RX-8に乗っている人なら、ナカムラレーシングファクトリー(NRF)と言うショップがTifariaと言うブランドで販売している「サーマルエフェクター」ってパーツをご存知の方も多いはず。

サーマルエフェクターなんてかっちょいい名前が付いているが、実はこれ、ロードスターハチロクに乗っている人の装着率が高い”アレ”の事みたいなんだ。

上記の2車種に限らず、剥き出しタイプのエアクリーナーだったり、4連スロットル化した際など、エンジンルーム内の熱気…特にラジエターを通過して来た熱風が、直接吸気管周辺に流入してくる事で、吸気温度が平気で80℃オーバーなど、過給機かと疑う様な温度になってしまう事がある。

これによるパワーダウンやノッキング発生のリスクを回避するために、アルミ板プラ段を加工して、ラジエター通過後の風をフロア下へ送るための導風板を作成するのが定番となっている。

実際に試せばわかるが、この効果は絶大なのである。

しかし、RX-8ではノーマルの吸気システムが非常に良く出来ており、フィルターBOX下の隔壁による熱害対策に加え、バンパー裏から直接BOXまで直結された可変吸気ダクトなど、ハッキリ言って変更の必要がない完成度である。

吸気系のチューニングをするにしても、吸気ダクトのラムエアーダクトへの変更が定番の様だし、剥き出しのエアクリーナーを使う人でも、熱害を嫌ってノーマルの隔壁は残したままと言う人が多い。

そんなRX-8に、後付の導風板など効果があるのだろうか?

◆意外と語られない吸気温度上昇の原因

◆サーマルエフェクターの原理を考えてみる

◆取り付けの作業難易度はどうか?

◆比較実験で効果を検証してみた結果

■意外と語られない吸気温度上昇の原因

前述した通り、RX-8の吸気システムの完成度は高く、熱害とは無縁の設計だ。

しかし、その構造や見た目とは裏腹に、吸気温度計を見てみると冬でも吸気温度が50℃を超えたりする。

そこで、昔からの定番チューン、フィルターBOXへの遮熱テープ貼りってヤツですよね。

しかしテープ貼りは、著しくエンジンルームの美観を損ねると言う致命的な欠点がある。

そして効果があるのか?と言えば、実はほとんど効果がないって結果が待っているので始末が悪い。

そもそも何か様子がおかしいとは感じないだろうか?

熱気を吸い難く、熱害も受け難い構造をしておきながら、どうして吸気温度が上がってしまうのか。

実を言うと、吸気温度は高くはないのだ。

アクセル全開の時間が長い、大きなサーキットなどを走ればわかるが、RX-8の吸気温度は外気温とほぼ変わらない。

つまり、何の影響も受けない、完璧な吸気システムとなっているのですが、吸気温度を何で計っているのか?ってところが問題なんですよ。

あれれ~?まさか、センサーで計ってると思いました?

ええ、その通り。センサーで計っています(笑)

じゃあ、もしもそのセンサー自体が物凄く熱かったら、計測される値はどうなるのか?って考えた事はありますか?

まさかと思うかもしれませんが、そのまさかが、みんな大好き「ホンダ・S2000」の前期型で実際に問題視されていた症状と言うのは有名な話です。

S2000の場合は、エンジンブロックに取り付けられた金属製のインテークマニホールドに吸気温度センサーが直付けと言う構造でした。

これにより、センサー自体が高温になり、誤った値をECU制御の演算に使う事で露骨なパワーダウンを引き起こすと言うものです。

センサーを移設するキットが販売されていたり、マイナーチェンジ後は、ホンダが公式にセンサー位置を変更すると言う対策が施されています。


■サーマルエフェクターの原理を考えてみる

注文していたサーマルエフェクターが届いたので、早速開封してみましょう。

大きな箱で届きましたが、中身が入っているのかと疑う程スッカスカで軽いです(笑)

箱の中身はこんな感じ。

ナカムラレーシングファクトリーは、フェラーリランボルギーニの様な超高級スポーツカーを取り扱っていると言う事もあってか、対応は丁寧な印象ですし、こう言った安価なパーツでも梱包がしっかりしているのは好印象です。

付属の説明書は丁寧な図説付き

ただ、そうは言っても社外FRP製品である。間違いなく小加工や修正は付き物なので、メーカーオプションの様なハイクオリティ商品とは言い難いので注意(笑)

幸いにも1層でペラペラのFRP板なので、干渉部分のカットや穴の拡大などはハサミとやすりで簡単に出来てしまうので、そんなに心配はいらない。

作業手順を図説付きで詳しく記載した説明書も付属しているので、初めて作業する人でも迷う心配はなく安心ですね!

