安易にタワーバーを装着して、効いた、効かないと言った意見の食い違いは良く目にする話題です。

タワーバーの効果が出やすい車とそうでない車の違いについては、以前の記事でタワーバーの原理について説明していますが、実際の効果は試してみないと何とも言えないところですよね。

仮に効果があった!体感できた!と言う意見があったとしても、装着前後でどう違うのか、それが良い方向に働いているのか悪い方向に働いているのかは別問題。

また、走るコースやセッティングの方向性によっても良し悪しの意見は変わってくると思います。

しかし、特定のカテゴリでの装着率を見たり、いずれかに偏った意見が見られる場合は、それが必要なのか否かの判断基準にはなるかもしれません。

今回は、実際に取り付けて効果を確かめる前に、情報収集して傾向を観察してみたいと思います。

追記(2022.07.17)
タワーバーの有無によるフィーリングや挙動の変化を実走行で比較検証してみました。
関連記事:タワーバーでフィーリングや挙動の変化を体感できるのか 実走行で比較検証してみた

◆一般ユーザーに於ける装着率とレビューの傾向

◆競技カテゴリ別の装着率を調査してみた

◆レースとジムカーナに装着率の差がある理由は?

◆公開論文の記述から推測するタワーバーの目的

■一般ユーザーに於ける装着率とレビューの傾向

我々ももちろん一般ユーザーではありますが、ここで言う一般ユーザーとは、特にサーキット走行や何らかのスポーツ走行を想定していない、街乗りやワインディングでのドライブが主なライトユーザーです。

純正タワーバーの装着例

純正流用から社外品まで含め、調べてみても国内外共に装着率の把握は困難ですが、派手にカスタムする層とノーマルを好む層で分かれている様に、おおよそ半々くらいの割合でしょうか。

まあ、ハイグリップタイヤで限界までロールさせたり、スライドコントロールを要求される様な高負荷は掛からないので、正直言ってタワーバーのメリットもデメリットも大して影響がない層と考えられますが、実際に装着した人のレビューでは「車がガッチリした」「乗り心地が良くなった」「ハンドリングが良くなった」などのポジティブに受け取れる意見が多い様に見えます。

もちろん、少数ながら振動の増加や突き上げ感など、乗り心地が悪化したと言う意見も見られます。

主な用途はエンジンルームのドレスアップではないかと思われるものの、何かしら変化を感じていると言う事は少なからず効果があるのか、単なるプラセボ効果なのか。

これについては後程実践レビューの記事で詳しく説明しますが、私も実際に取り付けた後に乗ってみると、動きの変化は良くわからないものの、若干ハンドルが重くなった様な手応えや、段差を越えた時の”振動の質”に変化がある事に気付きました。

…となると、軽い負荷でも何かしら体感できる効果がありそうと言えるわけで、さっそく動きの違いが感じられるのか試しにワインディングを走らせてみると、若干どっしりした様なフィーリングになっている事と、初期の反応がクイックと言えば聞こえが良いですが、僅かにセンターフィールが悪化している様な印象を受けました。

所謂、ロードスターオーナーの多くが好むヒラヒラ感、軽快感が好みならタワーバーなし。

ダイレクト感やコーナーでの安心感が欲しいならタワーバーありと言った感じでしょうか。

あくまでも、街中やワインディングを普通に走っている場合の話に限定されますが、特に大きなメリットもデメリットもないので、見た目も含め単純な好みで良いかと思います。


■競技カテゴリ別の装着率を調査してみた

先程の街乗りがメインの一般ユーザー層と大きく異なり、勝負の世界に於いては「不要な物は取り付けない」傾向が強いですよね。

もちろん、ショップのデモカーなどは車両が広告も担っているので、意味がなくても付けている可能性がありますし、ストイックな車両でもレギュレーションの制約で付けられないと言う場合もありますが、NDロードスターに限らず、この様な調査は自分の車種が特定のカテゴリでどう言った装備を好む傾向にあるのかを知る機会になると思います。

ちなみに、どうやって調査するのか?

実のところ競技車両のエンジンルーム内を観察できる機会などなかなか得られませんし、写真もほとんど見付かりません。

レース車両はちょっと検索しただけでも意外と普通に写真が出て来るので大して苦労はしませんが、ジムカーナ車両は情報収集が困難です。

恐らくジムカーナの場合は、別に隠そうとしているわけではなく、エンジンルームが手付かずの状態がほとんどのため、わざわざ写真映えしないエンジンルームの写真をアップする人が少ないのかな?と。

これを調べようと思ったら、通常は競技会場へ出向いて車検待ちでボンネットを開いている車をこっそり拝見するくらいですが、最近は便利な時代になりました(笑)

一部は写真に写っている競技会場の風景から、ボンネットを開けているNDロードスターを手当たり次第に観察する事と、YouTubeなどの動画にチラッと映ったエンジンルームを逃さずチェックすると言う方法で、タワーバーの有無がハッキリ確認出来た物に限定して集計を取る事に。

ジムカーナ(主に全日本選手権)及びオートテスト(外国のみ)の車両は、国内外で合わせて43台のNDロードスターを集計しました。

レース車両は主に国内の車両で約30台を調べましたが、完全に傾向が出ていたので細かい集計はせず。

結果ですが、レース車両はほぼ全ての車両でタワーバーまたはタワーバーに相当する装備が付いていました。

対してジムカーナ車両では、集計した43台の内31台がタワーバーなし、タワーバーを装備した車両は12台となっており、付けない派の方が多数ではあるものの、付ける派も一定数いる事がわかります。


■レースとジムカーナに装着率の差がある理由は?

