今日は、ちょっと珍しい物を入手したのでご紹介しましょう。

以前ヘルパースプリングについて解説した事がありますが、あちらは伸びストロークを増やす魔法のパーツの様に語られる事も多いけど、もちろんそんなはずはなく、伸び縮みの”総ストローク量は変わらない”と言う話をしたのを覚えていますか?

ヘルパースプリングはストロークの中立位置を調整するためのパーツであって、理屈を理解せず使い方を誤れば縮み側のストローク不足を招いたり、フィーリングが悪化したり、メリットが得られないばかりかデメリットが生じてしまう事もある。

また、縮み側のストロークを増やす機能はありませんので、こちらを確保したい場合はスプリングレートを上げるとか、プリロードを掛けると言う方法でセッティングする事となりますが、この場合は車高調の構造上、車高は上がる方向になります。

縮み側のストロークは犠牲にしたくないけど、車高は下げたいと言った場合、どう言った方法があるのか?

こんな時に使用するのが、ストロークアップアッパーマウントと言う部品です。

◆珍しいストロークアップU/Mをゲット!

◆ストロークアップU/Mの使い方とその理屈

■珍しいストロークアップU/Mをゲット!

ヤフオク!やメルカリを覗いていると、たまにお買い得な掘り出し物が出てくる事があるので、一見ガラクタに見える物でもスルーできませんね(笑)

今日はこんなの見付けてきましたよ♪

じゃーん!

NCロードスターの純正ビルシュタインショック一式です!

送料込みで4000円くらいでした。

実は純正のリアアッパーマウントが欲しかっただけなのですが、フロント側のアッパーマウントの形状を見て、もしや?と思って買ってみました。

ちなみにこちらはNDロードスターの純正アッパーマウント。

NCロードスターRX-8NDロードスターのフロントU/Mは共通品番なので同じ形状のはずですが、ちょっと違うのがわかりますか?

さっそく分解してみましょう!

って、既にこの時点で違和感がありますね(笑)

ほら、ノガミプロジェクトのストロークアップU/Mですね。

これはラッキーですねえ♪

イラネーので、手入れをしてヤフオクに出品したら15000円くらいで売れました(笑)

そうです!ストロークアップU/Mの正しい使い方は「売却」です!

…冗談です(笑)

そんなセコい話をするために紹介しているわけではなくて、この”ストロークアップ”アッパーマウントって響き、まるで魔法の言葉の様に聞こえますが、これを取り付けたら本当にストロークが増えるの?って疑問に思う人も多いのではないかと。

もちろん、ショックのロッド長が変わるわけではないので、ヘルパースプリングと同様に総ストローク量が増えると言うわけではありません。

そもそもどんな機能の部品なのか、結構勘違いしている人も多い様なので、今日はコイツの機能と使い方を簡単にご紹介しましょう。

先に、ちょっとこちらをご覧ください。

NR-Aの純正ショックなのでしょうか?加工品かもしれませんが、今時は珍しいCリング式車高調の様です。

ネジ式車高調と理屈は同じですが、ネジを巻いて無段階で微調整可能なネジ式車高調と異なり、2~3か所に切ってある溝にCリングを移動させる事でロア側のスプリングシートの高さを変更する構造です。

これによってプリロードが変わるので、着地させた時に車高が変わるってわけですね。

プリロードで車高が変化する理屈については、以前の記事で詳しく解説しているのでこちらをご覧ください。

純正スプリングって、かなりプリロードを掛けてあるので、直巻きスプリングを使用する車高調とは印象が随分異なりますが、プリロードを抜いた分車高が下がる理屈は同じですし、それに伴いストロークの中立位置が変化する事にも違いはありません。

プリロードを抜いて車高を下げた分、ストロークアップU/Mで縮みストロークを確保すると言う使い方をされていたのだと想像出来ますね。

何?ストロークアップU/Mで縮みストロークが確保出来るのは何故かって?

よろしい。では仕組みをご説明しましょう!


■ストロークアップU/Mの使い方とその理屈

冒頭で”珍しい”と言った理由ですが、別に入手困難なレアパーツと言うわけではありません。

普通に売られていますし、NCロードスターRX-8のリアU/Mなど、見方によっては純正のストロークアップU/Mと言えなくもありませんよね。

珍しいと言うのは、これを使用する機会、必要とするセッティングがやや限定的である事です。

と言うのも、通常はサーキット走行を想定した車高調になると、比較的ハードなスプリングを使用する傾向にあり縮み側のストロークは自ずと確保されるので、どちらかと言うと伸び側が不足し易いためストロークアップを狙うとすればヘルパースプリングを使用する事の方が多いはずです。

ただし絶対と言い切れないのは、セッティングに於けるユーザー毎の狙いは様々ですから、一例ですが思いっきり固いスプリングを使いつつ車高を下げるためにヘルパースプリングで整えたら、縮み側ストロークが足りなくなりましたと言うパターン。

