2024年の6月下旬に、E&Eシステム社のフリーダムコンピュータのトラブル報告に関する原因究明と、解決策についての記事を投稿しました。
多数の読者から寄せられた情報により、後期のNBロードスター(1.8L)に搭載される可変バルブタイミング機構付きのBP-VEエンジンとフリーダムの相性が原因である可能性が高いと結論付け、記事の中では最終的に誤作動の原因特定と解決方法を発見したぱつらさんの解説をご紹介しました。
記事自体も古いし、製造元も廃業して既に廃盤となったフリーダムの需要も限られているので、その後は特に新たな情報が入ってくる事もなく1年以上が経過。
しかし、昨年末になって再びぱつらさんからメールが届いたのだ。
メールの件名には「フリーダムコンピューター 続編」と記されていた。
■不具合再発の知らせと真因特定
2024年の初夏に、ぱつらさんからフリーダムの不具合原因を特定したとの情報提供があり、実際に対策回路まで設計して無事解決したとの事でこの一件は終わったように思われました。
約1年半前、私が以前乗っていたNBロードスターの症状と、読者の方から寄せられた不具合事例から見えてきた傾向により、BP-VEエンジンとフリーダムの相性が悪いのではないかと推測してお伝えしたところ、この情報を基にぱつらさんが原因究明を開始し、クランク角信号の取りこぼし現象がオシロスコープで実際に確認されている。
これが不具合の原因となるようですが、具体的には信号の取りこぼしが発生すると、フリーダムの制御上は正常動作を続けているものの、信号1発分のズレが生じたままとなるため点火時期が大幅に遅角(クランク角信号1発分で40度)した状態が継続され、顕著なパワーダウンやハンチング、エンジンストールなどの症状に陥る。(詳しくは前回の記事参照)
前述した通りフリーダムの制御上は正常動作を続けており、FCSS(フリーダムのセッティングツール)で確認するログ上でも見掛け上は正常なので、ユーザー視点では原因不明の不具合に頭を抱える事になるわけだ。。。
おまけに、一度エンジンを停止して再始動(エンスト含む)すると、あっさりエンジンも掛かって何事もなかったかのように快調なので意味が分からない。
私の元に寄せられた読者からの情報では、似た症状を訴える26人の全員がNBロードスター後期に採用されているBP-VEエンジンとフリーダムの組み合わせで発生しているので、可変バルブタイミングのカム角制御の動作範囲と、クランク角信号1発分のズレが40度と一致している事もあり、何かしらの条件が重なった時に発生するのでは?との予測もされていたが、今回記事を書くにあたり少し調べていると、AE86でも同様の症状が報告されていたのでロードスターに限った話ではなさそうだ。
少し脱線しましたが、ぱつらさんは当時この信号取りこぼし現象に、ピックアップ信号を受け取るトランジスタの仕様に対してLo電圧レベルの閾値を超えないようにする対策回路を設計して解決している。
しかし、今回ぱつらさんから届いたメールの内容は、不具合が再発したとの残念なお知らせでした。。。
対策後、しばらくは不具合なく走行できていたそうですが、どうやら古くなったイグニッションコイルを交換したところ症状が再発したそうです。
そこで”ノイズ源”の条件が変われば同じ対策が通用しない点に目を付け、不具合原因となる信号の取りこぼしが発生する原因…即ち、真因の特定と、別の方法で対策を試みたと言うのでその内容を確認してみましょう。
■エミュレータで誤作動を再現
対策を練るためには、まず原因の特定が必要である。
オシロスコープで誤作動を確認しているとは言え、その発生条件までは特定に至っていないため、今回はその不具合が生じる条件を探ってみようと言う話。

ECU制御を再現する様子(出典:ぱつらのブログより)
今回の原因究明作業に於いて、ぱつらさんの本気度が覗えるのは”いつ起きるかわからない不具合を待つ”のではなく”任意に不具合を生じさせて観測する”と言う方法を取っている事。
実際に走行中の車両で検証すると都合の良いタイミングで不具合が発生するとは限らないし危険も伴うので、エンジン制御を模したエミュレータ(ざっくりと言えばシミュレータの上位にあたり、細部まで再現したもの)を製作し、机上でフリーダムを動かしながら直接確認すると言う方法である。
これの何が凄いかと言うと、原因を特定しようと考えた時に何らかのシミュレーションを思い付く人はそれなりにいると思いますが、問題は”それをどうやって行うのか”と言う事。
机上で動作を再現するためのシステムや装置を用意するには、エンジンやマイコンに関する専門的な知識に加えて工作技術も必要なので、素人が簡単に実行には移せないのが最大の理由ですが、それをやってしまうのだから本当に凄い。。。
前回の対策時に、ぱつらさんはノイズの影響を受けて上下死点を検出するトランジスタが動作不良を起こしていると疑い、ON/OFFの境界にマージンを取る追加基盤で解決をしたが、後に点火系の整備を行ったところ症状が再発している事から、原因と思われる主なノイズ源は点火系にあると考えたようです。
IGコイルの仕様や新旧、個体差など、ノイズ条件が変化すると同じ対策では通用しなくなる可能性を示唆している。
ぱつらさんの記事の中でも触れられていますが、点火系から生じるノイズはガソリンエンジンの課題であり、自動車メーカーであっても完全に解決する事は困難な事から、個人レベルで解決するのは不可能に近いのが現実だ。
そこで、今回は”誤作動を回避する”のではなく、誤作動を検知したら”正常動作に復帰する”と言う方法でアプローチしたそうです。
そのためには”誤作動”を判定するための条件を得る必要があるので、誤作動の発生と正常モードへの復帰、また、その再現性を確認するためにエミュレータを用いると言うわけだ。
■誤作動の回避ではなく復帰を選択
正常動作中のフリーダムに対し、任意でノイズによるクランク角・カム角信号のズレを発生させ、机上で誤作動の再現性を確認する。
前回の実車による確認では走行中に波形を観測する必要があったため、危険が伴う事や瞬間的な不具合を確認する事が困難と言う問題があったが、エミュレータでは安全に、そして何度でも任意の条件を再現する事が可能と言う利点がある。
今回の検証では、エンジン回転数を始動時相当の100rpmから設定上限の10000rpmまで変化させながら行っているようですが、加えて可変バルブタイミングを模したカムの進角・遅角の可変なども任意に操作できるなど、実走行に近い条件を机上で再現して観測を行っている。