今回の集計結果も私個人が確認する事の出来た範囲での傾向であり、正確な統計を取るには不十分な台数と思いますが、カテゴリ毎に装着率の差がある可能性は十分にあり得ると思います。

まず、理由の1つにレースとジムカーナではコースが大きく異なる点が挙げられます。

ミニサーキットを走るロードスター

レースは国際格式のコースとまではいかなくても、少なくとも規模の大きなサーキットを走りますが、ジムカーナの場合は1速や2速を多用する極低速のヘアピンコーナーやパイロンターンが多いミニサーキット、または特設のパイロンコースを走る事が多いです。

前者は中高速コーナーがメインで、強めの旋回Gを比較的長時間保ってコーナーリングする機会が多いのに対し、後者は低速コーナーで瞬間的に強い旋回Gを立ち上げて、素早く収束させる様な操作が多い。

機械式デフもサーキットとジムカーナでは、好まれる効きの強さや動作タイミングのセッティングが異なる様に、タワーバーも”何らかの効果”が出ているなら、効果が求められる領域に違いがある可能性は十分にあり、その結果がカテゴリ毎の装着率の差として現れていると考えられます。

その”何らかの効果”がサーキットの様な高速コーナーに対して有効に作用する、またはジムカーナより高い速度域からのアクション(ブレーキングや進路変更など)に対するメリットがあるとすれば、ジムカーナ車両よりレース車両の装着率が高い理由がそのまま当て嵌まると言えそうです。

この”何らかの効果”を装着前後の動きの変化として体感し、特定のコースに於いてメリットとデメリットのどちらが大きいのか、または変化を感じずに終わるかは、実際に試してみるしかありません。

ただ、1つ気になる事が。。。

ジムカーナは非装着車の方が多数と言う傾向がわかったものの、タワーバーが標準装備のNR-Aが多いレース車両に比べ、ジムカーナ車両は意外にもタワーバー非装着のS系のグレードが多いと言う点が気懸りです。

記憶が曖昧ながら、以前のN車両のレギュレーションでは純正流用が許されていた部分が多々あった様に思いますが、近年のPN車両は純正パーツであっても他グレードからの流用が禁止とされている様で、タワーバーもこれに該当します。

つまりNR-Aは”取り外す”と言う選択肢がありますが、S系グレードの場合は”取り付ける”と言う選択肢はないわけで、S系グレードで参戦している選手の中には、付けたいけどルール上付けられないと言う層が混ざっている可能性があります。

もしこの辺りのルールが取り付け自由だとした場合、ジムカーナ車両での装着率の割合にも大きな変化が出る可能性がある。

つまり、カテゴリに限らず装着派が多数となった場合、コースレイアウトで選択される物ではなく、車によってタワーバーが必要か否かと言う話に変わってくる。


■公開論文の記述から推測するタワーバーの目的

タワーバーは何のために装備されているのか?と言う質問に対しては、おおよそサスペンショントップの支持剛性の確保と言う回答が返って来る。

エンジンルームの左右に配置されているサスタワーと呼ばれる部分ですが、走行中に路面から強い入力があればここが変形してフィーリングの悪化や路面への追従性悪化に繋がるため、サスペンションを設計通りに動かすにはガッチリと補強して固めてやるか、掛かる力を効率よく分散させてサスタワーの変形を抑える必要があります。

と言うのが一般論ですが、どうもそんな単純な話ではなさそう。。。

ちょっと見てほしいのですが、これわかります?

NDロードスターのサスタワー周辺の写真です。

写真右側はウォッシャータンクが邪魔で見え難いかもしれませんが、赤丸で示した部分には大きな穴が開いていて、エンジンルームからフェンダーライナーが手で触れちゃいます。

つまり、鉄板が無いので素人目には凄く弱そうな構造に見えてしまいますよね。

これはタワーバーが効きそうですねえ!…なんて考えてしまいますが、この構造は最近の車ではそれ程珍しいと言うわけでもなく、メジャーなスポーツカーでは86BRZなどもサスタワーの前後にぽっかりと大穴が開いている。

