今日は嘘か本当か、実験ネタを持ってきましたよ♪
私が以前から、スプリングの選択に迷ったら叩いて音を聞いてから選ぶなんて話を、半分冗談、半分本気で言ってるんですがね。
あまり信じる人がいない(笑)
と言うのも、私も確信を持って言ってるわけでもなく、あくまでも迷った時の”目安”として音色を判断基準に用いる事があるってだけの話。
スプリング自身の持つ固有振動数によって叩いた時の音色は様々。
ここで言う固有振動数とは、荷重とレートから計算する伸縮の周波数の事を言ってるのではなく、物体が持つ振動周波数の事を言っている。
私の言ってる事が本当に正しいのか、数値で確かめてみようと言うネタである。
■スプリングの種類を大別すると…
私が知る範囲では、スプリングはこの世に2種類しか存在しない。
ハイパコか、それ以外か。
………冗談です!冗談ですよ!!(笑)
だって、ハイパコの広告にそう書いてあったんだもん。。。
苦情は販売店へ(おい)
同レート、同サイズ(内径・レングス<自由長>)のスプリングでも、並べてみると少し設計が異なる物も多いですよね。
写真の例では、良く見ると巻き数が違いますが、この程度の違いだとパッと見ただけでは一見同じに見えてしまう可能性も。
対して、明らかに設計の異なるスプリングと言うのも存在します。
スウィフトなど、線径も細く短い(巻きが少ない)構造でハイレートな物は、軽いと言うメリットや、ジムカーナなどで好まれるクイックなフィーリングに感じます。
ハイパコなどの様に線径が太くて長い(巻きが多い)タイプとは真逆の設計で、スウィフトの様に細線の短いタイプは許容荷重(許容ストローク)が低めと言うデメリットもあり、物によっては線間密着まで耐えられなかったり。
実際に、過去にスウィフトのスプリングを線間密着させちゃった事がありますが、折れはしないものの縮んだまま変形して元のレングスには戻らなくなりました。。。
中にはちょっと特殊な巻き方をしたスプリングもあったり。
写真の例では、部分的に線間密着させてレートが変化するバリアブルレートです。
1本のスプリングにサブスプリングを予め取り付けてある様な構造ですね。
ただ、この項で言うスプリングの種類とは、こう言った特殊な構造の物ではなく”材質と設計の組み合わせ”の事です。
先程の話に戻りますが、スウィフトのスプリングはクイックなフィーリングだと言いました。
同じレートだった場合、同じ荷重を掛けると同じだけストロークする(初期レートの立ち上がりなどは無視した場合)のは変わらないはずなのに、何故動きやフィーリングに違いが現れるのか。
それは材質や設計によってスプリング自身の持つ伸縮特性(減衰係数ないしは減衰比)に差があるから。
まずスプリングレートの基本的な理屈について説明すると、スプリングは単なる一本の金属棒であると言える。
同じ長さの棒を手で曲げようと思ったら、太い方が硬いと言うのは想像も容易だと思いますが、同じ太さで長さが違ったら?
