■練習のポイント
○パワーバンドを意識する
○エンジンブレーキに期待しない
○ヒール&トゥをマスターする
○チェンジ回数を最小限にする
■目次
■レブまで回せ!
「初級編 シフトチェンジ その2」までご覧になった方なら、シフトチェンジ自体はもう問題ないレベルでしょうか。
ここから先は、速く走る上でのギア選択と、シフトタイミングなどについてまとめたいと思います。
まず、なぜ高回転までエンジンを回す必要があるのか、積極的に低速ギアを使う必要があるのか。
この辺りが全く理解出来ていないと、何のためにシフトチェンジを行うのかと言う疑問が生じますよね?
前回、車輪を回すだけのパワーが出ていないと、発進が困難だとか、ハイギアは加速に不利だと言う話をしたと思うのですが、エンジンの回転域の中には「パワーバンド」「トルクバンド」などと呼ばれる「高効率域」が存在します。
今時のエンジンなら、低回転域から高回転域までフラットに高トルクが出て乗り易い物も多いですが、それでもカタログなどの出力曲線を見ると、効率の良し悪しと言う物が見えてくると思います。
これは仮に同じベースのエンジンを搭載している車種でも、車のタイプで味付けが異なったりしますし、当然エンジンが違えば全く異なる特性を示すので、効率の良い回転域は様々です。
一概には言えませんが、パワーバンドと呼ばれる領域は、レブリミットまでの上20~30%の領域となります。
NB8C型ロードスターを例に挙げると、レブリミット7500rpmに対して、パワーバンドと言われる領域は大凡5500~7200rpm、RX-8の場合はレブリミット9000rpmに対して、6000~8500rpmがパワーバンドです。
おや?お気付きですね?
レブリミットに対して、手前の数百回転が含まれていない。
これも一概には言えないのですが、大半のエンジンでは、終盤の効率が低下する物が多いです。
にも関わらず、見出しのレブまで回すとはどういう事なのか?
これにもパワーバンドが関係してくるのですが、シフトアップを行った際に、エンジン回転が低下すると言う部分が問題となってきます。
ここの繋がり方をステップ比と言う物で表すのですが、この値をシフトチェンジ前の回転数に掛けてやれば、シフトアップ後のエンジン回転数が分かります。
厳密には、シフトラグの間にもう少し低下するので、理想的な繋がり方をしても理論値を上回る事はないです。
つまり、このシフトアップ後の回転数がパワーバンドをキープできるかどうか?と言う点が、シフトアップのタイミングを見極めるポイントとなってきます。
例えばRX-8の場合、2速から3速へのステップ比は0.680と言う値になります。
レブリミットの9000rpmでシフトアップを行った場合、9000×0.680=6117と言う理論値となり、ギリギリでパワーバンドをキープする形です。
これに対して、効率の悪い500rpmを省いた8500rpmでシフトアップを行った場合、8500×0.680=5777と言う値になり、僅かですがパワーバンドを外す結果となります。
これくらいの許容出来るレベルの差であれば良いですが、少なくとも7000rpmや8000rpmでは、確実にパワーバンドを外す結果となるのがわかると思います。
つまり、レブまで回してシフトアップすると言う事は、シフトチェンジ後にも、効率良く加速出来る回転域をキープするための、基本と言う事です。
ただし、例外もあります。
クロスミッションと呼ばれる、なんだかカッコイイ名前のパーツが売っていたりしますよね?
