今回の記事は、かなり少数派のユーザーに絞り込んだ話なので需要はほとんど無いと思います。
かつて、AE86型カローラ・レビンやスプリンター・トレノ、NAロードスターを筆頭に、マニアックなオーナー達から愛されてきたE&Eシステム社のFreedom Computer(以下、フリーダム)と言うフルコンが存在した。
ハチロクやロードスター専門のチューニングショップでは、フリーダムのセッティングを得意とするショップも多かったが、E&Eシステム社は既に廃業しており、現在では取り扱っているお店も無いし、高性能なECUが選び放題な現代にわざわざフリーダムを選択するメリットもない。
これについては、未だにフリーダムの熱烈なファンが残っている事から微力ながら手助けになればと言う思いで作成したフリーダムの自作マニュアルを投稿した際にも触れている。
使うのは自由だが、今更おすすめはしない。
しかし、最新のECUに比べて劣るとは言っても、事実として昔は問題なく使用されていたECUである事に違いはなく、2010年以前までの比較的アナログ寄りな車であれば差支えなく制御は可能なので、現在フリーダムを使用しているユーザーが無理にECUを交換しなくても済む様に希望を与えたい。
特に、原因不明の不具合でユーザーを悩ませている「NBロードスターとフリーダム」の組み合わせが今回の話題だ。
■記事投稿の直後から相次ぐ報告
今からちょうど1年前に、私がチューンドカーへの好奇心で作った2.1L+4連スロットルのチューンドロードスターの話を記事にしました。
投稿直後からかなりのアクセスがあった記事なので読んでくださった方もおられると思いますが、静岡県のあるロードスター専門ショップに手掛けて頂いた車両の話です。
記事の中でヒントこそ出ていますが、ショップの名前自体は伏せているのに、問い合わせて来る方はみなさんピンポイントでショップ名を言い当ててきます(笑)
まあ、それはともかく、私はこの苦い体験談を面白おかしく語って、みなさんに笑って頂ければと思って書いたつもりだったのですが、メールで届くメッセージは”同情”のコメントが多く見られるため、ちょっと温度差があるのかな?なんて。
しかし頂いたメールは記事にネタを提供してくれる事もある。
この記事に対するメールは約40通を受け取っていますが、なんとその内の26通は大変興味深い情報となっていました。
該当する26通は全て「同様の症状」を経験したと言う共感のメッセージであると同時に、なんと全員が「同じショップ」でセッティングしてもらったと言う、今頃になって不具合の原因究明に繋がりそうな情報が飛び込んで来たと言うわけですよ。
中には”このショップの被害者だ”と言い出す人も数名いたので、共通点であるショップの技術不足が原因か?などと一瞬考えてしまったが、その考えはすぐに消える。
確かに、問い合わせて来た方の中には”納車直後からトラブルが発生しているのにクレーマー扱いで相手にしてもらえない”と言う人もいたので、ショップの対応もちょっとどうなのかな?と思う部分はあるにしても、実際に私がそのやり取りを見たわけではないし、被害意識から一方的に悪く言っている可能性も否めない。(本当に対応が悪そうな”印象”はあるが(笑)
それに、事実として私の車両は、実のところ納車直後にちょっと怪しい挙動はあったものの、少し手直ししてからは約3年の間ほぼ問題なく動いている。
少なくとも、セッティングから納車時点では、このショップは完璧に仕事をしてくれただろうと言うのが私の意見である。
では、ショップの技術に問題がないとすれば、原因は何だろうか?
私の車両は”このショップ”でエンジン本体のチューニングまでしてもらっていますし、4連スロットルなども装備していますが、問い合わせて来た26人の内、私と近い仕様の方は7人だけ。
他の19人と共通するのはNBロードスターにフリーダムと言う組み合わせである。(内、2台はNAロードスターにNB後期のBP-VEエンジン)
尚、単純にNBロードスターと言っても1.6Lもあるし、1.8Lでも前期と後期で可変バルブタイミングの有無が異なったりするので、この点についても26人全員に確認を取ってみた。
すると、完全に傾向が見えてきたのである。
該当する26人全員が、NB後期またはNB後期エンジンに載せ替えてある、つまり可変バルブタイミング付きの1.8L、BP-VEエンジンである事、そしてそれをフリーダムで制御していると言う共通点である。
シングルスロットルの人もいれば4連スロットルだったり、ノーマルの1.8Lから2L化、2.1L化、ハイカムの有無など仕様は様々だが、全てBP-VEエンジンをフリーダムで制御していると言う共通点は無視できない。
■不具合の原因はフリーダム本体?