短い方が曲げるのに力が必要ですよね。
この様な一本の棒をコイル状に巻いてコンパクトにしたのがコイルスプリングで、同じレートで同じ内径・レングスでも、メーカーが異なれば線径や長さ(巻き数)が同じとは限らない。
この部分が設計に該当する部分で、大別すると低反発(太線を長く巻く)か高反発(細線を短く巻く)の2種類。
同じ方向性の設計でもメーカー毎に微妙な差があったりしますが、分かりやすい例ではハイパコとスウィフトの同レート・同サイズのスプリングを比べてみれば線径や巻き数に明らかな違いがあるので一目瞭然です。
続いてもう1つの違いが材質で、メーカー毎に微妙な材料の配合は違うと思いますが、一般的なバネ鋼で作るのか、高張力鋼で作るのかと言った違い。
これは線径や巻き数など見た目がほぼ同じでも、高張力鋼で作ったスプリングの方がハイレートになります。
これらの組み合わせから種類を大別すると4種となり、以下の様なタイプに分けられると予想出来ます。
(クイック)高張力鋼+高反発>一般バネ鋼+高反発>高張力鋼+低反発>一般バネ鋼+低反発(マイルド)
■減衰と固有振動数
上記のクイックだのマイルドだのは単なる目安でしかありませんが、これらの材質や設計によって変わる動きやフィーリングの違いは、スプリングとは入力された力を熱や音に変換して発散する装置だと考えればイメージし易いです。
このエネルギーの発散が”減衰(減衰比)”と呼ばれるもので、自然振動させたスプリングの振動が収束するまでの振幅減少や時間に影響します。
高反発(細線・短い)と低反発(太線・長い)を比べた場合、質量の大きな低反発の方が余裕を持ってエネルギーを吸収し、緩やかに発散出来る。つまり減衰が強いので伸びのスピードも緩やかとなり乗り心地や動きの印象も変わる。
逆に高反発の方は減衰が弱く伸びが速いので、硬い印象を受けるがクイックなフィーリングとなる。
ただし注意しなければならないのは、実際に車に取り付ける場合、スプリングだけでなくダンパー(ショックアブソーバー)を組み合わせる事になる点。
車高調など社外品のダンパーには減衰力調整の機構が付いていたりするので、ダンパー側の減衰特性を変化させると、悪く言えば誤魔化せてしまう。良く言えば不都合な動きを抑えて利点を活かせる可能性があるので、少々の差では単純にスプリングだけの違いを感じ難い場合もある。
尚、スプリングの減衰の決め手は前述した”質量”と言えますが、アルミと銅の様に3倍程の比重差でもない限り、質量に直接影響しているのは”設計”と言っても過言ではありません。
同じ線径なら短い方がハイレートになりますし、同じ長さなら線径の太い方がハイレートになる。
今回の比較には含んでいませんが、同銘柄の同レートでレングスが異なる場合も、短いとクイック、長いとマイルドな印象を受けるのは同じ理由ですね。
この差は”剛性”と言い換える事が出来ます。
ここからが今回のネタの本題となりますが、スプリングの音色…即ち”固有振動数は質量と剛性で変わる”のである。
質量が軽い方が高周波、重いと低周波。
剛性が低い方が低周波、高い方は高周波となる。
ピアノの弦は振動のモードが異なるので話が変わってきますが、音叉やトライアングルの様な楽器だと分かり易いかも。
トライアングルは大きな物の方が低音で鳴りますが、同じ大きさの物なら本体の棒の径が太いほど高音で鳴る事からも、剛性が周波数に与える影響を想像し易い。
組み合わせから考えると、軽くて高剛性な物は特に高周波数寄りとなり、前項の設計に当て嵌めると「高張力鋼+高反発」のスプリングは高い音が出る。
逆に、重くて低剛性な物は低音寄りとなり、これを設計に当て嵌めると「一般バネ鋼+低反発」のスプリングが該当する。
つまり、叩いた時の音色をよく聴いて比較すれば、取り付ける前にスプリングの伸縮特性を予想する事が可能…
乗り心地を良くしたければ低い音の物を、クイックな動きが好みなら高い音の物を、と言った感じ。
………と主張していたわけですが、本当にその傾向があるのか確認した事はないし、あくまでも自分の耳を頼りに音を判別していたに過ぎないので、それを実際に確かめてみようと言うのが今回の実験の主旨である。
■スプリングの音色を可視化してみた
大体、こんなモンどうやって確かめるんだよ。
音なんて目に見える物でもないし、ブログのネタとしては破綻していないか?
ご安心あれ!!
音ってモンは幸いにも可視化出来るんだわ!
今回は、こちらの2種類のスプリングにご協力頂きました!
