車高調だったり、ノーマル形状だったり、用途や好みによって選択肢は幅広いですが、足回りのセッティングって結構悩みますよね。
理由は単純に社外品のショックは高価だから、評判などを聞いた上で失敗しないように選びたいとか。
または、どんなスプリングレートを使うのか、車高や減衰のセッティングはどうしよう?と言ったものまで。
最近では安価な車高調も増えてきましたが、安いと性能が悪いのではないか?と考える人も多い様ですし、事実として値段と性能は比例関係にある場合が多いです。
しかし、中には安くて良い物もあるし、高いけど微妙と言った物もあるので、必ずしも当てはまるわけではないのですが、その比例関係が大凡成立する理由として、汎用のダンパーに組合わせるスプリングやアダプターを変更する事で、色々な車種に「取り付け出来る」状態にしたキット。
こう言った物はスタイリングを重視したキットだったり、コストパフォーマンスを重視した物と言う事になるため、全ての車種で都合よく適切な減衰で働く事は稀ですよね。
対して、少し値段が上がると車種毎にテストされ、それぞれに応じたセッティングが施されていたりします。
ただ、この場合は大凡ストリート、街乗り主体のセッティングで、可もなく不可もなくと言ったところでしょう。
では、高価なショックはどう言った物があるのかと言うと、使用目的がハッキリしていると言う特徴があります。
街乗り主体であっても、ワンダリングや不快な突き上げ感を極限までスポイルし、フラットライドな乗り心地を実現しようとする物だったり、サーキットでのコントロール性やトラクション性能を引き出すためのセッティングが施されていたりと言った感じ。
それらの行き着く先にあるのが、オーダーメイドのショックとなるわけですが、オーダーメイドって本当に良いのでしょうか?
実際に使ってみた印象から、疑問にお答えしましょう!
■オーダーメイドのショックとは
オーダーメイドのショックと言っても、大別して2通りありますね。
今回例外としたいのは、既製品のラインナップにない車種用に、アダプターなどを作ってもらったり、ブラケットを加工して取り付け可能にしてしまうと言った物。
これはあくまでも、対応させるためのオーダーとなるので、これ自体はオーダーメイドの良し悪しを説明するには不向きです。
過去に、私の知り合いがセリカのスーパーストラット用にテインをベースで加工してもらった事がありますが、あくまでも既製品の特性であり、また、ノーマルストラット用のダンパーを流用する形になるので、スーパーストラットに適した減衰特性なのかは疑問が残ります。
ここで言うオーダーメイドとは、オーダーと言っても、どちらかと言うとセミオーダーと言うべきでしょうか。
減衰特性をメーカーやショップの持つノウハウに委ねて各カテゴリ向きにリセッティングしてもらう方法や、自ら減衰特性をオーダーして再現してもらうと言った物です。
そんな事が可能なの?
はい。可能です。
これは分解して中身のバルブやシムを加工、追加などして減衰特性を変える方法で、作業内容としてはオーバーホールと同じです。
なので、新品のショックを購入してオーダーすると、当然ショックキットの価格に最低でもオーバーホールの金額が上乗せになるので、当然初期投資が高くなると言う結果になる。
これが高価と言われる理由の一つですが、逆に吊るしの状態で2~3年使って、オーバーホールのついでにオーダーすると言う形を取れば、通常のオーバーホールと大差ない金額で変更してもらえる場合がほとんどです。
例えば、ラルグスなどのメーカーはオーバーホールを依頼しても、新品のショックを先送りして、古くなった物を返却と言う形だったりするので、基本的にメーカーによる仕様変更は受けてもらえません。
また、純正ショックに多いですが、非分解式のダンパーも構造上、仕様変更は不可能と言う認識が一般的です。(中にはケースを切断してタップを切るなどの方法で加工する業者もあります)
対してテインなどのメーカー、そして恐らくシェアの高い、知名度抜群のオーダーショックと言えばオーリンズをベースとした「スーパーオーリンズ」が有名ではないでしょうか。
オーリンズのシェアは、特にジムカーナに於いてはかなりの人が愛用している様で、少なくともこれを選んでおけば間違いはないと言った安心感はありますね。
そして、ジムカーナを得意とするRIGIDやAzurなどが、オーリンズをベースとしたオーダーを受けており、これらが「スーパーオーリンズ」と呼ばれている様です。
まあ、呼ばれていると言うより、実際にスーパーオーリンズのステッカーが貼られて手元へ戻ってくるのですが。
■そもそも減衰って何?
