最近の車には舵角センサー(ステアリング・アングル・センサー)が標準装備されている物が多いです。
電動パワステなど、ステアリングのギアやシャフトに付いているトルクセンサーとは別に、ステアリングコラム内のスパイラルケーブルとセットになっている物が主流。
主にはバックカメラなどを使用する際のガイド線の表示切替に用いたり、車線逸脱防止のアシスト時にハンドルの向きを認識させるのに使われていたりと言った感じですが、高出力の車やターボ車(主に前輪駆動や4WD)の場合はブースト制御に使われている事がある。
例えば最近だとスイフトスポーツやシビックTypeR、インプレッサ(WRX)などでもご存知の通り、前輪の駆動する車で低速から高出力を発揮すると強烈なトルクステアが発生する可能性があるため、1・2速ギアを使っている時や、舵角が一定以上の時に出力を意図的に抑えたりする制御がある。
単なる噂と思っている人もいるかもしれないが、一部の車種はメーカーの技報や、場合によってはカタログに明記されている場合もあり、その一例がマツダスピード・アクセラだ。
マツダ技報の中に、1・2速ギアでは出力を抑えている事の他、選択しているギアに関わらずハンドルを45°以上切り込んだ状態でも出力を制限する事が明記されている。
今日の話題は、その制限を解除してみようと言う話です。
■舵角センサーをキャンセルする方法
舵角に応じた制御を解除する前に少しお話を。
舵角センサーのキャンセルで制限を解除出来るのは舵角に応じた制御であって、低速ギア選択時に掛かる出力制御は解除されません。
なので、低速ギア使用時の制御を解除したいならまずECU書き換えが必要になります。
以前、MSアクセラの封印解除の話をしましたが、このECU書き換えで1・2速の制限は解除されているのですが、どうもハンドルを切ってアクセルを踏んでいる際にギクシャクする事がある。
これ、良く観察してみるとマツダ技報に書いてある通り45°付近の舵角でアクセルを踏んでいる際に発生するもので、この付近で制御がハンチングを起こしている感じ。
標準状態では起こらないが、1・2速の制限を解除している事による弊害である。(ハイギア寄りでは比較的回転数が低いため目立たない印象)
これが以前気になって、ECUの書き換えを依頼したショップに確認すると「舵角で出力制限?何それ?」と、そもそも認識していない様子で、試しに他店にも少し確認してみると「そこはちょっと複雑で解除できない」とのコメントが。
なるほど。
今のところECUの書き換えで対応が難しいと言う事らしいが、舵角によって制御をしているのなら、舵角を何で判定しているのかって点に注目してみる。
答えはシンプルに、舵角センサーを引っこ抜いてやってはどうか?
って事で、早速確認作業を開始した。
作業手順はアクセラの例です。
まず、スパイラルケーブル周辺を確認したいので、ステアリングコラムを開く必要がある。
最初にキーシリンダーのカバーを外す。
下から覗き込むと、3ヶ所ネジで留まっているだけなので全て外します。
たったこれだけで、後は上下のカバーを掴んで引っ張ってやればパカッと開きます。
下側のカバーには、キーシリンダーを照らすランプのソケットが付いているのでご注意を。
カバーを開いて左側から覗くとすぐに見付かります。
黄色のカプラーが接続されているのはスパイラルケーブルで、そのすぐ後方にあるのが舵角センサーのカプラーです。
まずは、このカプラーを引き抜いてみましょう。
その状態でキーをONまで回す(エンジンは掛けなくて良い)と、各種チェックランプが全灯した後に自己診断を終えて消灯します。
故障などない場合は、上の写真の様な状態で落ち着くのが通常の状態です。
舵角センサーのカプラーを抜いている場合、赤丸で示した横滑り防止装置の作動ランプが点灯状態になります。
ちなみに、DSCは車輪速センサーで制御されているので、この状態でも問題なく別途にON/OFF出来ます。
気になる場合はDSCのスイッチを押して確認してみてください。
この状態で試走してみたのですが、交差点などを曲がる際や急カーブで3000rpm付近で走らせていると、直線と同じくらいアクセルのツキが良くなっているのを感じると同時に、ハンドルを切り込んだ状態での低速走行時に発生するギクシャクした動きが出ません。
ガンガンに攻めずとも、通常走行で差はわかります。
気のせいかな?と思ったら、どこかで停まってカプラーを挿し直してからエンジンを再始動して制御入りのフィーリングを確かめてみると良いでしょう。
ただ、後にクローズドコースで試した際には、違いを体感し難いと言った感じ。
結局のところ、低速ギアは回転上昇も早く、発生した挙動に対応してペダルやステアリングを操作するためだと思いますが、制御によって抑え過ぎると言う事がなくなるので結果として少し速くなる(笑)