まず、どの様な不具合が発生するのか再確認してみましょう。
私の症例も含め、各自が認識している発生のタイミングや条件は多少の違いがあるものの、共通する主な症状は以下の通りである。
○走行中に突然エンジンが吹けなくなり、グズつく(かぶりの様な症状)
○アクセルを踏み込んでも吹け上がりが悪く加速しない
○アクセルオフorクラッチを切るとエンジンストール
○再始動は問題なく、何事も無かったかのように好調
これらの症状からスパークプラグのかぶりを疑い、何かしらMAPや補正が悪さをして燃料を噴き過ぎているのではないか?などと考えて原因究明を始めたのが初期の頃で、ログなどを見ても明らかにおかしな点も見当たらないし、その後センサー類の交換や配線の引き直しなども行ったが症状は消えない。
当初から可変バルブタイミングの制御絡みが怪しいと言う疑いは持っていたので、VVTのアクチュエータやオイルラインのフィルター交換なども試してみたが、これもハズレ。。。
フリーダムの故障を疑ってE&Eシステム社に点検・修理を依頼するも問題なしとの回答であった。
ハッキリ言ってお手上げである(笑)
お問い合わせの来た26人も全員、方法や調査範囲は違えど長い時間を掛けて自分なりの原因究明を続けていた様ですが、誰一人として解決に至っていないし、半数以上は諦めて既に車を手放している。
そんな中、唯一問題を解決しているのが私である。
…と言いたいが、実は諦めたに近い。
以前投稿した記事の中で、私は「何年も掛けて原因究明を続け、最終的にフリーダムのバグであると原因を突き止めた」「修理完了と同時に手放す事を決意」と記してあるが、どうしてフリーダムのバグだと思ったのか?どうやって修理したのか?
約半年前に、この件について詳しく聞きたいと訊ねてきた方が1人だけいました。
この方が、後に真の原因を突き止めるM.Aさん(HN:ぱつらさん)である。
この時点では同様の症状を経験したと言うお問い合わせは10件程ですので、今ほど確信の持てる傾向とは言えないものの、既にBP-VEとフリーダムの組み合わせに何らかの問題(恐らく可変バルタイの制御が不具合に絡んでいる)があると疑っていたので、まずはその件をお伝えしました。
そして、私が不具合を解決した…と言うより取り除いた方法はズバリ、フリーダムを捨てて別のECUを使うと言う方法である。
そう、フリーダムを諦めたのだ。
原因究明を続けている間に、既に以前から聞いていたフリーダムの不安定さやバグと言うものは存在したので、この時点でフリーダムへの信頼が揺らぎつつあった頃、元々スーパーチャージャー仕様を制御するのに使用していたHKSのF-CONが余っていたため、こいつを使ってリセッティングを試してみたところ、症状が全く出なくなったのである。
その後、F-CONでは気軽に書き換えが出来ないため、ノーマルECUにトラストの高性能サブコン「e-manage Ultimate」の組み合わせでリセッティングを行ってみたところ、こちらも問題なく動く事が確認出来た。
既にチューンドカーにうんざりしていたこの頃、また再発するかもしれないと言う不安からこの直後に手放す事を決めたため、長期的な確認はしていないものの”正常”と言われたECUを交換して不具合が解消されたのだから、フリーダム自体に何らかのバグがあると結論付けたと言う流れである。
■鍵はクランク角信号とカム角信号
問い合わせてきたぱつらさんは、私の伝えた情報から”フリーダムとBP-VEの組み合わせに原因がある”と確信が持てたとの事で、この話は一旦ここで終了する。
まあ、結果としてフリーダムが不具合の原因であると言っても差し支えはないのですが、それではフリーダムを諦めずになんとか解決しようと言うユーザーに希望が与えられない。
そんな思いがぱつらさんを突き動かしたのか、一度は他のフルコンへ載せ替えを検討したそうですが、思い留まって詳細な原因究明を行っていたそうです。
約半年後に再び届いたメールには驚きの内容が記されていた!
