■目次
■トレッド幅の変更
今回は、あくまでも幅が支配する領域の話なので、ボディパネルからタイヤがはみ出す事による空気抵抗や、保安基準の話は無視して説明を行う。
まず、ホイールのサイズは車種やグレードにより様々であり、足回りの構造も異なるため、トレッド幅のみで説明を行う事は困難である。
よって、その他条件はイコールとし、トレッド幅のみを変更した場合に、どう言った傾向が表れるのかを考えてみる。
それでは初めに、トレッド幅はどうやって変更するのか?
一般的に、トレッド幅は左右のタイヤの中心間の距離を言う。
例えばこの距離を1500mmとした場合に、取り付けられているホイールサイズを変更してみる。
標準が7.5J+47だとしよう。
ここに、8.5J+47のホイールを履かせた。
この場合、トレッドの幅は変わらない。
タイヤサイズの差やホイールの重量差による固有振動数の変化が、グリップや乗り心地の印象を変える場合もあるが、余程極端でない限り誤差の範囲。
基本的に大きな違いはないと思って良い。
では、ここから7.5J+35に交換したとしよう。
オフセットの変化は、47から35へ変更となるため、タイヤの中心が12mm外側へ移動する。
左右の合計で24mmの変化であり、トレッド幅は1500mmから1524mmとなる。
理解して頂けただろうか?
単純にホイールサイズやタイヤサイズを変更しただけのつもりでも、オフセットが変わればトレッド幅が変わるのだ。
言い換えれば、オフセットを変更するだけで容易にトレッド幅を変更出来るので、メリット・デメリットを理解していれば、コースや好みに合わせて意図的にセッティングが可能と言えるのだ。
単純に見た目のカッコ良さだけを意識して、ツライチなんかを狙ってオフセットを選択してしまうと、FFではリア側がワイドトレッドになってアンダーが強くなったり、逆にFRであれば結果としてリアの安定感が出てコーナーで踏める様になったり。
しかし、ホイールをその都度交換するのは大変である。
その問題を解決するのが、安全面で賛否両論あるが、ワイドトレッドスペーサーと呼ばれるパーツである。
実はこれ、かつて大手自動車メーカーのトヨタも、純正ホイールにアジャストスペーサーを組み合わせて販売していた事があるくらい、昔からある手法。
最近では、車検対応を謳うホイールスペーサーも売られているが、実は2017年現在の保安基準では直接関係ない部分である。
ホイールスペーサーを利用するユーザーの大半は、所謂ツライチを狙うが故にタイヤがフェンダーからはみ出してしまう事が多く、不適合とされる場合があるのだが、スペーサーを挟んでいても、車枠の突出規定の基準範囲内であれば保安基準に適合する。
ただし、安全面で推奨されているわけではないので、使用するのであれば日常点検を怠ってはいけない。
■トレッド幅の影響
まず、体感としての印象だが、ホイールサイズを変更した人のほとんどは「鈍くなった」と言うデメリットを感じながら「グリップ力が増した」と言う人が多い。
実はこれ、半分正解、半分誤りである。
理論と体感に乖離が生じる典型的な例でもあるが、実際には「どこを」「何を」アンダーやオーバーと感じ、どう言った部分をグリップしている、していないと感じるのかと言う点が問題となる。
例えば、ポンッと高レートスプリングの車高調を入れて、グリップが増して走り易くなったと言う人もいれば、ロールが減って曲がらないと言う人もいる。
スタビライザも同様に、リアを硬くしたらオーバーになったと言う人もいれば、いやいや、左右のリアがしっかり接地してアンダーになると言う人もいる。