もしかすると3速以上を使うコーナーでは、本来もっと加速出来るはずのところを抑えられていたと言う事に気付く可能性はありますので、コースによっては劇的な変化を感じるかもしれません。
ちなみにこの舵角センサーキャンセルの方法なのですが、MSアクセラの場合は弊害なく舵角による出力制限を解除出来ると言う事が判明したものの、最近の車だと他の制御にも舵角センサーが使用されている場合があり、無暗にキャンセルすると何らかの弊害が発生する可能性があります。
例えば、半自動運転系の制御など。一例を挙げると走行レーンやパーキングアシストだったり、オートヘッドライトの向きだったり、エラーが出ないにしてもカプラーを挿し直したのにチェックランプが消えないなど。
トルクセンサー側ではないので、勝手にハンドルが回るなど直接走行が困難になる様な弊害は出ないと思いますが、これらの弊害が出ないか確認する意味でも、いきなりスイッチ加工などをせず、まずはカプラーの着脱だけで目的に合っているのかフィーリングを確かめてみたり、良くわからないエラーが出ていないかなどを確認してください。
チェックランプが消えない程度の話であれば、ディーラーでリセットしてもらえますし、何らかの理由(笑)でディーラーに行けない人はOBD2アダプターがあればスマホのアプリでも対応出来ます。
■手軽にON/OFF出来るスイッチ加工
まず始めに、配線加工は正直お勧めしません。
また、ABSキャンセルなどもそうですが、特に明確な目的がないのに安全装備やアシスト機能をOFFにすると言う行為はハッキリ言うと”愚行”です。
それでも、サーキット走行などでタイムを削りたい、シチュエーションに合わせた選択肢を増やしたいと考える方は参考にされてください。
配線加工を行うのは、前項で説明した舵角センサーのカプラーです。
原則配線加工は避けるべきですが、スイッチでON/OFFするためにはカットするしかないので…。
と言う事で覚悟を決めて配線をカットするわけですが、ここで一つ注意点を。
どれか1本を切れば舵角センサーがエラーと判定してキャンセルされるのは同じですし、恐らくピックアップ信号の波形を見ているだけだと思いますが、もしかすると左右方向で配線の長さが変わったりする事によって抵抗差が生じると何らかのトラブルが出る可能性があります。
そのため、センサーを起動する電源に該当する配線を加工する事にしましょう。
BK型のMSアクセラの場合は、カプラーの爪を上にして、配線が挿さっている側から見た際に一番右側になる配線です。
色は黄色に水色のラインが入った線ですので、間違えない様に注意してください。
覚悟を決めたらハサミでカットするのですが、ぎぼし端子を取り付ける事も考慮して、配線を短くし過ぎない様に注意!
カットしたらもう後戻りはできません(笑)
このカットした配線に端子を付けてスイッチを取り付けるだけですので、特に説明は不要ですね。
ただ、線が細いので端子加工のコツをご紹介しましょう。
以前、カーナビのレビュー記事でも紹介しましたが、細線に端子を圧着する場合はちょっとした工夫でしっかり圧着できます。
通常、配線の被膜を先端から3~5mm程度剥くところを、15~20mm程下に切り込みを入れます。
んで、被膜を完全には引き抜かずに8~10mm程銅線を露出させて止めてください。
少しピンボケして見難いですが許してください。
銅線部分の中央から折り曲げて、解れない様に銅線部を捩じっておきましょう。
ここにスリーブを通してください。
…で、あとは通常通り端子を圧着すれば完成です。
銅線部分をかしめるのはもちろんの事、細線だと被膜部分をかしめた部分が非常に抜け易いのですが、線を二重にしてやる事でしっかりと圧着されて抜け難くなります。
取り付ける端子の種類にもよるので、どの程度の線でやるべきか基準は人それぞれですが、エーモンなどの良く見るタイプの端子を取り付ける場合は、0.5sq以下ならこの方法で圧着するのが望ましいです。
カットした配線の両側に端子を取り付けたら、あとは用意したスイッチも同様に端子加工して接続してやれば完成です。
スイッチのON/OFFで舵角センサーのON/OFFが切り替え出来ている事を確認してください。
舵角センサーをOFFにした後は、キーを一度OFFにしてから再起動させてやるまでランプは消えないので注意してください。
配線を通す場所やスイッチの設置場所は好みの問題なので、ここでは省かせて頂きます。
スイッチ使用時の注意点や繋ぎ方は次の項で説明しますので、マツダ車以外の方も参考にされてください。
■マツダ車にオススメのスイッチはコレ!
スイッチホルダーに空きがあるなら、純正スイッチを使ってスッキリ収めた方が見た目も良いですよね。
他社のスイッチは良くわかりませんが、たまたまマツダ車に乗っていますので、マツダ車にオススメのスイッチをご紹介しましょう!