これのメリット・デメリットを理解せずに組んでしまう方もいますが、とりあえず最大のメリットを説明しておきましょう。
クロスミッションとは、所謂、ギア比がクロス(閉じる・近いなどの意)していると言う特徴から、ステップ比が大きいです。
つまり、シフトチェンジ後の回転差が少ないと言う特徴があります。
例えば、先程のシチュエーションでステップ比が0.800だったと仮定した場合、9000×0.800=7200と言う理論値となり、7500rpmでシフトアップしても7500×0.800=6000となります。
分かりやすく言えば、レブまで回さなくてもパワーバンドを維持出来ると言う事。
レブまで回さなくて良いと言うのがメリットかと言えば、何とも言えませんが、パワーバンドを維持しやすいクロスミッションは、単純な加速と言う面に於いては非常にメリットが大きいです。
ただしデメリットは、ギア比が近いためにシフトチェンジの回数が増加すると言う点です。
シフトチェンジによるロスは意外と馬鹿にならないので、ステージによっては、必ずしもクロスミッションが有効とは限りません。
導入を検討する方は、各ギア比と最高速の関係を、自分がターゲットとするコースと照らし合わせてシミュレーションする事をお勧めします。
とにかく、ギアの選択は「パワーバンド」を維持して走れるギア、シフトタイミングは「シフトアップ後にパワーバンドを外さない」回転数まで回してチェンジと言う基本を意識しておきましょう。
■シフトタイミング
シフトアップのタイミングは原則として、レブリミット直前まで回したところでチェンジしますが、シフトダウンはどう言ったタイミングとなるのか。
これは、先程説明したパワーバンドを意識して攻略する事になります。
シフトダウンが可能か否か?と言う判断は、あくまでもシフトチェンジ後のエンジン回転数に依存しますが、実際には効率の良い回転域、即ちパワーバンドに入っていれば、無理に下のギアを使うより、そのまま「耐える」方が良い場合がほとんどです。
例えば、パワーバンドが5000rpm~だと感じているなら、この回転数を下回らない限りはそのままギアを固定する方が無難。
つまり、シフトダウンが必要なシチュエーションは、このパワーバンドの回転域を下回った場合、または、下回る事が予測出来る場合に行います。
前者は主に、ミスをして回転が落ち込んでしまった場合。
後者は主に、コーナー進入前のブレーキングです。
前者はミスの結果、回転が落ち込んでしまったわけですから、即座にリペアするのは言うまでもありませんが、後者の場合は事前に回転が下がる事が予測可能なので、次の加速に備えた準備をしない手はありません。
加速時にシフトチェンジを行う場合は、クラッチを切った瞬間に駆動は伝わらなくなり、次にクラッチを繋ぐまでの僅かな時間「停滞」があるため、この分の時間がロスになります。
対して、減速時のシフトチェンジは、減速に集中している時間となるため、この間にクラッチを切っても減速方向に対してのロスはありません。
なので、減速が完了してからシフトチェンジを行うのではなく、このブレーキングの間に、同時に「シフトダウン」の操作を加えるのが理想となります。
そのために用いるのが、前回少し触れた「ヒール&トゥ」などの基本テクニックとなります。
ちなみに、このブレーキングの際に、どのタイミングでシフトダウンを行うか?と言う点が論点となりますが、ブレーキング開始とほぼ同時(オーバーレブの回避は前提)に行うと言う意見と、ブレーキング終了直前に行うと言う意見に分かれます。
例えば、Youtubeなどに上がっている参考動画を観察していると、有名なプロドライバーでも減速と同時に行う人と、終了間際に行う人とバラバラですし、中には特に決まってない感じの人、そもそもヒール&トゥを使わないって人も見られます。
こうなると、何が正解なのかわからなくなりそうですが、どれが正しいとは言えません。
結果として、ロスなくシフトチェンジを行い、次にアクセル操作を加えるまでの間に準備が完了していれば、それはどれも正解と言えるからです。
あるプロドライバーの方がヒール&トゥについて解説している中で「ブレーキングと同時にシフトして、エンジンブレーキを活用する」と言うコメントをしていたのを見ました。
この発言、凄く違和感がありませんか?