オーダーも何も、そもそも減衰って何?と疑問に思われる人もいると思います。
良くショックが抜けてるとか言ってるのを耳にする事がありますが、実際に抜けている様な動きをしている車って、その内の半数くらいだったりします(笑)
柔らかくて大きくロールするから抜けてるってわけじゃないんですよ。
そもそも、抜けてるって何が抜けてるの?と疑問に思った事はありませんか?
ショックの筒の中には減衰を発生させるためのオイルが入っており、ロッド先端に取り付けられたピストンバルブがストロークに合わせて動いています。
ピストンバルブに開けられた穴をオイルが通過する際に発生する抵抗が、所謂、減衰力と言う事になるのですが、簡潔に言えばこの穴の大きさが減衰力の強弱、つまり特性を決定しているわけです。
ちなみに、穴と言ってもその上下はシムで塞いであり、これが板バネの様に働きます。
この板バネの強さによって開き具合が異なり、抵抗に差が出るため、伸び側と縮み側で異なる減衰力を設定できるようになっています。
その他、減衰調整式の場合は色々な方式がありますが、一例として中空のロッド内をオイルが抜けるタイプなどは、ロッドの頭に付いたダイヤルを回す事でロッド内のニードルバルブを開閉し、抵抗に変化を付ける事で減衰を調整します。
簡略化した図ですが、左がバルブのイメージ、右の図が調整機構のイメージです。
実際のピストンバルブや調整機構はもっと複雑な構造をしていますが、どう言う仕組みなのかと言うと図の様な感じでイメージして頂ければ差支えないかと思います。
そして、ショックが抜けると言うと実際に中身のオイルが外へ出てしまう事もあるのですが、余程劣化が進むか、ケースの破損がない限りは中身のオイルが減衰力を失う程、完全に抜けてしまう事は稀です。
抜けると表現すると、主にはガス抜けが起こる事を言うのですが、このガスは窒素ガス。
このガスは内部のオイルを加圧するために充填されている物で、加圧する事でオイルのキャビテーションが起こる事を防いでいます。
キャビテーションによって気泡が発生すると、オイルの密度が低下し、急激に抵抗が減って減衰力が発揮できなくなり、スプリングの伸縮が収束しなくなると言うわけです。
そう、減衰力とは、スプリングが伸縮するスピードをダンパーの抵抗(減衰力)で抑えて、素早く動きを止めようとする力です。
主には伸び方向の減衰力が重要とされており、一度縮んだバネは強い力で元の長さに戻ろうとしますが、勢いよく伸びると、再び縮む方向に動き出します。
なので、スプリングにダンパーを組み合わせる事で、伸びのスピードを抑えて動きを収束させ、1度で収束しなかった場合は再び縮み始める動きを抑える様に働きかけます。
バネに対して減衰が弱いといつまでも揺れが止まらない、バネに対して減衰が強いとバンプを拾った後に突き上げ感が強いフィーリングになります。
丁度良い減衰は、グッと沈んだ後にヒュンッと伸びてピタッと止まる動きなので、減衰調整の参考にしてみてください。
■減衰力を変更する目的とは
先程の説明が、そのまま減衰力を変更する理由となります。
バネの反発力に対して減衰力が足りていないと、収束が遅く、減衰が強過ぎると突き上げ感が出ると言った通り、使用するスプリングに合わせて適切な減衰力に調整する。
または、目的や好みに合わせて狙い通りの動きをする様に調整が必要です。
例えば、ノーマルダンパーを使用している際に、ダウンサスだけで車高を下げると乗り心地が悪くなると言われている理由がこれで、大体の場合はダウンサスは標準のスプリングに比べて硬い物が多いです。
標準スプリングで設計されたダンパーにハードなスプリングを使用する事で、減衰が追いつかず、車体が揺れ続けると言うのが乗り心地の悪化と言われる理由ですね。