これは全て、どこをどの様に感じているかで印象が変わるもので、いくら理論で固めようとも、最終的にはインフォメーション、フィーリングの好みで良し悪しは変わるのだ。
トレッド幅も例に漏れず同じ事が言えるが、入口・出口、Gの掛け方で異なる。
外乱などは一切無視して、シンプルで分かり易い左右の動きのみで説明すると、荷重移動量を知る事でほぼ説明がつく。
荷重移動量 ≒ 車重 × 旋回G × 重心 ÷ トレッド幅
上記の式で荷重移動量の近似値を知る事が出来る。
旋回だとややこしいため、左右方向の動きと言う事なので、厳密には横Gと言う表現の方が良いかもしれないが、まあ分かり易くしているので。
何事もそうだが、答えはシンプルで良い。
難しい公式を並べる必要はないわけで、理論と言うのは傾向だけわかれば十分である。
上記の式一つで、トレッド幅の変更が及ぼす荷重移動量の変化を意図も簡単に理解する事ができると思うが、最後の「÷ トレッド幅」と言う事は、トレッド幅が広ければ荷重移動量が小さく、逆に狭ければ荷重移動量が大きいと言う事がわかる。
詳しく説明しようと思ったら、荷重移動量と言うより、ヨーレートの立ち上がりがどうのこうのと言った話になるのですが、分かり難くなるので、イメージだけ掴めればOKとします。
荷重移動量が大きい、小さいを言い換えれば、荷重が載り難い、載り易いと言うイメージは掴めるので、後はそれによってどの様な変化が起こるのかを考えてみると大凡の答えに辿り着く。
○トレッド幅を広げた場合
荷重移動が抑えられる。
荷重が乗り難いと言う事は、初期のグリップ力の立ち上がりは遅いが、過荷重には陥り難い。
簡潔に。
初期の反応が鈍くなるが、グリップ限界は上がる。
よって、中・高速コーナーの奥で効くイメージ。
○トレッドを縮めた場合
荷重移動が速くなる。
荷重が乗り易く、初期のグリップ力の立ち上がりが速い代わりに、過荷重に陥り易い。
先程とは逆である。
低速コーナーの入り口やスラロームで効くイメージ。
初期の反応は鋭くなるが、グリップ限界は下がる。
○前後バランス
・フロント>リア
入口アンダー、クリップから立ち上がりに掛けてオーバーが出易い。
主にFFや4WDのセッティングや、サーキットに向く。
・フロント<リア
入口オーバー、クリップから立ち上がりに掛けてアンダーが出易い。
主にFRやMRなどの後輪駆動や、ジムカーナなどに向く。
後はあなたが、どこを、どう改善したいのかでセッティングを考えてみると良い。
■ホイールベース
荷重移動量の話はホイールベースにも当て嵌まる。
ホイールベースの長い車は、荷重移動が小さく、短い車は荷重移動が大きくなる。
実際の旋回性能、安定感云々の話は、オーバーハングや重量配分その他によるヨーレートだの何だのと色々な条件もあるので一概には言えないが…。
特殊な例では、ホイールベースを変更出来る車なども存在するが、通常は固定である。
ただし、擬似的にホイールベースが変化する条件がある。
それが、トレッド幅の拡張だ。
実はトレッド幅を変更すると言う事は、単純に左右のタイヤの距離が変わるだけでなく、レバー比が変わる。
サスペンションに入力される力に変化が生じるのだ。
トレッドを広げれば、単純に梃子の原理によってスプリングの実効レートは下がる。
よって、荷重移動は大きくなる。
一見矛盾している様だが、トレッド幅変更の話ではあくまでも実効レートは無視してあるためである。
また、もう一つの変化は、スクラブ半径が変わると言う点である。
実はこれが擬似的にホイールベースが変わると言う理由。
スクラブ半径とは何なのか?
