ターボチャージャーやスーパーチャージャーなど、過給機付きのエンジンにはブローオフバルブと呼ばれる部品が付いています。
厳密に言うと、リサーキュレーション(再循環)バルブと言う部品で、所謂、大気解放させる事を目的としたブローオフバルブとは異なりますが、純正であろうとホースを引き抜いて大気解放させてしまえば、それはアフターパーツのブローオフバルブと同じです。
要するに、大気解放するかしないかの違いはあれど、行き場を失った吸気管内の圧力を抜くための安全弁として装備されているパーツである事に変わりはありません。
このブローオフバルブですが、不要な圧力を抜く事で吸気管のホースなどが弾いてしまったり、所謂バックタービンを生じて過給機本体にダメージを与えてしまうのを防ぐために存在しますが、このバルブが圧力を逃がして欲しくない時に開いてしまうと、ブースト圧の立ち上がりが遅れてレスポンス低下を招いたり、本来出るはずのパワーをロスしてしまったり…。
これを改善するために装着するのが、アフターパーツの強化型や調整式のブローオフバルブと言うわけです。
■ブローオフバルブが開く仕組みは?
ブローオフバルブを強化、シンプルに言えば開き難くするとどうなるのか?
ズバリ、過給圧が漏れないので、スムーズにブーストが立ち上がる様になります。
開き難いとは言っても、インマニで生じる負圧や差圧によって開く構造なので、非常識なほど固いバネを仕込んでいない限りは、スロットルを閉じた瞬間にきちんとバルブは開くので問題ありません。
ブローオフバルブはスロットル前に取り付けられており、リターンホースの先はタービンの前、エアフローセンサーの下流に繋がっています。
そして、もう一本頭に付いている細いホースはインマニ(スロットルの下流)に接続されています。
スロットルが開いている間は、空気をエンジンへ押し込んでいる状態となり、タービン以降の圧力はほぼ同じとなりますが、スロットルが閉じた瞬間にインマニ内は圧力が下がり、タービンからスロットル前までの吸気管内の圧力が上昇します。
この際に、インマニの圧力で制御されている上部のバルブは負圧で吸い上げられる方向に力が掛かり、下部のリターンバルブは吸気管内の正圧で押し上げる方向に力が掛かります。(車種によってレイアウトは異なるため、外観上の違いはあります)
この差圧(インマニ<吸気管)でバルブが開いて圧力を逃がす構造となっているわけです。
でも、その理屈だとどうやって強化するのよ?
その答えが、純正のブローオフバルブに備わっているリリーフ機構と言う、バルブを開き易くする構造に隠されています。
これから本題の強化加工の話に移りますが、念のため先に断っておきます。
全く問題ないと言う人もいますし、実際にそれがどれくらいの影響を及ぼすのかは定かではありません。
簡単に開いてしまうとブーストの立ち上がりが鈍くなるのに、純正が何故その様な機構をわざわざ設けているのか。
それは、バックタービン(タービン側への過給圧逆流)などに比べれば極小さな影響とは言え、タービンに掛かる余計な負荷を抑え、故障リスクを回避しているので、純正を強化加工する事も、社外品の強化バルブに変更する事も「良い事」とは言えない…と言うより、どちらかと言うと「良いわけがない」ので、多少なり寿命低下などのリスクがある事も覚悟の上で行ってください。
■純正ブローオフバルブの強化加工
先程説明したリリーフ機構ですが、バルブに掛かる圧力で押し開けていると言う構造からも察しが付く通り、上段のインマニの負圧で引き上げるバルブの面積より、下段の押し上げる側、圧力の掛かるバルブの面積を大きくする事で開き易くしている。
故に、スロットルを全開にしていても、過給圧で僅かに開いてしまったりと言う現象が発生する事になる。
インマニの負圧を受けているバルブのサイズも分解して見なければわかりませんし、リリーフ機構のバルブも外からは大きさが分かりませんので、単純に2倍!などと数値で表現する事は出来ませんが、バルブは2段構造になっていて、細いバイパスが隠れたもう一つのバルブがある部屋に通じています。
つまり、同等の圧力が2枚のバルブを押しているので、1枚のバルブを押すのに比べて低い圧力でも開く構造になっています。
純正ブローオフバルブを強化する方法は、東名パワードなど、社外品の純正強化品などでもお馴染みの加工を施し、リリーフ機構をキャンセルしてしまうと言う方法になります。
これにより、圧力の掛かるバルブは表から見える1枚のみとなるため、リリーフ機構を活かした場合に比べて、より高い圧力が掛からなければ開かなくなると言うわけです。(上の図の緑の位置が吸気管内の圧力で押される部分)
その具体的なリリーフキャンセルの方法をご紹介したいと思います。
えー?加工って難しいんじゃないの?DIYは自身がないんだけど…。
心配ご無用!
