一昔前までは、ABSキャンセルは定番チューンの様に語られていました。

今でも無責任な情報に惑わされ、理解しないまま無暗にABSをキャンセルする人も見られるので、今回はABSキャンセルの方法と、最近の車に標準装備されているEBD(電子制御制動配分機構)との関係をお話ししたいと思います。

ABSキャンセルによるメリット・デメリットとはどう言ったものなのか、EBDとはどう言う働きをするのか、機能を理解をした上でキャンセルが有効か否かを見極めてください。

◆保安基準の問題

◆ABS・EBDをキャンセルする方法

◆EBDを残してABSをキャンセルする方法

◆ABSを撤去する方法

■保安基準の問題

ABSをキャンセルまたは撤去するとしても、後からトラブルに悩まされない様に、まずは保安基準でどの様に扱われるのかを覚えてもらいたい。

ABSキャンセル、またはキャンセルスイッチを装備する事は、以前は特に問題とされていなかった。
しかし、平成20年2月3日より保安基準の一部改正が行われ、告示によって以下の一文が追記されている。

専ら乗用の用に供する自動車であって乗車定員10人未満のものについて、ABS(湿潤路面等におけるタイヤの滑りを防止する装置)の機能を作動不能とするための装置の備付けを禁止する。

これにより、配線などを加工してABSキャンセルスイッチを取り付ける事が違反として扱われる様になった。

また、平成29年2月1日より、警告灯の検査基準が厳格化され、その中にブレーキ警告灯が含まれる事となった。
スイッチを取り付けるだけでなく、ヒューズやカプラーを抜いてABSをキャンセルしたまま、と言うわけにもいかなくなったわけだ。

原則、ABSをなんらかの形で機能停止させた場合、ABSまたはブレーキの警告灯が点灯する事となり、中にはこれらのランプを抜いて誤魔化そうと言う人もいる様だが、ABSはともかくブレーキ警告灯はサイドブレーキのインジケーターも担っているので、厳密に言えば検査対象となっており、通常は不合格となる。

また、不合格にならないにしても、違法行為である事は言うまでもなく、そこまでして安全装置であるはずのABSをキャンセルして乗る必要があるのかと疑問にさえ感じる。

しかし、モータースポーツと言う特殊な用途に於いては、このABSが邪魔となるシチュエーションが存在する事も事実であり、目的やカテゴリによってはなんとかしたいと考えるユーザーもいる。

そこで、今回は違反を推奨するのではなく、あくまでも競技用途で、クローズドコースに限定して解除する方法や、合法的に常時キャンセルする方法、そのメリット・デメリットを説明しようと思う。

 

■ABS・EBDをキャンセルする方法

年式によってはEBDの付いていないABSも存在するので、EBD無しは問答無用でこの仕様となる。
同車種でも、例えばNB系ロードスターなど、前期(NB1)にはEBDが装備されておらず、中期以降(NB2~4)には装備されていると言った違いもある。

この方法は最も一般的に語られているABSキャンセルの方法だが、お粗末な手段であり、賢い選択とは言えない。
それは、ヒューズまたはABSアクチュエータorコンピュータのカプラーを抜くと言う方法だ。

通常、非ABS車にはプロポーショニングバルブ(通称Pバルブ)と言う部品が後輪の系統に噛んでおり、ブレーキライン内に一定以上の圧力が掛かった時、バルブが開いて後輪側の油圧を下げる働きをする。

Pバルブのチューニングに、内部のスプリングレートを変更したり、シムを加える事でリリースタイミングを調整し、ブレーキバランスを好みに微調整すると言った改造もある。

これをもっと簡単に、気軽に操作出来る様にしたのがダイヤルorレバー式のブレーキバランサーなどと言ったパーツで、Pバルブと入れ替え、または後輪系統のラインに割り込ませる事で任意に調整する事が可能となるわけだ。

さて、このPバルブだが、一概には言えないがABS車には装備されていないのが一般的である。(FD3S型RX-7などには付いている)

理由は、ABSのアクチュエータがPバルブの機能を担っており、単純にロックを検知してブレーキをリリースするだけではなく、前後輪、または4輪の制動差を検知して適切に制動配分をコントロールしてくれるのだ。
古いタイプのEBDは前後が制御され、最近のEBDは4輪が独立して制御されている物も多い。

これらから分かる通り、ABSをEBDごとキャンセルした場合、制動配分が行われず、全ての車輪に同じ油圧が掛かる事となる。(パスカルの原理による)

後輪のブレーキの方が小径である事が多いものの、ブレーキング時には前傾姿勢となり、荷重の抜けた後輪がロックし易いため、制動配分が過剰なリア寄りになったと感じるのが主な症状となる。