さあ、同封されている商品説明に注目してみよう。

私が効果に期待しているのは赤枠で囲んだ、吸気管温度が下がり~の部分である。

厳密に言うと下がる事はない。

ラジエターから直射の熱風を防ぐ事で、吸気管に取り付けられたセンサーの温度上昇を抑えたいのだ。

図で分かる通り、RX-8ラジエターは斜めにマウントされており、あろう事か下ではなく上に向かって風が抜けてくる構造。

この構造からも、ダクト付きのボンネットで熱を逃がそうとする場合は、返って妨げになるのでサーマルエフェクターが逆効果となります。

ダクトの無いボンネットだと、熱の抜け自体は良くもならないが、特に悪くもならないと言ったところでしょうか。

加えて言えば、図で解説されている様に、積極的にフロア下へ風が抜ける事はない。

どちらかと言えば左右両脇のタイヤハウス内に風が抜ける構造なので、この解説の様なダウンフォース発生は考え難い…と言うより、下に抜けたとしても、そもそもが商品を売るための謳い文句に加えた誇大表現と言わざるを得ないと言うのが正直な意見だ。

ただ、ここでメーカーがセールスポイントにしていない、凄い効果をみなさんに教えちゃいます!

エンジンルームが汚れ難くなる!(笑)

当然と言えば当然の結果なんですが、これって地味に凄い嬉しいポイントだと思うんですけどね。


■取り付けの作業難易度はどうか?

この板ね、見掛けのわりにちょっと高いんですよね。

FRPパーツを自作なんかしちゃう人だと、形状もシンプルだし、原価云々って話になると、ちょっと買うのを躊躇しちゃうかもしれません。

送料込みで約22000円の商品なのですが、これだとちょっとケチって作業はDIYで安く上げようって考えちゃいますよね。

自分で取り付けるとなると、気になるのは作業難易度ですが、エアクリーナーBOXを自分で着脱できるかどうかがポイントになると思います。

では、早速取り付け作業を始めましょう。

こちらがエンジンルームの全体像。

作業時に一度取り外さなければいけないのが、手前のバッテリーBOXとエアクリーナーBOXです。

最初にエンジンカバーを外します。

まずはご覧ください。

赤丸で囲んだ中心にあるのがホットワイイヤー式のエアフローセンサーで、RX-8に採用されているこのタイプのセンサーは温度センサーが一体型になっています。

実際にセンサーを取り外して目視で確認するとわかりますが、飴色の樹脂で固められたマッチの先の様な部分がサーミスタで、ここで吸気温度を計測しています。

そして、エアフローセンサーの取り付けられた吸気管脇の隙間から、真下に取り付けられたラジエターファンの熱風が吹き出して来ると言う地獄の様な空間になっているわけですね…。

では作業に戻りましょう。

赤丸で囲んだ部分を左から順に、ホースとカプラー、ホースバンドを緩めてハーネスのクリップを外す。

エアフローセンサーのカプラーを抜き、BOXに固定されたハーネスのクリップを外します。

あとは、フィルターBOXを矢印の方向へ力いっぱい押し込むと、BOXの爪が抜けるので、矢印方向へ押したままBOX全体を上に持ち上げます。

無事に外れましたでしょうか?

たぶん、この作業が無理と言う人は、このフィルターBOXの取り外しでギブアップすると思うので、中途半端に作業してから元に戻すなんて事にはならずに済みます(笑)

もう、残りの作業はおまけみたいなものなので、のんびりやりましょう。

赤丸のナット2個、ボルト2本、ホースを一本引き抜いてやればカバーを持ち上げる事が出来ますので、作業性の良い角度に起こしてから、奥に見えるハーネスのクリップを4つ外します。

フィルターBOXのカバーが外れるとご覧の通り!