簡単に説明すると、タイヤがどこを軸に動くかと言った事である。
上の図は、異なるスクラブ半径で、ハンドルを切った際の、タイヤの動きの差を示した物である。
ホイールサイズを変更した場合に、案外と内・外より前後の干渉が問題となる場合があり、この原因はスクラブ半径である。
左はタイヤの中心を軸に回る(ゼロスクラブ)が、右はスクラブ半径が広がった例である。
2つの例でハンドルを切り、舵を取った場合に、タイヤはどの様に動くのかと言う事であるが、ほとんどの場合はハブを中心に角度が変わるため、オフセットを変更してスクラブ半径が大きくなれば、タイヤ全体が前後に動く範囲が広くなる。
当然、タイヤの中心位置もズレるので、言い換えれば舵を切った時はホイールベースが変わるとも言える。
極端な表現ですけどね。
旋回中に主導権を握るのは主に外輪となるため、ワイドトレッドでハンドルを切れば、旋回中のホイールベースは伸びたと言う事になる。
単純にグリップだけで説明してきましたが、実際に車を曲げようとする力は、ヨーモーメントによるもので、グリップはそれに耐えている力。
力の掛かり方は距離が長い程強く働きます。
考え方は単純に、柄の短いハンマーを振り回すのと、長いハンマーを振り回す違いと同じです。
ホイールベースが長いと初期は鈍いが、後半で立ち上がる力が大きくなるので、コーナーの後半でオーバーが出易くなる。
逆に言えば、入口はアンダーが出易くなる。
これが、ワイドトレッド化による副作用の一つとして働くので、単純な左右幅の変化だけで判断が出来ないと言う問題を生じる原因にもなる。
この辺り、どこをメリットと捉え、どこを妥協するかが焦点となりそうだ。
■スペーサー
ホイールの変更は、コストの問題や保管場所の問題が生じるので、細かいサイズ差で大量に所有するのは現実的ではない。
この問題を解決するのが、ワイドトレッドスペーサーだと冒頭で紹介しました。
上記で説明したトレッド変更によるメリット・デメリットを考えながらも、いざセッティングしてみたけど容易に元には戻せないとなっては、気軽に試すと言う事は困難である。
対して、ホイールスペーサーを使えば、気に入らなければいつでも元に戻せると言う点では安心感が得られるし、コツさえ掴めば現地で手軽にセッティングの変更も行える、強力な武器となる。
スペーサーは単純に、車のハブとホイールの間に挟む事で、ホイールを外側へオフセットする事が出来るパーツである。
ハブボルトのピッチに合った穴が開いているだけの物と、ハブにナットで固定して、スペーサーから突き出したボルトにホイールを固定する物。
大別して2種類が存在する。
前者はホイールスペーサーなどと呼ばれる事が多く、ワイドトレッドスペーサーと言うと、後者を指す事が多い。
意見の割れる事が多いが、ワイドトレッドスペーサーの方が安全と言う人が多い。
理由は単純に、スペーサーを挟むとナットの掛かり代が割を食うので、ホイール脱落の危険性があると言うもの。
ワイドトレッドスペーサーは、スペーサー自体をハブへ固定するので、ナットの掛かり代は確実に確保されると言う理由からである。
しかし、実際にはどうかと言うと、どちらも大差無いか、むしろワイドトレッドスペーサーの方が危ない。
私がそう思う理由は、ホイールを外さないとスペーサーのナットの緩みを点検できないため、確認が疎かになりがちである事と、スペーサーにハブボルトが打ち込まれているために、スペーサーへの負荷が心配であると言う点。
対して、ホイールスペーサーであれば、ホイールナットの確認だけで済む。
また、標準で5~7mm程度の余裕があると言われているので、5mmスペーサー程度であればナットの掛かり代は問題にならないと言って良い。
…と言うより、ロングハブボルトなどに打ちかえて使用する場合がほとんどである。
ただ、どちらにしても、間にスペーサーを挟むと言う事は、多少のリスクを伴う行為である事は理解しておいてほしい。
少しでもボルトやハブへの負担を減らすために、少々値が張っても、ハブセンターを保持出来る構造の物を選び、長穴加工やマルチホール化された汎用品は避けるべきである。
街乗りでもどうかと思うのに、ましてや負荷の大きいスポーツ走行なら尚更である。
厳密には人様を危険に晒す可能性の高い街乗りこそ、しっかりした物と言う考えもありますが。
ワイドトレッドスペーサーなら、RAYS製のRaySportハブセントリックスペーサーや、KSPエンジニアリング製のR・E・A・Lなど。
ホイールスペーサーは佐藤精機(TK-Lathe)がお勧めです。
心配な方は、協永産業(KYO-EI)などのロングハブボルトを併用すると良いでしょう。
10mmロングタイプ、20mmロングタイプなどがラインナップされています。
特にワイドトレッドスペーサーに関しては、圧入されたボルトを本体が支えるため、材質や圧入精度(ボルトの垂直度や材質強度など)は絶対に無視できません。
試しにヤフーオークションなどで売られている4000円程度の物を買ってみた事がありますが、確認してみると単なるアルミ材だったり、ハブボルトが斜めに打ち込まれていたりと材質強度や製造精度が低くて結構怖いです。
国内メーカーなどと言いつつ、中国製を輸入販売しているだけと言う例も多いので、少なくとも、純国産と確認できる物が最低条件と考えておいた方が良いでしょう。
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