この部分の鉄板がなくなっても、サスタワーの剛性に大きな影響が出るわけではなさそうです。

先代のNCロードスター以上の剛性を得たと言う話がありますが、どの様にして実現しているのでしょうか。

気になる記述が、2015年のマツダ技報に掲載された論文の中に記されています。

2015年マツダ技報の公開論文より

「新型ロードスターのSKYACTIV-BODYストラクチャの開発」の中で、ボディ全体の構造や従来モデルからの改良点などが紹介されていますが、後半でサスタワー周辺の剛性に関する記述があります。

サスペンショントップへの入力荷重を車体外側へ効率よく分散させる事で、支持剛性を向上させたと説明されている。

ここからが注目ですが、この結果”タワーバーなしでも従来モデル(NCの事)のタワーバー付きと同等レベルの支持剛性を得た”との事です。

NCロードスタータワーバーの狙いについての記載は過去のマツダ技報の中では確認出来ませんでしたが、添付資料の図面を見ると、NCロードスターでは入力荷重をタワーバーに受けてバルクヘッド側へ分散している様子が覗えるのに対し、NDロードスターはフェンダー内側からサイドシル方向へ分散しているのが分かります。

素人目には、これがどう良くなったのかを判断するのは難しいですが、シンプルにはタワーバーを省いても十分な剛性があると言う事で、NDロードスターにはタワーバーが不要と言う意見も多いわけです。

しかし、並の走行であればまだしも、サスペンションをハードな物に変更してSタイヤなどのハイグリップタイヤを履かせた場合はより強い入力があります。

この様な場合でも、タワーバーなしで十分な剛性が確保出来るのでしょうか?

マツダ技報に記述されている内容を言い換えれば、従来モデルと同等の剛性があるが、タワーバーを付ければより剛性が上がると解釈する事も出来ます。

実例として、純正部品でコストを掛けてまで不要な物を取り付ける例は少ないので、競技ベースとされているNR-Aに標準装備されている事からも、マツダ自身がサーキット走行では必要と考えている可能性は高そうですよね。

ちなみに、マツダ技報の中ではタワーバーの有無と”剛性”の差について述べているだけで、サスタワーの剛性が上がると具体的にどうなるのかと言った内容については一切触れられていません。

では、どうなるのか?と言う疑問について、非常に興味深い研究資料がJ-STAGEの自動車技術会論文集の中で公開されていたので簡潔に内容を説明したいと思います。

該当する論文は2015年に発表されているもので「修正操舵を低減する車両剛性に関する研究」と題されています。

詳しい内容に興味があれば実際に読んで頂くとして、この中でタワーバーの有無による比較が行われていますが、ドライバーが感じるフィーリング試験に加えて、センサーを用いたデータの比較検証やシミュレータを用いた感度実験などが行われています。

特定のシチュエーションに於ける実験のため評価指標の定義は限定的ですが、結論としてタワーバーありではドライバーが主張するライントレースのし易さ(フィーリング面)と、それを裏付ける計測データとして修正舵角が減少していると言う結果が出ています。

カーブに沿ってドライバーが追従しようとする操作に関しては、フィーリングの主張とデータがおおよそ一致すると言う事ですが、それに対して操舵応答性(ハンドルを切り込んだ時のレスポンス)ついてはドライバーの主張を裏付ける結果が測定データにはほとんど表れないとも説明されています。

この応答性については、もしかしてマツダがNDロードスターを設計する際に「数値的な剛性は重視せず”剛性感”を重視した」と公言していた内容と繋がる部分があるのでしょうか?

論点が変わってきますが、オープンカーの場合は中央にルーフが無いためボディの前後が捻じれる様に動くとされており、舵を入れて曲がり始めるフロントに対して遅れて反応するリアとの”時間差”が”剛性感の低下”を印象付ける要因になっている。

言い換えれば、ルーフの付いた車であっても、前後の時間差に違和感があれば”剛性感に乏しい車”に仕上がる事もありえると言う事で、実際にぐにゃぐにゃだと感じる車も世の中にはある。

もし前後の”剛性バランス”を上手く設計する事で、前後の時間差を理想の範囲内に置く事ができれば”剛性感”を出すのに世間が考えている程の”車体剛性”は要らないと言うのがマツダの主張であり、実際に各グレード毎にトンネルメンバーの有無や強度調整穴の設定、スタビライザのサイズや有無、タワーバーの有無などを使い分けてボディ剛性の前後バランス、ロール剛性の調整を含む”味付け”が施されている。

この主張が正しければ、もし単純にタワーバーを付けた場合はこのバランスが崩れる可能性があるとも考えられるし、剛性アップパーツに手を出さなくても車高調を取り付けて前後のロール剛性に変化が起きていれば、微調整のためにタワーバーを含めた剛性アップパーツを使用すると言う選択肢が出てくるのかな?と。

単純にサスタワーの剛性を上げてサスペンションを設計通りに動かす言うよりは、アクションに対して前後が反応する時間差を調整する目的だと考える方が”体感”に反映され易いのかもしれない。

いずれにせよ、硬いだの軟いだのと言った単純な話ではなさそうですね。

関連記事:タワーバーでフィーリングや挙動の変化を体感できるのか 実走行で比較検証してみた