■目次

◆お手軽チューンの落とし穴

◆吸気抵抗

◆スポンジフィルターの罠

◆剥き出しタイプ

■お手軽チューンの落とし穴

定番中の定番と言えば、マフラー交換か、エアフィルター交換かと言ったくらいメジャーなチューニングです。

エアフィルターエアクリーナー、或いはエアエレメントなどと呼ばれる、吸気の濾過装置で、燃焼室へ必要な空気を取り込む際に、粉塵など、空気に混ざるゴミを除去するための重要な部品。

何故このエアフィルターを交換するのかと言うと、古くなって目詰まりをしたフィルターでは、ゴミは通過しないにしても、十分な空気が取り込めなくなってしまい、効率の良い燃焼が促せなかったり、フィルター自体が吸気抵抗となってポンピングロスの原因となってしまうため、定期的に綺麗なフィルターに交換してやる必要がある。

また、後者のポンピングロスを抑えるために、より吸気抵抗の低いフィルターに交換したり、より空気を取り込む事で燃焼を促したりと言った狙いがある。

ただし、良い事ばかりとは限らない。

例えば、エアフィルターの交換程度はECUのマージン内での燃調制御でカバーできる物がほとんどで、近年のLジェトロ制御であれば、まず空燃比の大幅なズレは回避出来るのでデメリットは感じられないだろう。

しかし、吸気抵抗を抑えるがあまり、粗悪なフィルターの場合は、通称「ザル」などと表現される、集塵効果の低い「フィルターとして機能しない」製品も存在する。

短期で使用を終えるレーシングカーならまだしも、普段から使用する乗用車に使用した場合は、即エンジンブローには至らなくても、徐々にダメージは蓄積されていき、オイル上がりや圧縮抜けと言う症状として数年後に現れる。

フィルターの濾材に限らず、中には濾材を固定したフレームの剛性が低く、フィルターの外側からゴミが通過してくるような物まであり、例を挙げると、RX-8では使うなと有名になっているR
社のフィルターなど、エアフィルターのボックスを開けると、吸気管内が砂だらけだったと言うトラブルが多発しているそうです。

本来、粉塵をキャッチしなければならないエアフィルターがあるので、吸気管内が砂埃で汚れると言う事自体が有り得ないので、点検の際にこの様な兆候が見られる場合は、すぐに使用を中止した方が良いでしょう。


■吸気抵抗

以下の図は、簡単であるが一般的に純正採用されている蛇腹状の濾紙タイプフィルターの断面図です。

左から順に、青、黒、赤とありますが、吸気抵抗が最も低いのはどのフィルターでしょうか?

…なんて、真剣に考えても、雑な図では一概には言えないので、答えなんてありませんが(笑

一応、ここでは真ん中の黒と言う事にして、簡単に説明します。

意外と勘違いされている方も多いのですが、後述するスポンジタイプのフィルターに比べて、紙のフィルター(厳密には紙ではないけど)は吸気抵抗が大きいと思っている人や、表面積の意味を勘違いしている人。

濾材自体が同じ物だとすれば、表面積が広ければ広い程、吸気抵抗は下がります。

紙のフィルターが、なぜ蛇腹状に折ってあるのかと言うと、”限られたスペースに可能な限り大きな濾材を入れるため”です。

そう言う意味では、右の赤と答える人や、逆に表面積の意味を取り違えて、正面から濾材がハッキリ見える左の青を選ぶ人もいますが、空気が通過するのは折ってある部分の側面全体です。

そこは理解したとして、どうして黒が一番吸気抵抗が低いと言えるのか、と言う点ですが。

青に対して、黒は「表面積が大きい」です。
表面積が大きいと吸気抵抗が減る理由は単純に「面圧」です。

例えば、同じ量の空気が通過すると仮定した場合、1c㎡当たりに掛かる力が変わってくるため、当然面積の広い方が吸気抵抗は低いのです。

では、赤が黒より劣る理由は何か。

折り返しの回数が多すぎて、密度が高すぎるため、隣の濾材と密着する部分が増えて「有効面積が少ない」と言えるからです。

一見表面積は一番大きいので、まあ、新品の時は良いにしても、少し使っていれば濾材同士の間が狭すぎて、小さなゴミでもすぐに目詰まりを起こしてきますし、もう一つ問題なのが、エンジンの要求する空気量が増え、吸気量が増えるとフィルターは変形すると言う点も問題です。

これが、B社やT社などのフィルターに金属網の補強などが入っている理由にもなります。

なので、この辺りのバランスも考慮された上で、濾材面積が可能な限り大きな物を選ぶ。
これが、フィルター選択の基本となります。


■スポンジフィルターの罠

エアフィルターを社外品に交換したら、どうも加速が悪くなった様な気がする…。

一昔前なら、気のせいだとか、良くなった部分とのギャップでそう感じるだけだとか、中には空燃比のズレが…と言う人もいましたが、少なくとも空燃比のズレなどはLジェトロではまず問題になりませんし、点火時期が変わるならともかく、空燃比の多少のズレは言う程大きな影響となりません。