後輪駆動の場合は、それ程強く感じない場合もあるが、RX-8などの様にフロントブレーキが強力な車種だと、むしろ前輪に制動が偏る印象を受けたりする事も。
この説明がそのままデメリットとなる。

メリットは単純に、知識が無くてもABSのヒューズを抜いたり、アクチュエータに挿さっているカプラーを引き抜くだけでキャンセルできる事。
また、復帰もヒューズやカプラーを元に戻せば、次にキーをONにした時に自動チェックが入り、ランプが消えると言った手軽さである。

スイッチが許されていた時代であれば、これらのヒューズやカプラーの配線にスイッチを割り込ませ、手元へ引っ張ると言う方法が取られていたが、これらの装置に配線加工は望ましくない。

走行中に意図せず断線判定などが出た場合は、急にABSの機能が停止する事も有り得るため、それらの理由から保安基準が改正されたのではないかと推測する。

 

■EBDを残してABSをキャンセルする方法

EBDごとキャンセルする場合は、ヒューズやアクチュエータのカプラーを抜けば良いが、EBDを残したい場合は少し異なる。

ちなみに、ABSのみをキャンセルした場合はABSの警告灯が付き、EBDごとキャンセルされている場合は、ABSの警告灯に加えてブレーキの警告灯が同時に点灯する。(EBDの無い車はABSorブレーキ警告灯のみの場合がある)
これにより区別が出来るので、意図せぬ解除になっていないかメーター内の警告表示を確認すると良い。

EBDを残してABSをキャンセルしたい場合は、アクチュエータの配線の中から…と言いたいところだが、ここはややこしくなるので単純で確実な方法を紹介したい。

4輪に繋がっている車輪速センサーのいずれか1本に断線判定を入れるだけである。

断線判定と言っても、配線を切る必要はなく、車輪速センサーのカプラーをどこか一ヶ所だけ引き抜いてやれば良い。
復帰はカプラーを元通りに挿してから、キーを再度ONに回せば消えるはずだ。

これらのセンサーは車種によって抜き差しし易い位置が異なるのだが、フロント側のセンサーは主にタイヤハウス内やエンジンルームにカプラーが存在する場合が多く、特に雨天時などは浸水や汚損のトラブルが起き易いため、理想はリア側の1本を抜く方法が取られる。

デミオやロードスター、RX-8に至るまで、ラゲッジルームの内貼りを剥がした奥にあるため、競技専用車両の様に鉄板内装でなければこれらを毎回着脱すると言う、少々面倒な作業を伴う場合がある。
S15シルビアは前後輪共に車室外となるため、外し易いエンジンルームのカプラーを引き抜く方が楽である。

この様に、車種によって場所や難易度が異なるものの、1本抜き差しするだけで解除と復帰が可能であり、EBDが残るのでブレーキバランスの偏りも起きない、最良の策と言える。

自分の場合は、RX-8のリアセンサーに配線を割り込ませ、運転席付近まで引っ張っている。
ただし、保安基準上スイッチの取り付けは不可とされるので、普段はスイッチを取り外し、サーキット走行時のみスイッチを取り付けると言う方法で保安基準上の問題を回避している。

配線加工を伴わず、カプラーオンで取り付けられるキャンセルキットはヤフオクでも販売していますので、興味のある方は是非ヤフオクで検索を♪(宣伝ですいません(笑)

 

■ABSを撤去する方法

上記の方法は、いずれもABSを故障と誤認させて機能停止させる方法です。
解除も復帰も比較的簡単で、手軽さでは撤去するより遥かに優れている様に思える。

ただし、何度もカプラーを抜き差ししていると、カプラーやハーネスを痛めるリスクや、防水カプラーに至っては防水性能が低下してくるなどのトラブルも後々発生するリスクがある。

しかし、スイッチの取り付けやランプ点灯が保安基準を満たさないとしても、道路運送車両法の適用されない競技専用車両など、何ら問題ないケースもあるわけだ。

この様な場合、好きな様に細工をすれば良いのだが、それではABSそのものを撤去してしまってはどうか?と言うのがこの項での解説となる。
また、競技専用車両でなくとも、ABSその物が装備されていない車両であれば、保安基準上は何の問題もない事になる。

実はこれ、少なくとも2019年1月現在の基準では、ABSの撤去は保安基準上問題ないとされている。
いや、正確には取り外した事に対して言及する文面がない。つまり、合法と言う事になる。

ただし、ABSの装置が装備されていなくても、警告灯が点灯していては保安基準を満たさないと言う事に変わりはないので、撤去後は対策を施し、車検時に撤去を証明(原則、目視確認と口頭説明)すればパスできる。