これが問題のラジエターファンですが、BOXの真下から上に向かってガンガン熱風を送ってきます。

奥の赤丸の位置にある隙間から、その真上に位置する先程の吸気管へ熱風が吹きつけると言うわけです。

ここを塞いでやろうと言うのが、サーマルエフェクターの役目と言う事になります。

この角度で見ると、そんな所を塞いでしまって大丈夫なの?って感じの詰まり具合ですが、意外と下段は隙間があり、そのまま横へ風の抜けるスペースがあるので、熱がこもってラジエターの冷却効果が失われると言う事はないです。

次にバッテリーBOXですが、うわぁ…出ました。RX-8定番のサルフェーションですね。

濡らした布で拭ってみましたが、端子が真っ赤に錆びあがっていますので、交換が必要です。

バッテリーBOXは、まずバッテリーターミナルと固定用ブラケットを外すと、BOXは上下で分割出来ますので、手で掴んで引っぱれば外れます。

そのまま邪魔になるバッテリーを降ろせば下段にアクセス出来ます。

バッテリーBOXの下段は、赤丸の位置にボルトが3本ありますので、これらを全て外してしまえば取り外す事が出来ます。

ちなみに、奥のホース下のボルトは強引にやればユニバーサルジョイントソケットレンチでも作業できない事はありませんが、作業性が悪いのでメガネレンチの方が良いです。

これでサーマルエフェクターの取り付け準備が整いました…と言いたいところですが、バッテリー下に錆が生じていたので水洗い後に研磨してからエポキシ塗料で塗装しました。

面倒なのでマスキング無しで(笑)

サーマルエフェクターの取り付けにあたり、赤丸の位置にあるボルトとハーネスのクリップを外しておきます。

尚、右側のアースポイントはパーツと干渉するため、端子の向きを180度回して留め直す事になります。

この部分は接点をワイヤーブラシで磨いておいて、サーマルエフェクターを付けた後に塗料で錆止めします。

塗料が乾くのを待っている間、ちょっとサーマルエフェクターを観察してみましょうか。

形状はこんな感じで、きちんとボルト穴や干渉する部分のカットなど、一通りの処理は行われています。

ただ、冒頭で言った通り、社外FRP製品なので、ボルト穴が少しずれていたり、僅かに干渉する部分があったりするので、棒やすりハサミくらいは用意しておいた方が良いですね。

実際、取り付けた際に前期・後期の違いなのかアースポイント横のハーネスクリップを挿し込む穴が隠れてしまったり、右端はABSの配管に少し干渉が見られたので、念のために少し削りました。

穴位置も1箇所だけ長穴加工が必要だったりと、思った程ではありませんでしたが加工は必要でした。

取り付け自体は簡単です。

邪魔になるハーネスを少し持ち上げて、下へ滑り込ませたら固定するだけです。

ラジエターからの風が下へ流れる様に少し板が反っている事と、ホースやプーリーの付近まで無理のない範囲で覆ってくれます。

アースポイントは接点を研磨しているので、固定後に刷毛で塗料を塗っています。

マスキングせずに塗っているので、板やハーネスにも付着が見られますが、隠れる場所なので大雑把に…(笑)

フィルターBOX下もバッチリ隙間が塞がれていますね!

これで吸気管に直接ラジエターの熱風が当たる事もなくなり、センサーの温度上昇防止に期待が出来そうです。

あとは外した物を逆の手順で組み立てていくだけですが、ついでなのでエアフィルターも交換しておきます。

私の価値観ではありますが、純正フィルターがお勧めです。

スポンジタイプの様に濾材剛性の低いフィルターは、高回転域で負圧による圧縮が起きて吸気抵抗が増えます。

かと言って、吸気抵抗を抑えて濾過性能を犠牲にする様なフィルターを選ぶと、エンジンの耐久性を著しく低下させる原因になるため、当然お勧めしない。

余談ですが、RX-8のフィルターBOX内は凝っていて、ファンネルが内臓されています。

また、取り外す方もいますがファンネル両脇に設置された整流板は、流体が壁面に沿って流れる性質を利用して、両脇からファンネルの縁へ効率よく空気を運ぶためのものだそう。

この理屈だと、外すと吸気効率が落ちるって事になるので、このまま残しておく事をお勧めします。

最後に腐食したバッテリーのマイナスターミナルも交換しておきましょう。

ちなみに、RX-8のバッテリーターミナルはプラス側は約2500円で買えるものの、何故かマイナス側は純正部品で単品設定がないため、交換しようと思ったら約3万円のハーネス一式交換になってしまいますので、なるべく頻繁に点検して腐食が起こらない様に注意しておきましょう。

それでも腐食させてしまったと言う方は、数に限りはありますが電装屋さんを通して入手した新品在庫がありますので、必要な方はメールでご連絡ください(笑)

1個2000円(送料込)でお譲りします。(個人情報の取り扱いについてはプライバシーポリシーに記載しております)