また、ノーマルダンパーにエコタイヤで走っている内は良かったのに、ハイグリップタイヤを履かせた途端にロールやピッチングが激しくなって乗り難くなってしまったと言う場合。
この様な場合は車高調キットを取り付けたり、スプリングをハードな物に変更するチューニングを施しますが、この際に付属のスプリングに適した減衰となっているのがダンパーキットと言う事になります。
また、ダンパーには前述した減衰調整機構が付いている物もあり、これらはスプリングレートの変更をある程度想定した設計になっています。
ハードなスプリングに変更しても、減衰を調整してやればある程度は対応できるわけですね。
しかし、更にステップアップしてタイヤサイズを大幅に変更したり、Sタイヤやスリックタイヤなどの競技用タイヤを履かせる場合など、少々のレートアップでは足りなくなる事もあります。
この際に、極端にレートの高いスプリングへ変更すると、車高調の減衰調整の範囲でカバーできなくなる場合があるわけです。
また、カテゴリによっては特殊な減衰特性が要求される場合もあります。
この様な場合に、カテゴリに応じた味付けや、自分の理想を具現化してもらうために求められるのがオーダーメイドのショックと言うわけです。
■スーパーオーリンズの評価
オーリンズのDFV(現行はR&T)やPCVを始め、最近ではテインなども似た様な構造のバルブを採用していたりしますが、細かい狙いに違いはあれど、特殊なピストンバルブで減衰特性のネガティブな部分を補おうとするサブバルブシステムが主流となってきました。
これらのシステムは非常に優れており、吊るしで使用しても差し支えない仕上がりになっていますが、それをわざわざスーパーオーリンズに変更してもらう必要があるのでしょうか?
果たして価格に見合った価値はあるのだろうか?
今回スーパーオーリンズをオーダーするにあたり、実を言うと標準のDFVで不足感も無ければ不満もなかったと言うのが本音なのですが、スーパーオーリンズに大した違いがなければ、ここまで競技会で圧倒的なシェアを獲得できるだろうか?と。
その人気の秘密が知りたい。恐らく、この記事を読まれているみなさんも、一体何が良いのかわからないから知りたくて訪れているのだと思います。
さあ、今回オーダーする前に長い事リサーチしてきましたが、注意しておきたいのは。スーパーオーリンズと言えども、必ずしも全員が「最高」だと評価はしていないと言う点です。
その理由と、傾向が見られるのでお伝えしたいのですが、オーダーメイドと言う物にはリスクもあると言う事です。
全てに当て嵌まるわけではありませんが、低評価している方の多くは「中古」で購入されている方が多い事。
また、所謂「初級者さん」のオーダーが多い点が気になります。
実は、オーダーメイドと言うのは「理想を形にしてもらう」事が目的となるため、自分とは全く異なるスタイル、カテゴリ、そして何より使用目的が全く異なれば、当然「自分に合った足」ではないと言う事です。
例えば、ラリーをしたいのにサーキット向けにオーダーされたショックを取り付けても役に立たないどころか酷いセッティングだと言えるでしょう。
ただ、それだけではないのです。
今回オーダーしてみて分かった事は、具体的にどう言ったカテゴリで、どう言ったコースを走るのか、使用するスプリングレートやタイヤなど、どんなセッティングを想定しているのか、現状の動きがどう言った感じで、具体的にどう変えたいのか、スピンターンを重視するのか、トラクションを重視するのか、安定感を出したいのかクイックにしたいのか等々・・・
結構細かく相談をして決め、ショップ側からの提案と見積りを見てGOサインを出せば初めてオーダーと言う事になります。
初級者さんの場合、漠然としたイメージだけでオーダーしちゃうと、ただただ難しい足に仕上がってしまったりと、扱えないと言うリスクが出てくるわけですね。