何故なら、制動力は明らかにエンジンブレーキよりフットブレーキの方が上回るので、エンジンブレーキで車速が下がるスピードより、フットブレーキに負けてエンジン回転が下がる方が圧倒的に早いからです。
緩いブレーキングの時なら、エンジンブレーキの方が上回るシチュエーションも有り得ますが、そもそも、フットブレーキを疎かにして、エンジンブレーキに期待してダラダラ減速するくらいなら、もう少し強くペダルを踏み込んだ方が良いのは明白です。
このプロドライバーがどうのこうのと言っているわけではありません。
明らかにレベルは高いですが、いざ説明しろと言われた時に、普段無意識に行っている「実際の操作」と「考えているイメージ」に乖離が生じているのか、そもそも言葉にして説明する事が困難なのかと言う事です。
…で、ここからが個人的な意見となりますが、シフトダウンのタイミングは、ブレーキング終了間際を推奨します。
先程も言いましたが、エンジンブレーキに期待は出来ません。
なので、あくまでもフットブレーキで減速、同時にエンジンの回転はフットブレーキに吸収されて一気に回転が低下します。
ここでクラッチを切ったら、踵でアクセルを煽って下のギアに回転を合わせてクラッチを繋ぎます。
対して、ブレーキングと同時にシフト操作を行った場合は、まだエンジン回転が下がりきっていない内から下のギアにシフトする事となるため、アクセルを煽る量が少なくなるので、一見難易度は下がるのですが、これはあくまでも「シフトチェンジ」に限った話。
回転が下がりきっていない内からのシフトダウンは、オーバーレブのリスクがある事と、回転同期をミスした時にシフトロックによって姿勢を乱すリスクも増します。
ただし、あくまでも個人的な意見なので、最終的には自分のやり易いと感じる方で慣らして行くのが良いかもしれません。
■シフト時の回転同期
まとめです。
シフト時の回転同期と言うと、相当難しく感じるかもしれませんが、実は「感覚的」に行えば、ほぼ無意識に行う操作となります。
今までの話で、パワーバンドを意識した回転域のキープ、それに伴うシフトの選択、即ち、必要の無い時には無暗にシフト操作をせず、シフト回数を最小限に抑える事。
また、シフトのタイミングについても大凡わかったと思います。
では、シフトチェンジ時の回転同期については、いちいち頭で考えなければならないのか、繊細なアクセルワークが要求されるのか?
答えはNOです。
そりゃあ、全く見当はずれなアクセルの煽り方で無暗やたらと回転を上げたり、リミット寸前まで回っているのに下のギアにシフトすると言った場合は論外ですが、現実的には「大雑把」な操作で問題ありません。
実はこれ、一番最初に説明した内容に戻ってくるのですが、シフトレバーは叩き込む物ではなく、回転が同期していればゲートに吸い込まれる様に「勝手に入る」と言う部分がポイント。
シフトアップ時は、レブまで回したらクラッチを踏んで上のギアへシフトしますが、この時に次のギアのゲートに軽く押しつけておけば、エンジン回転が下がって来た時に吸い込まれます。
ここでクラッチを繋ぐ。
シフトダウン時は、アクセルを煽って回転の同期を取ってやらなければなりませんが、これも同様にクラッチを踏んで、レバーを下のギアのゲートに軽く押しつけておけば、アクセルを煽って回転が同期した瞬間に「カコンッ」と入りますので、すぐに踵からアクセルを離してクラッチを繋いでやればOKです。
そう。回転の同期は頭で考えるのではなく、大体このくらい煽る、と言った「慣れ」と、音や振動で大体の回転域を感じる事。
そして、手に伝わって来る、レバーがゲートに吸い込まれる感覚と、それに対する感度で操作するもの。
シフトアップもシフトダウンも、回転同期は「同期を取ってからレバーを操作」ではなく、逆。
「レバーがゲートに入った」時に同期が取れた、と言う判断で良い。
この部分、実は単純かつ、一番重要なポイントだと思います。
何故なら、色々なドラテク本や、ドラテク解説サイトを見ても、前者の説明しかなく、あくまでも回転同期を取ってシフトすると言う話になっているから。
同期が取れれば勝手にレバーがゲートに入るのだから、極端な言い方をすれば同期を取る必要はない。
ゲートに入れば、同期したと言う結果が得られるのだから。
実は、これくらいの回転数の時に、上のギアにシフトしたらどれくらいだの、下のギアにシフトするとどれくらいだのと、面倒臭い説明は「理屈を理解するための予備知識」と言うだけで、操作自体には直接関係はないし、頭で考えていては習得難易度を上げるだけなのだ。
後は、この感覚がわかってきたら、より効率良くシフトを完了できるように、アクセルの加減を研ぎ澄まして行けば良い。
シフトチェンジをまとめると。
・パワーバンドをキープし、レブるかパワーバンドを外さない限りシフトしない
・レバーはゲートに軽く押しつけ、ゲートに吸い込まれたらクラッチを繋ぐ
これだけです。
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