撤去の方法は、ABS付きと無しのグレードが混在する車種であれば、ABS無しのグレードから必要な部分だけ部品を流用するのが最もスマートで、確実な方法となる。

例えば、NB8Cの2型の場合、ABSを撤去する際に以下のパーツを用意すれば良い。
マツダのパーツリスト上の品名では、ブレーキパイプが「ABSブレーキパイプ」などとなっているが、その中にABSの有り・無しで品番が分かれている。

デュアルプロポーションバルブ
ABS無し
○NC10-43-900A

マスターシリンダー
ABS無し
○N067-43-400A

P.B.バルブホルダー
ABS無し
○N067-43-750

ABS ブレーキ パイプNO.1
ABS無し
○N067-43-250C

ABS ブレーキ パイプNO.2
ABS無し
○N067-43-260B

フロント ブレーキ パイプ(R)
ABS無し
○N067-45-280C

フロント ブレーキ パイプ(L)
ABS無し
○N066-45-320

リヤー ブレーキ パイプ
ABS無し
○N066-45-360A

クリップ類(ABS無し用)
②NA01-45-911 1個
③NA01-45-915A 1個
④BC1D-45-916 2個
⑤B001-45-916 3個
⑥HG31-45-916 2個

上記がロードスターの場合に必要となる部品の例だ。

まずマスターシリンダーが異なる。
これは、ABSアクチュエータから油圧を抜いてリターンさせるルートが無くなるためであり、マスターシリンダーからのライン本数が異なるため。

また、ABS無しの場合はPバルブが追加となるので、それを固定するためのステーが別途必要になる場合がある。
上記の例では、そのステーも同時に取り付けるため、部品リストに含めてある。

更に、ABSアクチュエータに向かっていたラインが無くなり、直接前後のブレーキラインに振り分けられるため、一部を撤去し、マスターシリンダーから前後のブレーキ系統への直通ラインに置き換えると言うわけだ。

その他、ロードスターのEBDの場合は前後の制御のみなので、リア側の系統はABSの有無に関わらず共通となるため、変更の必要はないが、4輪独立制御の場合はごっそり入れ替える必要性が出てくる車種もあるので注意。

このラインの繋がりの構造さえ理解していれば、市販のブレーキラインパイプとパイプベンダー、フレア加工具を持っていれば、自作でアクチュエータ周辺のラインを繋ぎかえる事で撤去する事も可能であり、それを可能とするためのキット的な物を販売しているショップもある。

ただし、この方法だとゴチャゴチャして、いかにも繋ぎ替えました感が出て見栄えが悪いと言う難点があり、私が探した範囲ではPバルブの付属したキットが存在しないので、他車から流用するか、ブレーキバランサーを併用する事となる。

これがないと、EBDごとABSキャンセルしたのと同様に、制動配分が全くない状態となるため、ブレーキバランスの偏りが発生してしまうので注意が必要だ。

さあ、ここまでが装置の撤去方法となるが、次にやるべき事は警告灯の消灯である。

まあ、装置自体が無いのだからメーター内から電球を抜いてしまうのも一つの手だが、サイドブレーキのインジケーターを担っているブレーキ警告灯が点かなくなるのは問題だ。

それを回避するためには、ABSコンピュータ(NB2型ロードスターの場合はアクチュエータに内臓)に繋がっているカプラーの中に、カプラーを引き抜く事で短絡する端子が2本存在するので、配線図からこれを探し出す。

ロードスターの場合は、引き抜いたカプラーを覗けばすぐに気が付くが、P/B(桃/黒)でABS警告灯、L/Y(青/黄)でブレーキ警告灯を点灯させる回路になっているので、この端子脇に設置されたバネ上の端子の間にプラ板などを挿し込んで絶縁してやれば警告灯は点灯せず、サイドブレーキを引けばインジケーターの機能は残る。

ABS有りのメリットは、EBDがあればどんな姿勢からも効率の良い制動を発揮してくれるので、ABS無しでは難しい姿勢からのアプローチを可能とする場合がある。

例えば、旋回Gの残るコーナーリング中のハードブレーキなどだ。

しかし、デメリットは前後の制動バランスをコントロールしてくれるが故に、リアにメタルなど、効きの異なるパッドを前後に装備しても変化が分かり難いと言う点だ。

ABS無しの場合は、完全にアナログ制御でペダル一つで全ての車輪を一括して担うため、パッドの味付けなど、ブレーキバランスの変化がハッキリと体感できる事、ダートコースなど、低μ路での轍ブレーキが使い易くなるなど、ロックさせる事をそのままメリットに出来るカテゴリでは有効となる。

対して、EBD付きABSの様に旋回中のブレーキなどは姿勢を乱し易く、この点では不利と言うのがデメリットだ。

これらを踏まえて、参加するカテゴリや目的に合わせてABSの有無を選択して欲しい。