■練習のポイント
○スリップまたはABS作動までペダルを踏めるようになる
○ペダルのリリースを身に付ける<重要>
○初歩的な荷重移動を感じる
■目次
■鉄則を守る
「初級編 入門車両の選択」の中でも少し触れましたが、スライドコントロールが身に付くなどの理由や、タイヤに頼るな!などと無責任に初級者へローグリップタイヤを勧める方がいますが、ハッキリ言ってお勧めしません。
何故なら、全ての基本となるブレーキングや荷重移動を覚えるのに、グリップしないタイヤでは全く話にならないので、技術向上云々以前の問題となります。
車の中で唯一接地している部品がタイヤとなりますので、どんなに良い足回りを使おうと、どんなに強力なブレーキを装着しようと、それを受け止める余裕が無いタイヤでは性能を活かす事は出来ません。
いきなりSタイヤや、トップクラスのハイグリップタイヤを履かせる必要はありませんが、最低限スポーツタイヤは装着してください。
ダンロップならディレッツァ・DZ102、ヨコハマならアドバン・スポーツなどの中堅。
安価な外国製でも、ナンカン・NS-2Rなど。
間違っても、ひび割れたりカチカチに硬化したタイヤや、エコタイヤでスポーツ走行しようなどと考えないようにしてください。
具体的には、まるでグリップしないタイヤでブレーキを踏めば、踏み代も浅い内からタイヤがロックしてスリップしてしまいますし、ハードなサスペンションを使用していれば、サスペンションが動き出す前にスリップと言う結果になってしまいますので、ハードブレーキングや荷重移動の基本すら学べないのです。
まだ下手だから、良いタイヤは…。なんて言う人もいますが、逆です!
安いだけがメリットのタイヤなんて使っているから上達しないのです!
マフラーやエアロなんてどうでも良い物に使えるお金があるなら、まずはまともなタイヤを買いましょう!
以上の鉄則を守った上で、実際に練習を開始してみましょう。
…と言いたいところですが、先にフルブレーキングとは何なのか?と言う事を覚えておきましょう。
単に、ガツンとブレーキを踏み込むだとか、車輪をロックさせるのとはちょっと違います。
制動力をフルに発揮させ、最短距離で減速、または停止する基本的なテクニックの事です。
何のために必要なのか?と言う点ですが、実際にコースを走れば必ずしも「フルブレーキ」が有効とはならないのですが、基本的な理論としては、ストレートを最大限に活かす事が重要であると言う話を以前しました。
ライバルよりも、1メートル短い距離で減速が出来るなら、ストレートを1メートル長く使えると言う事。
その僅かな距離でも、1/1000秒、1/100秒と稼げるわけです。
また、自分のブレーキングで減速出来る距離が把握出来れば、今まで怖かったコーナーの進入でも気持ちに余裕が生まれますので、焦ってつまらないミスをするリスクも減少します。
ちなみに…
実際には、初級者さんでABSを作動させられる人、タイヤをロック出来る人って、意外と少ないです。
急ブレーキなどとは言いますが、一般のドライバーの方なども、いざと言う時に「ペダルを踏み込めない」と言う人の割合が意外と多いと言う事実があり、実際に一部の車にはABSだけでなく、緩い踏力でも強い制動を発揮させる「ブレーキアシスト」などが装備されている車種もあるくらいです。
さて、それでは気合を入れて、ペダルを思いっきり床まで踏み込んでやりましょう!
