■目次

◆ストレートに存在するライン

◆ラインの比較と特徴

◆有効なシチュエーション

■ストレートに存在するライン

速く走る上で重要となる走行ラインだが、コーナーはともかくストレート上にもレコードラインが存在する。

原則として、コーナーから立ち上がって来るのは外側となり、その先のコーナーの外側へ向かうと言うのは理解できると思う。
例えば、右コーナーを抜けてストレートを挟み、その先が左コーナーならば、ストレートを斜めに走ると言う感じだ。

だが、右コーナーを抜けてストレートを挟み、その先のコーナーが再び右コーナーならストレートをどう走る?

これは通常、外側に立ち上がったらそのままストレートを真っ直ぐ、全開で駆け抜けると言うのが正解と言えるのだが、そうとは限らない場合がある。

レースなどで前の車を追い抜くとか、コース上に落下物がある、部分的に路面が荒れているなど特殊なシチュエーションなら当然それも有り得ると思うが、何の変哲もないストレートを蛇行する可能性があると言って納得する人はどれくらいいるだろうか?

実はこれ、大きなサーキットだけを走っていると理解し難い。
ジムカーナやラリーと言った、コース幅が狭かったりタイトコーナーが連続するコースだと、プラスに傾く場合がある。

もちろん、コースによらず活かすコーナーと捨てるコーナーが存在するのは言うまでもないが、コーナーとストレートを天秤に掛けるのか?

そうじゃない。

コーナーで可能な限りボトムスピードを上げ、アクセルを全開にするポイントを速くすると言う事は、立ち上がりのスピードが速くなる。
つまり、ストレートの初速が上がると言う事になり、ストレートエンドでの車速が伸びると言う結果を生む。

いやいや、それは大きなサーキットでも同じでしょう?と思うかもしれないが、その通りである。
ただ、大きく異なるのは数百メートルから1km級のストレートを挟む場合と、数十メートルのストレートを挟む場合では次のコーナーに備えるまでの余裕が異なる。

それが故に、ラインをイメージした時、ほぼ無意識に斜めに”走れる”のと、意図的に斜めに”走らせる”と言う違いがある。


■ラインの比較と特徴

大別して2つのラインが存在する。

厳密に言うと、ラインと言うよりはアプローチの差であるが、実際に見てみよう。

クヌギランナーを長年開催してきたが、参加者の多くはこのラインで走っている。

上のラインはセオリーに沿った、基本的なラインであり、何一つ間違いが無い。欠点も無い。
コーナーを立ち上がって来たら、外側を一直線に加速して行き、次のコーナーはそのまま外側から大きくアプローチするので、ブレーキングからターンインまでスムーズだ。

ただ、このラインにはもう少し拡張する手段が残されているのがわかるだろうか?

サーキットのコースは全国に、そして世界中に色々なコースが存在するので一概には言えないが、大凡、公式戦などが開催される規格に沿って整備されたコースは、コースとピットロードが明確に分かれている場合が殆どだ。
通常はピットロードの形状が、走行エリアに被る事はない。

安全のためには当然の設計であるが、そうではない場合もある。
一本クヌギの場合もその気になれば動かせてしまうタイヤウォールで仕切られている、即席の様なピットロードを有している。

設計に携わっているわけではないので、意図は不明だが、元々レースを想定したコース設計ではなく、少数で練習に使う貸しコースと言う位置付けから、後から必要に応じてピットロードを設定したと言ったところだろうか。

この設計の都合上、最終コーナーの立ち上がりや、1コーナーの手前でタイヤウォールより外側、ピットロードに被せるラインを通過する事が出来る。
つまり、黄色の基本的なラインより、もっと外側から1コーナーにアプローチする事が可能と言うわけだ。

それが次に多いラインとなるのだが、例を見てみよう。

分かり易く、少し大袈裟に描いてはいるのだが、タイヤウォールを通過した後に外側へ一度ラインをずらしてからアプローチを掛ける。
より大回りをするためのラインであり、1コーナーの進入速度が数km/h上がる事と、1コーナーを立ち上がるラインが浅くなるのでアクセルオンのタイミングが早くなる。

つまり、ここから2コーナーまでに少し差を付けられるラインだ。
しかし、これには一つ欠点がある。

車は急激な変化を嫌うと言うのは、基本中の基本として理解していると思うが、それが故に真っ直ぐ走っていたところから、一度外側へ舵を取る事になる。
もし、タイミングが悪ければ外側に振ってから内側へ切り込むと中盤アンダーステアを出し易い事、また、ブレーキング時の姿勢が不安定となり、進入でオーバーステアの出る場合がある。

なんとなくピンと来た人もいるかもしれないが、後者についてはフェイントモーションと言って、意図的にヨーモーメントを大きくしてオーバーを出す、ドリフトの切欠や、ダートラやラリー経験者がクセの様に使いたがるアクションだ。

ただし、一本クヌギは原則ドリフトが禁止と言われているだけあって、このモーションを加えても意図的に露骨なオーバーステアを出して進入する人は少数だ。

それでは、一体何のためにやっているのか?と疑問を感じるかもしれないが、それは上で説明したラインを大きく取る、と言う目的以外にないだろう。
だとしたら、何か不自然に感じないだろうか?