魂動デザインと謳いだした最近のマツダ車は異なりますが、旧規格のマツダ車のスイッチは遡って2000年前後まで共通で使える物が多いです。
初代アテンザなど、フォグランプスイッチが別体だったタイプで採用されていたフォグランプスイッチ(純正品番:GE4T-66-4B0)が一部のスイッチマニアの間では大人気だ。知らんけど。
アクセラの場合はスイッチ形状がNC型ロードスターと同じなので、そちらの方が好ましいのですが、ご存知の通り純正スイッチって結構高価ですよね。
新品を買える富裕層は新品を。庶民は安価に手に入る中古を狙いましょう(笑)
何故かアテンザ用などは安い物なら500円くらいからフリマサイトで見付かるのですが、NCロードスター用などは比較的高価な上に滅多に見掛けないので入手が困難。
ちなみに、NBロードスターや初代デミオ時代まで遡ると、プッシュスイッチではなくロッカースイッチになるので、一気に昭和~平成初期感が漂い始めるため旧車以外にはお勧めしない(笑)
端子部分を覗いてみましょう。
左がフォグランプスイッチで、右はDSCやTCSに採用されているタイプ。
どちらも4極となっており、内2極がスイッチの照明に繋がっている電源(+・-)で、残りの2極がA接点式(押した時にON<通電>になる)のスイッチに繋がっている。
この2つは同じA接点式のプッシュスイッチですが、フォグランプ用は押すとONのまま保持され、もう一度押すとOFFになるのに対し、DSC用は押している間だけONとなるタイプ。
ABSや舵角センサーをキャンセルしたい場合は一度断線判定を出せばキーを一度OFFにするまでエラーが消えない、つまりキャンセルされたままになるので、無理にスイッチが保持されている必要はないため一見するとどちらでも良い。
しかし、フォグランプスイッチの方をお勧めする理由がある。
その内の1つがこちら。
市販のエーモン・No.1124の4極カプラーが、無加工ポン付けで対応する手軽さだ!
端子を直接挿しても良いが抜け易いし、配線をはんだ付けするのも面倒なので、対応するカプラーが手に入るなら使った方が確実で安心です。
もう一つ疑問に思った人も多いでしょう。
そう、A接点スイッチなので、OFFの間は当然導通は切れているので、このままセンサーの配線などに割り込ませた場合は「断線判定」が出るはずです。
なので、選択肢から言うとON状態で保持できるフォグランプスイッチを使う事になる。
通常時は常にON状態にしておき、断線判定を入れたい時はスイッチを押してOFFにしてやると言った感じ。
ただ、これがなんとなく嫌だと言う場合は、センサー配線にはスイッチの配線を直接割り込ませず、B接点式(ONになると導通が切れる)のリレーを使って逆転させてやると良い。私はそうしている。
スイッチに拘りがなく、市販のスイッチを使うならON/OFFで見掛け上変わらないトグルスイッチを用いたり、最初からB接点タイプのスイッチを使用すると何も考えずにセンサー配線へ割り込ませるだけなので楽です。
どうしても使いたいスイッチがA接点式の場合は工夫するしかない。
雑な図ですが、B接点リレーの繋ぎ方と仕組みは以下の通り。
実際の内部を示した配線図はリレーのパッケージや本体に記載されているので、こちらのテキトーな図を参考にしながら接続してください(笑)
あまりB接点リレーを見掛けませんが、エーモンの5極タイプでC接点リレーと呼ばれるタイプならすぐに見付かるのでお勧めです。
C接点と呼ばれるタイプは、A接点とB接点の両方を内臓したタイプで、スイッチのON/OFFで使用する電装品を切り替える場合や、どちらかの接点だけを使うと言う選択肢があるのでB接点リレーとして代用できます。
ちなみに純正スイッチの設置方法ですが、スイッチホルダーに空きがあると言ってもホールカバーが付いていると思います。
加工作業中ならステアリングコラムのカバーを取り外していると思うので、ハンドルの下からスイッチ側を覗いてみましょう。
ここのスペースから腕を突っ込めば簡単にスイッチの裏側に手が届くので、スイッチカバーの爪を押さえて手前へ押してやればあっさり外れます。
こんな感じ。
スイッチの並びを変えたい場合も同様の方法でスイッチを取り外してから、場所を替えてやれば良いだけです。
取り付けは、スイッチの上下を間違えない様に注意して、表からパチンッと音がするまで押し込んでやるだけです。
分かり易い様にテプラーなどでラベルを貼っておくと良いかもしれませんね。
スイッチの使い方などは舵角センサーに限定した話ではなく汎用性がありますので、電装品取り付け時などの参考にして頂ければ幸いです。