■ABSでのフルブレーキ
今時の車でABSが装備されていないと言う事は稀ですし、若い人だとABSの装備されていない車を運転した事さえないなんて話も聞きますが。
型落ちの安い車両を購入したら、なんとABSが付いていませんでした!なんて不幸(?)に見舞われる可能性もありますし、中には何の目的もなく「ABSは無い方が良い」なんて理解に苦しむ情報を鵜呑みにしてABSキャンセル、または撤去してしまう奇特な方もいます。
ABSが不要なシチュエーションと言えば、一概には言えませんが一部ジムカーナで該当したり、間違いなく無い方が望ましいのはダートコースや雪道などでしょうか。
基本的にはあった方が良いですが、リアウインドウに誇らしげに「ABS」なんてアピールするラベルが貼ってある様な年式の車は、撤去した方が良いかも…(笑)
理由は単純で、ABSはアンチロック・ブレーキ・システムの名の通り、ブレーキングでタイヤロックを抑制する装置です。
何故タイヤロックするとマズイのかと言う点ですが、タイヤがスリップを起こしている状態では、完全にグリップを失っていますので、挙動が乱れていればそのままスピンしたり、舵も効かないのでそのままコースアウトしてしまう危険性があります。
このロックを検知してドライバーのペダル踏力に関係なく、ブレーキをリリースしてくれるので、スリップを防ぎ、舵もある程度効くと言う理屈です。
ちなみに、ダートコースはABSなしが基本と言うのは、単なるグリップに頼った減速とは異なるからです。
低μ路なので、ABS介入が速過ぎる事もありますが、敢えてタイヤをロックさせ、路面から掻き出した土で輪留めを作って減速すると言う手段が有効となるため、オンロードとは違うわけです。
また、低年式車両のABSがあまり信頼出来ないと言う理由は、現在主流のEBD(制動配分)付きのABSとは異なる点が挙げられます。
前者は4輪の内いずれか1輪でもロックすれば、4輪全てのブレーキを緩めてしまうため、制動力をフルに発揮出来るのは、平坦で真っ直ぐ減速をしている時に限定されます。
対して、現在主流の後者は、前後別の制御だったり、中には4輪が完全に独立して個別制御されているため、歪んだ路面や片輪が水たまりに乗っていたり、旋回中でも効率よく制動力を発揮出来ます。
上級者であれば、ABS並かそれ以上の精度でロックギリギリをコントロールする事は可能ですが、ペダル一つで4輪に油圧を掛ける構造上、4輪を個別にコントロールする事は不可能です。
ブレーキペダルが4つあれば話は別ですが、足も2本しかありませんし、難しいですね(笑)
これを可能とする現代のABSに勝るブレーキはありません。
キャンセルや撤去は、原則として愚行だと考えてほぼ間違いありません。
ここまで説明すれば、ABS付きの車両でのフルブレーキングはどうすれば良いのか、答えは出ていますね?
機械を信じて、ペダルを思いっきり踏み込む。
躊躇なく「ドンッ」と床まで踏む。
これに尽きます。
基本のブレーキングは、ハンドルは真っ直ぐ、ストレートで減速を完了する事です。
実際のシチュエーションでは、旋回Gの残っている内から減速したり、旋回中にブレーキを踏む必要のある場面もありますが、基本的には真っ直ぐ減速です。
どうしても横Gが残る場合は、可能な限り真っ直ぐ減速出来る様にブレーキングポイントの手前で姿勢を安定させておけるように進入ラインを工夫しましょう。
そして、ABS付きで重要なのが「ABSが作動」したからと言って、4輪にフルブレーキが掛かっているとは限りません。
※ABSが作動すると、ペダルに「ガタガタ」と微振動が返ってきます。
上で述べた通り、ABSの特徴は、ロックを検知したら介入してくるので、いずれか1輪でもロックを検知すればABSが作動しますので、残りの3輪はまだまだブレーキを掛けられる状態である可能性があります。
よりペダルを踏み込む、または緩めないと言う意識が必要です。
また、横Gの掛かったブレーキングに強いのもABSの特徴で、非ABSでは困難な姿勢での進入を可能とする場合もありますので、非常に強力な武器になるでしょう。
ただし、良い事ばかりではなく、意図的にロックをさせたい時に融通が利かなかったり、ブレーキバランスを変更しても変化が分かり難く、ブレーキバランスのセッティングに迷う事があると言うデメリットもあります。
■非ABSでのフルブレーキ
おじさん、おばさん、いらっしゃい!(笑)
化石のような、非ABS車の時間です。
…と言いたいところですが、我々中~後年世代だと乗った事がない方が稀なので、主には不幸にもABSの付いていない化石の様な車を掴んでしまった若者に向けた話となります。
ABSとの大きな違いは、何と言っても急ブレーキを踏めば、タイヤがロックして思いっきり滑ると言う点です。
どう聞いても、メリットがあるとはとても思えないですが、実はセッティングの変化が分かり易いと言うメリットがあったり、違和感が少ないと言ったフィーリング面でのメリットはあります。
例えば、駆動輪のブレーキパッドを強力な物に交換すれば、減速が速くなったと感じたり、車高の前後バランスやスプリングレートを変えただけでも、前後の効きの違いが露骨に現れるので、好みのバランスにセッティングしやすいです。
ただし、タイヤのロックが自動で解除されないと言う事は、コントロール不能に陥ってしまう危険性や、旋回Gの残った状態でのブレーキングで挙動を乱しやすいので、この点は特に注意が必要です。
まず、非ABS車でのフルブレーキングですが、タイヤをロック出来ない様ではお話になりません。
なので、まずはハードブレーキングでタイヤをロック出来る様になる事から始めましょう。
いつもの感覚で、強いと思う踏み方をしてロック出来る人と、出来ない人に分かれると思います。
意図も簡単にロックしてしまう人でも、それなりのハイグリップタイヤを履かせるとどうでしょうか?