青い方はクスコのブルースプリング、下の銀色の方はKYBのコンペティションスプリングです。
この2つは同サイズ(内径・レングス)で同レートとなっています。
写真では色のせいかちょっと違って見えますが、同じ方向性で設計されているスプリングで、線径も長さもほぼ同じで見た目は非常に良く似ています。銀色の方が若干長い程度。
カタログデータを比較すると重量もほぼ同じで、許容ストロークも2mm程度の差。
単純に外観から予想しても同タイプのスプリングと言えるので、フィーリングの差は感じない可能性が高いですね。。。
実は先日、マツダ2のアッパーマウントのピロボールにガタが出たので交換したついでに、前後のスプリングも銘柄をKYBに変更したんです。
これ自体は単なる色の好みの話で、特に交換した事に理由はないのですが、前後共に同じレートの物に変更したのにどう言うわけか明らかに乗り心地が良くなりました(笑)
これはピロボールを新品に交換した影響もあるかもしれないので、本当にスプリングの差によるものなのか判断に悩むところ。
…と言う事で、それを確認するために一度元のブルースプリングに戻してみる事に。
取り外したついでなので、この機会に叩いて音を比較してみよう!と閃いたわけです。
んじゃ、実際に2つのスプリングを叩いて音色を確認してみますよー!
これが驚きの結果に!?
実際に2つのスプリングを叩いてマイクで拾った音を可視化したのが上の写真。
ウォーターフォールと言う分析画像になるのですが、左右に向かって周波数、縦方向には時間経過。
左側の低周波帯域にもやもやした部分は部屋の中の環境音で、画面下の方で広い周波数に及ぶ横一直線の明るい部分が叩いた瞬間。
その後、画面中央付近で縦に濃く表れている数本の線が確認出来ると思うのですが、これがスプリング自身が振動して発している音です。
線間で生じる共鳴や、叩いた事によって吊るしたスプリングが振れるので多少ドップラー効果などの外乱もあるのかもしれませんが、特定の周波数だけが一直線に立ち上がる様な単純な音と言うわけではなさそうですね。
ただ、この中でも特段際立ち、長く振動している音が中央の周波数。
測定レンジが~10000Hzと広過ぎて分かり難いので、画像を横向きにして並べてみました。
左は255Hz前後でC4(ド)の音、右は240Hz付近でA#3~B3(ラ♯~シ)と言った感じ。
もっと分かり易く繋ぎ合わせた画像で見ると、中央付近の音だけでなく、全体的に15~20Hz程度オフセットしてますね。
この分析結果から、左側のスプリングの方が少し高周波である事がわかります。
大きな差ではないかもしれませんが、左のスプリングの方がクイック、右のスプリングの方がマイルドである可能性を示唆している。
んで、この測定結果は実際に感じたフィーリングと一致するのか?
それが…何て言うか、その………合っているとも言えるし、微妙とも言える(笑)
と言うのも、測定実験の後に乗り心地が良くなったと感じたKYBのスプリングから、クスコのブルースプリングに戻してみたところ、明らかに硬さを感じるフィーリングで乗り心地が悪化。
再びKYBのスプリングに交換してみると、やっぱり乗り心地は全然違う。
察しの通り、分析画像は左がクスコのブルースプリング(高周波)、右がKYBのスプリング(低周波)となっているので、思った程の周波数差はなくても乗り心地がマイルドになったと感じるのは理論通りと言えます。
しかし、ブルースプリングの方がクイックになったか?と言われると、これが正直よくわからないのである(笑)
ハッキリ言って、乗り心地が良いと感じるKYBのスプリングでも同程度にクイックに感じるか、むしろハンドルを切り始めた瞬間の初期応答性が良い様にすら感じる。いや、そんな気がするだけかもしれないが。。。
これらの実験結果から考えると、人は乗り心地に直結する跳ねたり突き上げられるような感触に対しては敏感だが、手応えなどとして感じるステアリングレスポンスなどのフィーリングに対しては鈍感なのかもしれない。
これは過去に投稿したタワーバーの話でも触れたが、プロドライバーでさえステアリングレスポンスの変化を訴える主張とセンサーの測定結果が一致しないと言う実験結果に似ている。
以前、ロードスターでスウィフトとハイパコを入れ替えた時の様に、スプリングのタイプに明らかな差がある場合はさすがに違いに気付いたが、似た設計で大きな差がない場合は、挙動に対する体感は得られ難い可能性が高いと言えそうです。
もちろん”理論的には”体感出来ないレベルでの僅かな違いは絶対にあるはずなので、体感の有無に限らずレスポンスを優先して高周波のスプリングを選ぶと言うのもありですし、体感出来ないなら体感し易い乗り心地を優先して低周波のスプリングを選ぶのも価値観次第ですかねえ。
私は後者ですかね(笑)