こいつでリリーフ機構の穴を塞いでしまおうぜ!って、目を疑う程シンプルで、安上がりな方法である!(笑)
なんと、最寄りのホームセンターで100~200円払えば、強化ブローオフバルブが今日からあなたの物に!!
リリーフキャンセルを行うには、実際に自分の車両に付いているブローオフバルブを取り外して、リリーフ機構の穴のサイズを確認してください。
後は、穴を塞げそうなナイスサイズのイモネジを買ってきて捻じ込んでやればOKである。
脱落して吸気管内に吸い込んでしまうと大変な事になるので、間違っても緩いネジを使ったり、パテや接着剤で塞がない様に!
尚、穴を塞ぐだけでは密閉状態となったリリーフ機構の容器内の圧力が上がって弾けるだとか、逆に負圧になる事で抵抗が生じてスムーズに開閉しなくなるなどの情報があるので、リリーフ機構の容器内が大気圧になる様に、ドリルで穴開け加工を施すのが一般的である。
こんなところで、少し前に買った電動ドリルが活躍しました!
強化加工品を買うと高いですから、これでドリルの元が取れましたねー!(笑)
言葉だけでは良くわからないと言う人もいると思うので、実際にマツダスピード・アクセラの純正ブローオフバルブの強化加工を例にご説明しましょう。
■実際に加工してみる
まず、ブローオフバルブってどれ?
これです。
車種によって取り付けられている場所や、形状などに差はありますが、スロットルとタービンの間のどこかに付いています。
アクセラの場合は、ボンネットを開けると向かって右手前、インタークーラーのパイプ出口に直付けの形で取り付けられています。
表から見える細いホースはインマニへ、死角になっていますが、裏側のちょっと太いホースはタービン上流の吸気管にリターンする様に繋がっています。
加工のためには、まずコイツを取り外す必要があります。
アクセラの作業に必要な道具や部品はこれだけ。
リリーフ機構をキャンセルするためのイモネジ(M6)と、ホースバンドを外すためのラジオペンチ、10mmのソケットレンチ、その他は取り外したブローオフバルブを簡単に清掃するためのウエスとパーツクリーナー、穴開け用のドリルがあれば、着脱から加工まで全て完了します。
強いて言えば、先の曲がったタイプのペンチの方が作業性が良いかな?くらい。
ボルト2本で留まっているだけのインタークーラーのカバーを取り外したら、2本のホースを引き抜きます。
奥のホースはちょっと作業スペースが狭いですが、それ程固くはないので簡単に抜けると思います。
あとはブローオフバルブ本体を固定しているボルトを2本外せば、あっさり取り外しは完了です。
フランジ部分に挟まっているパッキンを落として紛失しない様にだけ注意しておきましょう!
ついでなので、事前にパッキンを用意しておいて交換するのも良いかもしれません。
外れました。
ここまで5分前後と言ったところでしょうか。
ホースの引き抜きに苦戦しなければ何も難しい事はありません。
一応、ここからブローオフバルブを部屋へ持ち帰って加工を施しますので、ホースやフランジ部の穴をガムテープなどで塞いでおきましょう。
ゴミや虫が入ってしまうと大変なので(笑)
こちらがアクセラのブローオフバルブですが、赤丸の部分がリリーフ機構に繋がる穴です。
ちなみに側面を観察すると、この出っ張りの中を通って、上段のリリーフ機構のバルブへ通じている様です。
と言う事は、穴を塞いだ後に、この出っ張りの部分に穴を開けてやれば良いと言うわけですね。
今回買ったイモネジには、ご丁寧に六角レンチが付属していたので、これを使ってイモネジを穴に捻じ込みます。
最初のネジの掛かりだけ慎重に、真っ直ぐネジが入っていく事を確認したら、一気に締め込んでいきましょう!
相手がプラスチックなので、それ程力は要りませんが、金属製の場合は先にタップを切った方が良いかも?