■比較実験で効果を検証してみた結果

取り付けまで完了したら、後は一番気になる効果の方ですよね。

一部サイトでも多くのレビューが見られますが、パワーアップした!なんて言われたところで、それを示すデータや根拠も無く、信じられるわけがありません。

特に私みたいに疑り深いタイプの人間だと、プラセボ効果がほぼ通用しないので、良くなった気がする!なんて結果がまず出ないのである。

数値で見なければ納得しないので、そう人達のために比較データを取ってみました。

完全に冷間始動からデータを取りたかったので、日を分けました。

そのため、同じコースを可能な限り同じ様に走行させましたが、完全なイコールコディションでの比較ではありません。

1つの判断要素に過ぎず、あくまでも目安としてのデータとなりますので、予めご了承ください。

 

はじめに.走行条件

Before:取り付け前・After:取り付け後

自宅から信号の少ないルートを選択して、片道約13km離れたコンビニへ。

走行時の使用ギアは2・3速、法定速度内で約50km/hをキープ。

回転数は約3000~3500rpm、加速時で最大約4000rpmとする。

コンビニにて一度エンジン停止、買い物後の再始動まで10分。

信号待ち回数はどちらも計4回だが、停車時間が完全一致とはならない。

帰宅後、アフターアイドルで5分後のデータまでを比較。

データの比較にはELM327 OBDIIアダプターを使用して、AndroidアプリのTorque Proで計測しています。

1.検証時の気温

取り付け前の方が気温が低く23℃と涼しい。

取り付け後の実験日は27℃の気温であった。

湿度については両日共に測定していないが、体感的には蒸し暑さも無く過ごし易い気候。

取り付け後の方が4℃高いので、これで比較データが低い温度を示していたら、効果ありと考えても良いだろうか?

2.始動直後

水温が30℃を超えた辺りで最初の記録。

外気温センサーと吸気温センサーは別なので、多少の誤差はあるかもしれないが、取り付け前の方では外気温より低い値が。

取り付け後の吸気温については、外気温より2℃高い値を示している。

3.暖機後

水温計の針が動き出し、下限のメモリを超える50℃付近での記録。

取り付け前後共に吸気温の上昇も見られ、サーマルエフェクター無しでは始動時から2℃の上昇が見られるのに対し、有りでは1℃の上昇に留まる。

ただし、この時点では差があるとは言えず、効果の有無を判断する事は出来ない。

4.完全暖機後

ここまでが停車状態での記録となる。

どちらも水温計の針が上がりきり、可変レッドゾーンのランプが完全消灯した時点の比較となるが、サーマルエフェクター有りでは吸気温度の上昇が、始動時から2℃に留まっているのに対し、無しでは4℃上がる結果となっている。

5.走行後

スマホのアプリを利用している都合上、走行中のスクリーンショットを撮る事が出来ないが、初めに伝えた条件での走行後、帰宅してアフターアイドル5分経過後の比較データとなる。

どちらもエアコンONでファンが回っている状態となり、水温が徐々に下がって行くと同時に、停車状態だと徐々に吸気温度は上がっていく。

しかし、それでも比較結果がこのようになってしまった。

予想以上の差である。

水温に多少の誤差はあるが、走行中に確認しても大きな差は無く、水温の下がり方にも大きな違いはない。

また、走行中については吸気温度もそんなに大きな差は無い様だが、アクセル開度の小さい時や、停車時の温度上昇が露骨なのは、サーマルエフェクター無しの方である。

影響を完全に防ぐ事は出来ないが、上昇を緩やかに抑える事は出来ると考えられる。

走行後の温度差で、外気温の高い日でありながら9℃低いと言う検証結果となり、誤差とは言い難い大きな差からも、それなりに効果はあると結論付けても問題ないと考えて差支えない。

ただ、先程も言った通り、走行中は大きな差が出ない。

停車中に差が広がって行き、結果的に再発進後に温度も下がりきらない事から、最終的に大きな差になると言った感じだ。

なので、ラリーやジムカーナなどの様にエンジンを掛けたまま走行順を並んで待つ様な場合は、スタートする頃にはパワーダウンしていると言った感じだが、サーマルエフェクターを付ければマシになるかもしれないと言ったところ。

対して、走行会で自由にコースインしたり、レースの様に走りっ放しと言う条件では、特に無くても差し支えないかな?と言うのが個人的な見解である。

購入を検討している方は、参考にしてください。

継続してデータ収集を行いますので、もし何かデメリットを感じた際には記事に追記したいと思います。