他には街乗りメインで時々サーキットで遊ぶと言ったライトユーザーの場合、普段の乗り心地を重視したり、使用するタイヤの都合でスプリングが固いとは限らない事や、ダウンサスで納得する場合もあり得るからです。

ストロークアップU/Mの使い方を説明する前に、少し復習してみましょう。

車高が変化する仕組みですが、レートもレングスも同じスプリングを使用して、ネジ式車高調のプリロードの有無を比較してみます。

負荷を掛けていない状態では、ショック全長はどちらも同じですが、プリロードを掛けている方はスプリングを縮めている分見掛けのスプリング全長は短くなっています。

この時に注目するのが、スプリングの”ロアシートから下の長さ”です。

そのままジャッキを降ろして着地させてみましょう。

すると”1G相当のストロークを超えない範囲のプリロード”であれば、”着地時のスプリング全長はどちらも同じ”になるわけです。

この時、当然アッパーマウントの位置は同じですし、ロアシートの位置も同じになるわけですから、”違いが出るのはロアシートから下の長さ”です。

“この差が車高の差”となるので、プリロードを抜けば車高が下がり、プリロードを掛ければ車高が上がると言うわけです。(全長調整式は、この基本構造に加えて全長を調整する機構が付いているだけ)

それでは、ここからストロークアップU/Mを使う理由となり得る、2つの違いを確認してみましょう。

上の2つの車高調を着地状態のまま、余計な部分を省いてダンパー内部を可視化してみましょう。

ロッドの黒い部分は縮み側のストロークだと思って下さい。

対して、内部の赤色で示した部分が伸び側のストロークです。

プリロードの加減(スプリングレートでも変わる)で総ストロークの中立位置が変わり、縮み側のストロークを増やせば伸び側は減り、伸び側を増やせば縮み側が減るのは構造上避けられません。

これはヘルパースプリングの説明でも言いましたが、あちらは伸びストロークを確保するためにスプリングを遊ばせ、その遊びを埋めるために取り付けるテンショナーの様な部品でした。

ストロークアップU/Mはその逆で、縮み側のストロークを確保するために使う部品です。

車高を下げるためにプリロードを抜いた際に、縮み側のストロークが不足してしまったらどうなるでしょうか?

通常はバンプラバーが装備されているので、厳密な意味での底突きに至るリスクは低いにせよ、大きくロールさせたりギャップで跳ねたりした際に、頻繁にバンプタッチを起こしてしまって挙動がピーキーになったり、乗り心地が悪くなったりする可能性がありますね。

バンプラバーの硬度にもよりますが、物によっては結構ガツンッときます。。。

こんな時に使用するのがストロークアップU/Mと言う部品と言うわけです。

サスタワーに固定される部分は当然変わりませんし、アッパー側のスプリングの着座位置もノーマルと変わりませんので、ロアシートの位置が同じである以上、スプリングの全長も同じになります。

この様に、ヘルパースプリングと違って外観の見掛け上は大きな違いがないので分かり難いのですが、ロッドを固定する中央部分が盛り上がっているため外側に出ているロッド長はノーマルU/Mに比べて長くなります。

伸びストロークが減り、縮みストロークが増えているのですが、スプリングの上下着座位置も長さも変わらないので、この図だけではどうしてこれで縮み側のストロークが増やせるのか分かり難いですね。

では、実際に負荷を掛けて縮めてみましょう。

30mmのストロークでバンプタッチが起きていた車高調を例にすると、図の様にバンプラバーを避けるスペースが確保されていると言うわけです。(NCロードスターRX-8の純正リアU/Mはダンパーそのものを避ける構造)

これにより、例えば窪みが20mm確保されているなら、ノーマルU/Mに比べて更に20mmストロークさせる余裕があるって事になります。

この差がストロークアップする理由です。

ただし最初に言った通り、サーキット走行を想定した車高調の場合はハードなスプリングを組み合わせる事が多いため、縮み側のストロークが不足する心配より伸び側の方が不足しがちなので、どちらかと言うと純正ショックにダウンサスを使うとか、柔らかいスプリングを使っているストリートユースでのバンプタッチ対策などに使用する事の方が多いでしょう。

また、調整式のストロークアップU/Mなどもありますが、無暗に縮み側ストロークを確保しようと思っても、先にスプリングの線間密着が発生してしまうとか、ロッド長が極端に短くてダンパー側に十分なストロークが確保出来ない場合、そもそもバンプタッチすら起きない様な硬いスプリングを使用していると言った場合には十分な効果が得られない、または伸び側を減らすだけの愚行となる恐れもあるので、何も考えずに取り付けただけで有効な縮みストロークが増えるとは限らない事に注意しておきましょう。

ヘルパースプリングと同様に、理屈を理解せずに”ストロークアップ”と言う魔法の様な言葉に釣られて買ってしまう人が結構多い部品ですので、本当に必要かどうか慎重に検討が必要です。

まともに買うと結構高いので、無駄な買い物にならない様にご注意あれ(笑)