穴さえ塞がれば良いので完全に捻じ込む必要はありませんが、フランジに取り付ける際に干渉しない様に、大凡フラットになるくらいまで締め込んでください。
仕上げに、バルブがスムーズに開閉出来る様に、リリーフ機構の容器に穴を開けて大気圧になる様に加工。
2~3mm程度の穴を開けてやればOKです。
中には2つも3つも穴開けする方がいる様ですが、心配なら大きめの穴を1つ開けるだけの方が見た目も綺麗で良いかと…(笑)
私は3mmの穴を1つ開けました。
ちなみに、この位置の穴はリリーフ機構の穴を塞いでいるため、開けていても大気解放にはなっていません。
つまり、保安基準上は問題ないと言う事になります。
加工が完了したら、後は取り外したのと逆の手順で元通りに取り付けて作業は完了です。
■効果を確認してみる
とりあえず…街へ出てみる。
多少ですね、発進時やちょっとした加速など、低速からトルクが出てるなって感じはします…とか言いたいところなんですが、この台詞はYouTubeで見た誰かのコメント(笑)
市街地を普通に走っていても、何も変化なんて感じませんでした…。
それもそのはず。そもそもブーストが掛かる様な走り方をしなければ変化なんて感じるわけがないのだ。
…と言う事で、ちょっと高速道路を走ってみる。
料金所を過ぎて合流までの加速時に低速で引っ張ってみる事にしたのだが、こいつぁすげー!!
全然違いがわからねー!(笑)
一応、事前にOBD2のデータをスマホに飛ばして、回転数やアクセル開度、ブースト圧などを確認しておいたのですが、確かにアクセルをグッと踏み込んだ瞬間からのブーストの立ち上がりは少し早いです。
しかし中途半端な踏込ではなく、アクセルを全開にした場合なんですが…、そもそもノーマルのブーストの立ち上がりも早いので、目で追っている範囲では違いがわからない。
んで、微妙な開度でのブーストの立ち上がりが少し早いと言っても、実際に体感できるかと言ったら正直言ってそれ程加速感などに違いはない(笑)
とは言え、少なからずデータ上では少しブーストの立ち上がりが早くなっているのは事実なので、サーキットを周回してタイム計測をしたり、実践としてコース上で全開アタックをしていれば、シビアさが出て乗り難くなったとか、逆に良くなったとか、何らかの差を感じる事は出来るかもしれない。
単純に街乗りや高速道路の合流で真っ直ぐ加速させるだけでは、うん、まあ良いんじゃねーの?くらいの話である。
街乗りでも違いがすぐ分かるなんて噂がありますが、気のせいと言えるレベルですよね。
…と思っていたのですが、低速ギアを使って加速している時ではなく、4速、5速などで走っている時、カーブを曲がり終えた後や、上り坂を上っている途中など、2000rpmくらいから少しアクセルを開けた際にあれ?と気が付く。
トルク感が増してます。いや、マジで。
恐らく、ピークのブースト圧などは変わらないのでしょうけど、低速からブーストが掛かり始めるポイントが数百rpmほど下になっているのでしょうか?
アクセラの場合、4速でワインディングを流している時のあの雰囲気が5速でも味わえると言った感じ。
逆に3000rpm辺りを超えてくると、加工前後での差はあまり体感出来ない印象。
ブーストの立ち上がりが早い?スムーズ?どちらの表現が正しいかはわかりませんが、低回転から加速しようとした際には少し力強さを感じると言うのは間違いなさそうです。
後はタービンの大きさや吸気管の容積、排気量などなど、色々と車種によって条件は異なると思うので、一概にどの辺りが良いとか悪いとか説明するのは難しいですが、予備のブローオフバルブが手に入るなら1つ加工して試してみるのもありだと思いますよ!