まずは不具合の原因を発見したとの報告。
そして、その不具合を解決したとの報告である。
より詳しい技術的な説明はぱつらさんのブログで紹介されているので、こちら(BP-VEとフリーダムコンピュータの組合せで不具合発生)の記事を読んで頂くとして、一体何が不具合の原因だったのかと言う点について。
どうやら特定の条件が揃うと”クランク角信号とカム信号の取りこぼし”が発生すると言う現象が確認出来たそうです。
記事の中で、ぱつらさんはオシロスコープで各信号の波形を記録して確認を進めている様子を紹介していますが、フリーダムはクランク角信号とカム角信号の”2つのピックアップ信号から1番気筒の上死点位置とエンジン回転数を推測”して燃料噴射量や点火時期を決めているそうで、この各信号のHi電圧レベルが5V、Lo電圧レベルが1Vである事が確認出来ている。
問題はここからで、これらの信号を受信しているトランジスタは0.6V以下でなければOFFとならない仕様であるため、この理屈ならば本来、そもそもエンジンの始動さえ出来ないはずであるが、信号の受信に使用されているトランジスタには抵抗が内臓されていて、受け取った信号の電圧を半減する処理が施されていると説明されている。
最終的にトランジスタが処理する信号電圧は0.5V…つまり、理論上はOFFとなるわけですが、この電圧だとかなり際どいギリギリのラインで、何かの弾みにOFFとならない、ないしは僅かな電流が流れればONとなる可能性がある。
つまり、この”何かの弾み”でフリーダム側が信号を取りこぼす機会が生じてしまう恐れがあると言う事で、実際にこの取りこぼしの現象が再現され、確認・記録されている。(オシロスコープなどの外部機器を使用して発生のタイミングで確認or記録する必要がある)
この際の”クランク角信号1発分のズレは40度”となっており、現象発生以降はそのまま”点火時期が40度遅角方向にズレたまま”制御されると言う事を意味している。(フリーダムのログを確認しても、見掛け上は問題なく制御されている様に記録されるため、これまでは原因不明とされていた)
記事の中でも解説されていますが、本来の点火時期がBTDC(上死点前)30度の設定であれば、40度ズレると実際に点火信号の入力が行われるのはATDC(上死点後)10度の位置と言う事になるので、当然パワーが出るわけもなく不調に陥ると言うわけである。
これらの現象はクランク角信号、カム角信号の両方に起こり得る事で、可変バルブタイミング付きのBP-VEエンジンで頻発する理由は、クランク角とカム角の”特定の位置関係”の条件が重なったポイントで発生または、発生し易いのではないかと推測もされている。
尚、可変バルブタイミングではカム角は一定の周期ではなく常にタイミングが変化すると言う特徴や、最大進角が40度でクランク角信号1発分のズレと一致する事から、何かしらの相関もありそうだと締め括られている。
もう1つ記事の中で気になる点に、半導体は温度上昇に伴い1℃毎に-2mVの変化が起こり、これによりトランジスタのVbe(ベースエミッタ間電圧)が下がる事が説明されています。
この辺りは詳しく説明されていませんが、Vbeが低下する事でオフセット電圧が狂う事は良く知られていますので、それにより温度が上がる程トランジスタがOFFし難くなると言う事だと思います。
これについてはNBロードスターに限らず、昔からフリーダムの熱暴走の話は良く聞くトラブルなので、可変バルブタイミングが付いていないエンジン(ハチロクやNAロードスターなど)でも夏場の長時間走行などで不調となる原因はコレかもしれませんね。
尚、ぱつらさんはメールの中でこう付け加えてあります。
” 個人的には「ECUの不具合」でも「車両側の不具合」でもなく、「相性の問題」と捉えています。ブログでも触れましたが、決してフリーダムコンピューターの設計ミスではありませんし、車両側センサーの設計ミスでもありません。フリーダムは他の車両では問題なく動いてますし、車両側センサーも他のECUでは問題なく動いています。「BP-VEにフリーダムの組合せでは、この部分にミスマッチがあった。」だけ。