クランク角・カム角信号の正常波形(出典:ぱつらのブログ)
正常に動作しているフリーダムに入力されるクランク角・カム角のピックアップ信号に波形の重なりは確認できない。
ここへノイズを加えていくつかのパターンを試してみたようです。

異常時の波形は信号の重なりが確認できる(出典:ぱつらのブログ)
実際に誤作動が発生すると、上記のようにクランク角とカム角のピックアップ信号が重なる波形を示す事が確認できている。
前回の対策時には、走行中に確認した”クランク角信号の取りこぼし”が原因だと結論付けていましたが、今回の観測ではちょっと様子が異なるようです。
クランク角信号はクランクが1回転する間に4発の信号をECUへ送っているが、これがノイズの影響で増えたり減ったりしたらどうなるか?
なんとなく素人でも察しはつくと思うが、位置(角度)を見失う、誤認すると言う事になるので、その誤ったデータを基に計算された制御が行われる事になる。
では、実際にエミュレータでその状態を再現した時、フリーダムの挙動はどの様に変化するのか?
信号が1発消失した場合(3発しか検出されなかった場合)、一時的に不安定になるようですが、なんと正常動作に自動復帰する事が確認できたそうです。
エミュレータ上の観測では、不具合の発生から自動復帰まで確実に再現されるようで、純正ECU同様にノイズの影響を受ける事を視野に入れた設計だと言えそうです。
つまり、前回予想していた信号の取りこぼしが原因ではない?
では逆に、信号が1発分余分に検知された場合(5発検出された場合)はどんな挙動を見せるのだろうか。
この場合、見事に誤作動モードとなるようですが、先程と違って正常動作には復帰しない事が確認できたとの事。
この1発分の余計な信号は、恐らくノイズを信号と誤認して起こる現象だと思われるので、フリーダムの誤作動原因はノイズの入力と言う事になる。
厳密には、ノイズで信号が増える事を想定した対策が取られていない、フリーダムの設計ミス、ソフトウェアのバグと言う結論になる。
この理由であれば、BP-VEを搭載したロードスターに限定した話ではなくなるので、可変バルブタイミング機構のないNAロードスターや前期NBの他、もちろん同じフリーダム対応車種のレビンやトレノ、MR2などの車種も対象となる可能性が高い。
更に、この誤作動モードの状態で意図的にもう1発余分な信号を加えるとどうなるか?
すると、正常モードに復帰する事が確認できたそうで、再現性もあるとの事。
今回、ぱつらさんが最終的に行った対策は、誤作動を回避するのではなく、誤作動が発生したら正常動作に復帰させると言う方法である。
上記の結果から、誤作動モードに入った際に、それを検出して自動で信号を1発入力すると言う基盤回路を作成して解決したようです。
具体的な検出方法や回路については、もはや私が説明できる範疇を超えているので、詳細はぱつらさんの記事をご覧ください!
今回の検証で原因と解決方法についてはほぼ解決となりそうですが、記事に目を通していて少し疑問点も残ります。。。
記事の中では”点火系を整備した後に発生”と言った内容や”全開走行など高負荷時には不具合が出ない”と綴られています。
高負荷時に不具合が出難い理由は記事の中でも解説されており、スパークプラグからの放電時間や要求電圧の差ですが、実は私の症例の場合、低負荷時には発生せず、高負荷走行時にのみ不具合が出ていました。。。
また、フリーダムを採用してから約3年間は不具合が発生しませんでしたが、症状が出た時も点火系を含む電装系に手は加えていません。
まあ、点火系の劣化で条件が変化したとか、他のノイズの発生源が原因と言う可能性もあるので、不具合の原因が”ノイズ”であっても、発生するノイズの条件はまた別問題と言えるのかもしれない。