■おまけ バックタービン仕様を試す
ターボ車のチューニングで、最近良く耳にする「バックタービン」とは何なのか。
あまり気軽にお勧め出来るチューニングとは言い難いのですが、興味のある方のために予備知識としてご紹介しましょう。
前半で説明した強化ブローオフバルブは、アクセルオンでフルブーストが掛かるまでの間、意図せず低い圧力で過給圧を逃がしてしまわない様に”バルブを開き難くする”と言う物でした。
これにより、ターボラグが若干改善され、ブーストの立ち上がりが僅かに早くなると言った効果が狙えます。
対して、リリーフ弁またはホースの内径を絞る、または塞ぐと言った方法を取るのが総称してバックタービンと呼ばれるチューニングです。
リリーフ弁の内径を絞ると、アクセルオフ時にブローオフバルブが作動して過給圧を開放するまでは同じなのですが、径が小さくなると過給圧の抜ける速さ、つまり流量が制限されます。
これにより、アクセルを頻繁にオン・オフする様なスポーツ走行時など、吸気管内に圧力が残っている事となるため、再度アクセルを踏み直した際のレスポンスが良くなります。(実は条件によって逆効果<後述します>)
また、上記の2つのメリットを過剰にしたのが、完全に塞いでしまうと言う方法です。
この場合、そもそもブローオフバルブが機能しないため、加速時はもちろん開きませんし、アクセルオフでも吸気管内の圧力に逃げ場はありません。
この際に、逃げ場を失った吸気管内の圧縮空気が回り続けるタービン側へ吹き返す事に由来して、バックタービンと呼ばれるわけです。
この際、ブローオフバルブの大気解放音とも違う独特のノイズが発生します。
では、実際にバックタービン仕様に改造してみましょう(笑)
改造とは言っても、実は凄くシンプルな話です。
ブローオフバルブが機能しない様に、めくら板で塞げば良い。
まず、ブローオフバルブないしはリサキュレーションバルブを車から取り外し、フランジ部分の型を取ります。
それに合わせて1mm厚のアルミ板を切り出し、ドリルを使ってボルトと通す穴と、完全に塞がない場合はリストリクターとして機能する様に狙いに合わせたサイズの穴開けを行います。
また、フランジ形状に合わせて1mm厚のゴムシートから切り出したパッキンを作成して準備は完了です。
ちなみに、1mm厚程度のアルミ板ならカッターで数回切り込みを入れた後、板をグイグイと手で曲げ伸ばししていれば金属疲労でパキンッと型から外す様に綺麗にカット出来ますので、角のバリをやすりで整えればOKです。
後は、出来上がっためくら板とパッキンをブローオフバルブのフランジに挟んで取り付けるだけ。
穴の有無や径を変えた物をいくつか作成して、数パターン試してみると変化が良くわかると思います。
ブースト圧が極端に高い車や、社外品の吸気管キットなどを使用している場合は配管のホースが抜け易い場合もあるため、試走の際は手直し出来る程度の工具を車に積んでおきましょう。
ちなみに、今回アクセラで試してみたところ、φ10の穴では特に体感として大きな変化は感じず。
φ5の穴では、アクセルオフした直後の踏み直しで明らかにレスポンスが上がった様な印象を受け、再加速時にドンッと言った感じの衝撃が走る程に。
最後に、完全に塞いでみましたが低速からそもそもギクシャクするくらい、アクセルに対して敏感になっている印象を受けました。
私のアクセラはエアクリーナーBOXなどもノーマルなので、独特のバックタービン音はほとんど目立ちませんが、試しにエアクリーナーBOXを開いてアクセルを煽ってみたところ、かなり大きな音が出ます(笑)
剥き出しタイプのエアクリーナーだと同様にバックタービン音が発生するかもしれませんが、この辺りは好みの問題なので、一応”異音”は出る様になりますよとだけお伝えしておきます。
尚、バックタービンのメリットを簡単に説明した際に、条件によっては実は逆効果だとお伝えしました。
実のところ、ターボラグやアクセルレスポンスを鈍らせる原因になっていると考えられているリサキュレーションバルブですが、実はその逆。
吸気管やタービン保護と言う役割が主な機能である事に違いはありませんが、タービンへの吹き返しによって止まってしまう過給を”続けさせる”狙いがあり、余剰分をリターンさせているに過ぎないため、リサキュレーションバルブが閉じた瞬間に滞りなく過給が始まります。
つまり、バックタービンさせない方がレスポンスは良い。…はず(笑)
ただ、バイパスが全く開かない事によりロスする分が少ないは事実なので、ブーストの立ち上がりが若干早く、極短時間に瞬間的なオンオフが連続する様なシチュエーションに於いては若干のメリットが得られる”場合がある”くらいの話と言う事になります。
恐らく体感的な変化は、若干”ドッカン”気味になるギャップから良くなった様に感じるだけなんじゃないかな?と思いますので、ブーストの立ち上がりを若干早く…と言う程度なら、強化バルブくらいに留めておくのが良いかと思います。