ご自分の車がどう言う方式を採用しているのか、現在の車高でスタビライザの可動範囲はどうなっているのかを再確認してみると良いでしょう。

スタビライザその物を細くしたり太くしたり、調整タイプであればレバー比を変えてみたりなんてセッティングを試してみるのも良いですし、理屈や動作原理がわかれば、意図的に可動範囲をずらすリンク長の調整だけでもスタビの効き方や過渡特性をコントロール出来る可能性が出てくるので、単なるロール抑える棒と言う認識を改めて少し興味が湧いてきたんじゃないでしょうか(笑)