そう言う意味では、吊るしと言う万人受けするスタンダードセッティングが如何に凄い事かと理解しておいた方が良いかもしれません。
それを承知した上で、何かを犠牲にして、どれか一つに特化したスペシャルセッティングを施す。
それがスーパーオーリンズであると言えると思います。
まあ、実際にはそれは大袈裟で、ある程度カバーは出来るのですがね(笑)
そして今回、私は予備のセットも含めて2セットのスーパーオーリンズを用意しました。
1つはショップの忠告を無視して100%ジムカーナ仕様に振ったセッティングと、ショップの提案を丸のみしてお任せしたセッティングです。
実はオーダーしたのは数年前になるので、長期間テストしてからのレポートとなるわけですが、結論から言いますと、私が押し通した100%ジムカーナ仕様の足はもう使っていません(笑)
標準仕様とスーパーオーリンズの違いですが、ちょっと走らせる程度では正直良くわかりません。
ただ、同じ段数でも全体的に減衰は強くなっている印象を受ける事と、ダイヤル1段で減衰が変化するのが分かる様になったと言う点でしょうか。
標準だと2~3段回して変わったかな?程度だったのが、1段回せば違いは分かります。
良いか悪いかは別として(笑)
また、使用するスプリングレートとタイヤを伝えている事もあってか、硬いのに突っ張る様な印象もなく、しっかりストロークします。
先にジムカーナ100%の仕様から説明しますと、ジムカーナには出ないのでターンは重視しないと言う点がネックになっているのか、DFV機構はそのままでありながら、バンプを拾った際にリアのスライドが起き易いです。
お任せセッティングと比較しても、フロントのフィーリング自体に大きな差はないものの、リアはタイトコーナーの進入ではやや不安定な印象を受けました。
路面の綺麗な所を走っている時は全く気にならないのですが、荒れている場所や縁石を軽く蹴って行くラインを通るとたちまち挙動が乱れてとにかく乗り難い。
対してお任せセッティングの方は、アズライトスペックと言って、DFV機構を廃止した物になります。
最初の印象では、オーリンズの特徴でもあるサブバルブシステムを廃止なんてとんでもないとは思ったものの、これが不思議な事にバンプを拾っても強い衝撃が襲ってくる様な事はありません。
もちろんサブバルブ機構には及びませんが、無くても別に構わないなと言った感じ。
これはショップの説明で、サブバルブは急激な入力を逃がす事で跳ね難い特性を持つ代わりに、極小舵角の初期レスポンスに劣ると言う説明がありました。
クヌギのインフィールドS字の鈍さを嫌って、以前は減衰をガチガチに締め上げていたので、ここを改善したいと相談した結果なのですが、確かにマイルドな減衰にしていてもガチガチに締めていた時の様な鋭いレスポンスが感じられます。
ただ、最高のフィーリングを感じながらも、残念ながらタイムには反映されず・・・。
これは使いこなせてないと言う事かな?と言った感じですが、フィーリングについては大幅に改善されているので、確実にコントロールし易くなっており、乗っていて楽しいです!本当に!
タイムに繋げるためにはもっと詰めて行く勇気やテクニックも必要になると思いますが、少なくともオーダー時にしっかり相談すれば、気になっていたネガティブな動きは確かになくなり、自分が求めていた理想の動きには近付きます。
オーダーメイドのショックは、中古ではなく、自らオーダーして初めて真価を発揮する物なんじゃないかな?と感じたのが今回の結論でしょうか。
値段もそれなりにするので、上級者でなければ最初からスーパーオーリンズと言うのは勧め難いですが、オーバーホールを検討する時期になったら、選択肢に加えても良い・・・いや、むしろ推奨ですね!