タイヤウォールを通過した直後に外側へ寄れば良いのに、タイヤウォールを通過して、少し遅れて外側へラインを取っている。
これでは1コーナーのアプローチ直前でのアクションになるので、挙動を乱し易く、ややリスキーなラインと言えないだろうか?
上手く行けば良いが、失敗した場合はスピンするか、アンダーで土手へ突っ込むと言う可能性が出てくる。

さあ、ここで登場するのが表題にある”ストレートを蛇行する”と言うライン取りのテクニックになるのですが。

以前、クヌギランナーの参加者の方が、私の走りを観察していた様で「何故、ホームストレートを蛇行するのか」と質問された事があります。

そりゃそうです。
蛇行すれば理論上、距離は長くなりますし、舵を与えるのですから走行抵抗にもなるし、良い事なんてないはず。

実際に、私のホームストレートのラインを見てみます?(笑)
説明図の様に露骨に大外まで向かうわけではないので、よ~く見ないと分かり難いですよ。

この時、何か失敗したのか最終コーナー立ち上がりがいつもより内側になっているので、蛇行が伝わり難いですが、上空からの映像資料が他に無いのでご了承ください。

最終コーナーを立ち上がってから、ストレートでは一度コースの真ん中寄りを走り、その後にタイヤウォールの少し外側へライン修正しているのが確認できると思います。

少し大袈裟な図ですが、分かり易く描くと上の様なイメージです。

2つ目に紹介したラインだと、タイヤウォールに沿って走り、1コーナー前で外側へ振るわけですが、ワンテンポ遅れて軌道修正するのには理由があるのです。

タイヤウォールに接近し過ぎていると、外側へ軌道を取る場合に内輪差で車体がタイヤウォールに接触します。
それを避けるために、少なくとも運転席のドアがタイヤウォールの端を通過した辺りでないと舵を入れる事が出来ません。

そのため、外に軌道を取るのが遅れ、アプローチ直前になってしまうのです。

対して、3つ目のラインはストレートの中盤から、タイヤウォールの端を射抜くつもりで緩やかに外へ向かったラインを取ります。
このラインを通ると、タイヤウォールの端からすぐに外側へ寄れると言う事になり、また、急な軌道修正を掛けない事でブレーキングからターンインまで姿勢を乱し難いです。

また、最終コーナーの立ち上がった直後にタイヤウォールにビタ付けする事を意識したコンパクトなラインを取る必要がなく、思いっきり外側まで使って立ち上がれます。
このため、アクセルオンのタイミングが早くなります。

アクセル全開のまま、タイヤウォールに合わせて車体を真っ直ぐにしようとすれば、タイヤにも負担を掛けますが、それを敢えてストレートの真ん中まで緩やかに立ち上がらせる事でハンドルを抉る事もなく、そこから緩やかに外へ向かうと言うラインです。

実はこのライン、九州地区でもかなり速かったジムカーナ選手の方がこのラインを取っているのを見て、疑問に思ったのが10年程前でしょうか。

訊ねても「う~ん。なんとなく(笑)」と濁されてしまったのですが、大凡の場合、本格的に競技に取り組んでいる人が意図も無く、無意味な事をやるとは思えないのですよ。

そこで、実際にそのラインを通ってみたが、これが全く意味がわからない。
それどころか、タイムは悪化しました。

当時の車は、ノーマルのロードスターです。対して、この時、ジムカーナ選手が乗っていた車はRX-7です。

この差は何なのか?
その理由が、事項で説明する有効なシチュエーションの見極めが重要になってくるのですが…。


■有効なシチュエーション

実は、この答えは非常にシンプルなものである。
ラインを大きく取る必要があるかないか、で決まる。

と言うのも、いくつか理由や選択肢があるのだが、まず、車重が軽い場合。
そもそも、最終コーナーを大回りしなくても難なく小回りできてしまう。

また、四駆などは車重があり、そもそも最終コーナーの様な極低速コーナーの旋回速度に期待が出来ない場合、ガツンと減速して最短距離で小回りし、トルクとトラクション性能に物を言わせて真っ直ぐ立ち上がる、など。

そして後半は、パワーのない軽自動車やNAのコンパクトカーなどの場合、そもそも1コーナーまでの到達速度が低い、車重が軽いので外から入るより距離で稼いだ方が得策と言う場合。

また、パワーがあればアクセルを踏んだ後の旋回速度や、駆動輪のスリップも起こり得るので、なるべく大回りで緩やかなラインを取りたい。
低速トルクの細い高回転型エンジンの場合だと、とにかく回転を下げない様に、大回りで高回転を維持したいと言う場合も同様に。

もちろん、上記の理由は一例であり、必ずしも当て嵌まるわけではないが色々な条件を加味して、有効な場合とそうでない場合が車やセッティングによって異なる。

この条件を探りラインを決めるわけだが、前項で説明した2つ目のラインはどちらに転んでもデメリットしかないラインだ。

選ぶなら1つ目の基本ラインか、外に振る必要があればストレートを蛇行する3つ目のラインのいずれかと言う選択肢になる。

外に振っている人は、騙されたと思って3つ目のラインを走ってみて欲しい。
かなり進入が楽になるのが実感できるはずだ。