つまり「BP-VEにフリーダムの組合せ」を作った「[ショップ名]さんの検証不足」が真の原因かなと。引用:ぱつらさんのメールより
組み合わせを作ったショップの検証不足…確かにその通りだと思います。
詳細な原因究明を進める中で実際に現象が確認、記録出来ているのですから、販売時点で気付かなかった不具合だったとしても、ユーザーからの報告を真摯に受け止めて確認・調査していれば改善出来た可能性は十分にあるでしょう。
” 改造車は基本的には全てが自己責任ですが、この案件は明らかに「瑕疵」と言えると思います。つまり「リコール」対象であり、消費者庁案件に相当すると思います。走行中にエンジンが止まるんですから、本当に危険を伴う重大な欠陥です。「この組合せ」は比較的高額商品となる。にもかかわらず、納車後の[ショップ名]さんは冷たい。多くの方が泣き寝入り状態。この手の案件で、相手を動かすには、騒ぎを大きくする手法が有効なのは、いつの時代も同じかと(^^;
引用:ぱつらさんのメールより
前述した”改善出来た可能性は十分にある”と言う点からも、ショップの瑕疵であると言うのは大袈裟な表現ではないと思います。
ただ、E&Eシステム社は既に廃業しているので、今後こちらのショップで車両製作を行ってもこれ以上同様の症状に悩むユーザーが増える心配はないでしょう。
今更騒ぎを大きくする必要があるのかどうかはわかりませんが、後は既存のユーザーさんがどう考え、どの様な行動を起こすのかだと思いますが、いずれにしても現状の証拠だけでショップの対応に期待するのは厳しいかもしれませんね。。。
■基盤の修正で不具合解決
クランク角信号とカム角信号の取りこぼしによる点火時期制御のズレが不調の原因だと判明しましたが、これを解決する方法はどう言ったものなのでしょうか。
これが実のところ、言うのは簡単だけど、実際に修正するのはそう簡単な事ではないです(笑)
理論的にはトランジスタのON/OFFの境が際どい電圧となっている部分を、トランジスタの交換や抵抗の変更で安定させてやる様に基盤の修正を行えば良いと言う事になるのですが、部品や回路が小さいのでそれなりのはんだ技術が要求されますし、電子部品への知識も必要です。
自己解決に至ったぱつらさんも、まずはトランジスタの交換を試してみたそうですが、何故か理論通りに動かないと言う事で、最終的にはやや複雑な追加基盤で対策をされています。
詳細な回路図や作業手順については、ぱつらさんのブログに写真付きの解説が掲載されていますので、自信のある方はこちら(BP-VEとフリーダムコンピュータの組合せで不具合発生 その2)の記事を参考にして対策してみてください。
あくまでも、自己責任です。
ただ、どうしても自分で作業出来ないと言う方は、ここまで原因が特定出来ているのですから、基盤の加工を得意とするお店(パソコンショップや無線屋さん?)を探して修正加工してもらうと言うのも一つの選択肢ではないでしょうか。
私自身は薄情にも、フリーダムを諦めて他のECUを使う事をおすすめしますが、どうしてもフリーダムにこだわりたいと言うユーザーさんにとっては、ぱつらさんの基盤修正案が唯一の希望ではないかと思います。
もし、この不具合の原因がE&Eシステム社が営業していた時代に判明していたならば、何らかの修正対応をしてもらえたかもしれないと考えると、あまりにも遅すぎた事が悔やまれますね。。。
今後新たな不具合などが発見されても、メーカーのサポートが受けられなくなった今、残ったフリーダムユーザー同士の情報交換だけが頼りとなりそうです。
関連記事
BP-VEとフリーダムコンピュータの組合せで不具合発生(ぱつらさんのブログ)
BP-VEとフリーダムコンピュータの組合せで不具合発生 その2(ぱつらさんのブログ)