ロック出来ないのであれば、次の話には進めませんので、まずはタイヤをロックさせる!これを徹底的に練習してマスターしてください。
さあ、タイヤをロックさせる事が出来たなら、激しいスキール音と、車が真っ直ぐ滑走する感覚、もしハンドル操作を加えた人なら、舵が全く効かない事も体感出来たと思います。
これが重要なのですが、タイヤがロックしてスリップしている間は、グリップを失った状態で、スリップしていない間はタイヤがグリップしている状態です。
これは静摩擦と動摩擦の違いで、タイヤがロックして地面の上を滑っている間は動摩擦となって摩擦力が小さくなっている状態です。
厳密にはちょっと違うのですが、大体上のイメージで大丈夫です。
最大限に減速グリップを発揮するには、静摩擦の方を最大限に使う必要があります。
タイヤはロックさせない。且つ、ロックするギリギリの境をキープする。
この操作は、通常はABSが自動で行っている事なのですが、非ABS車はこれを自分の足でコントロールしてやる必要があります。
そのコントロールを覚えるためには、タイヤをロック出来る様になったら、次は「ペダルをリリースする」と言う、勇気の必要な操作となります。
ブレーキをガツンを踏んだ。タイヤがロックした。しかし、車は止まる気配がない!
ここで、ブレーキ緩めるなんて、出来るわけがないですよね。
しかし、緩めなければ制動距離が延びるばかりか、コントロールも効きません。
いきなりロックギリギリまで戻してキープしろと言うのは酷ですが、まずはロックした!と感じたらブレーキを緩めると言うクセを付けて「タイヤロックへの感度」を上げていきましょう。
ロックしたら抜く。そして、また踏みなおしてみる。ロックしたら抜く。と言った感じで、所謂「ポンピングブレーキ」で制度を上げていく練習方法です。
ブレーキングを行った際には、基本的な荷重移動としてフロントに荷重が掛り、ノーズダイブと言う現象が起こります。
その名の通り、フロントが沈み込むわけですが、ブレーキの効かせ方で、このノーズダイブの加減が起こるのはなんとなく理解出来ると思います。
1人でブンブン飛ばしている時にブレーキを乱暴に踏む事があっても、彼女を横に乗せていれば自然と気を遣ったブレーキングになりますよね?
それは何故ですか?
慎重にペダルを操作すれば、車が前後にグラグラと揺さぶられないから、彼女が乗っている時は特別な運転をするわけですよね?(笑)
制動が弱い時はノーズダイブが起こり難く、制動が強い時は深く沈み込むわけです。
これはシートに腰掛けていれば、前のめりになる感覚が掴めると思いますので、この動きに意識を集中させましょう。
フルブレーキを行った際には、当然ノーズダイブが起こりますが、タイヤがロックして滑り出した瞬間に、前方向に強く掛かったGが緩くなるポイントがあります。
制動力が弱くなった瞬間です。
対して、ここからブレーキペダルを緩めると、再びキツくノーズダイブを起こすポイントに戻ってくるので、ここをキープすると言うわけです。
ただし、足を固めてしまった車では、この変化が分かり難いです。
初級編ではまだチューニングに触れないのはこのためです。
既にハードな足回りになってしまっている車は、ロックとリリースを繰り返しながらギリギリの感覚を掴みましょう。
尚、ガツンと踏んでロックしてから緩めると言うのは「境」を捉える事が困難になります。
非ABS車でのフルブレーキングの方法は、一発目をそこそこ強く一気に、そこから奥へぎゅ~っと押さえて行くイメージです。
「グッグーーッ」と踏む感じですね。
ロックしたら足を戻すのではなく「キュッ」と足に入れた力を抜くイメージで。
とりあえず、まずはロックさせる練習を行い、次にロックしたら瞬時にペダルを緩めるクセを付ける。
そして、最後は「蹴るのではなく、ぎゅーっと押さえる」イメージでペダル操作をして、制動力の強弱を感覚で覚える。
これが非ABS車でのフルブレーキングです。
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