では、気のせいかと言うとそう言うわけでもなく、最近ではスマホやGPSレシーバなどを利用したロガーが普及しているので、その変化を数値としてハッキリ確認出来る便利な時代にもなりました。

実はこの記事を書こうと思った切欠が、ある人が「フィルターを交換したら遅くなった」と言うので調べたところ、あるストレートエンドでの車速に、以前のログと比較して5~6km/hの差が生じている事実が発覚しました。

ノーマルフィルターに戻してログを取ると、ピッタリこの差が埋まるとまではいきませんが、平均3~4km/h、時々6~7km/hほど伸びる。

少なくとも、社外フィルターを下回る事が無いと言う現実。

果たして気のせいで済まされるでしょうか?

上の図は、一般的なスポンジタイプのフィルターの断面図です。

紙フィルターの話でも触れましたが、吸気圧が増す(負圧)と濾材が変形すると言いましたが、紙フィルターは濾材自体の厚さは薄く、適度なクリアランスや折り返す事で剛性を確保して隣接する濾材との密着を回避しています。

対して、スポンジフィルターは構造上、濾過能力に劣るため、複数の孔子サイズを組み合わせた多重構造(主流は二層~三層)となっている物が一般的。
また、濾材自体も柔らかいので、補強が無ければ簡単に変形する物が多く、表面積も紙フィルターより遥かに小さい物が多いです。

濾過性能を犠牲にして吸気抵抗を抑えた場合は、フィルターの変形は抑えられますが、当然粉塵の侵入を完全に防ぐ事は出来ません。

対して、濾過性能を重視した場合は、吸気圧に負けてフィルターの変形を抑える事が困難になり、濾材が圧縮される事になります。

この、濾材の圧縮で密度を増し、濾過性能を確保する考えもあるのですが、当然吸気抵抗は増大すると言う結果となります。

左の図の様に、エンジンの要求する空気量が少ない時は負圧(オレンジの矢印)が小さく、空気も十分に通過して行きますが、右の図の様に負圧大きくなると、濾材が圧縮され、大量の空気が必要にも関わらず、吸気流量が制限されてしまう結果となります。

スポンジタイプのフィルターが悪いわけではありません。
濾材の剛性確保や、高回転域の吸引圧を考慮しているか、そしてもちろん濾過性能も有しているかと言ったバランスが重要であり、この辺りを無視した形だけの粗悪フィルターは、パワーアップを目的としているのに、返ってパワーダウンを招いてしまう結果となる事もあるので注意が必要と言う事です。

ちなみに、B社とH社とのスポンジタイプのフィルターを家庭用の掃除機で吸引させてみると、たちまち変形して、掃除機の詰まり発生のインジケーターが点灯する例までありました。

ただ、この辺りは実際に買ってテストしてみるしか確かめる方法が無いため、スポンジタイプのフィルター選択は困難なわけです。

なので、結果として紙や布を折り返したスタンダードなフィルターの方が無難。
良くわからなければ、純正フィルターをそのまま使用する方が良いと言う事になります。


■剥き出しタイプ

一般的なフィルターは、フィルターボックス内にセットされており、外気の影響を受け難い構造となっていますが、一部の車種や、チューニングパーツの中には剥き出しタイプのフィルターを採用している物があります。

HKSやA’PEXiなどが販売しているスーパーパワーフローパワーインテークなどでお馴染みの形状となるので、見た事がある人も多いかと思います。

この剥き出しタイプの場合は、言わずとも隔壁は無いので、エンジンルーム内の熱気を吸い込み易いと言うデメリットが発生します。

最近の車では、エアフローセンサーを用いたLジェトロ制御となるため、熱気を吸い込んでも「空燃比のズレ」が生じる心配はほとんどありません。

ただし、問題なのは、冷えた空気と比べて、熱い空気は密度が低いため、同じ体積の空気を吸入しても、実質的に吸気量が少ないと言う事になります。
つまり、空燃比は同じ数値を示していても、実際には噴射する燃料が少なく、パワーダウンと言う結果に繋がります。

また、同時に一定の温度を超えるとECUが吸気温度補正を掛けて、ノッキング防止の為に点火時期を遅角(リタード)させる事があり、ここまで制御が入ると露骨にパワーダウンを体感出来るレベルに達します。

エンジンルームにもインパクトが出て確かにカッコイイですが、熱害に対して相当工夫をするか、明確な目的が無い以上は、良く考えてから交換した方が良いです。