ディーラーなどを含む「整備工場」と、パーツの取り付けや改造を行う「カスタムショップ」ないしは「チューニングショップ」と言うのは全く別物。

庭先で買ってきたパーツを取り付けたりって言うのも「整備」だと主張する人もいるけど、やってる事は「改造」であって、整備とは違うよね。

エンジン内部やECUのセッティングを除いては、改造に必要となるのは「技術」より「センス」である。

知り合いの整備士が以前言っていましたが、今やインターネット上にあらゆる情報が出回っているし、車の改造や整備も、やるべき内容がわかっており、必要な道具や環境さえ揃っていれば「素人」でも時間さえ掛ければブレーキパッドの交換程度から、エンジンのオーバーホールまで出来ないレベルではない。

じゃあ、何故整備士と言う仕事があるのか?って事だが、”それ”こそが整備士の醍醐味だと彼は言っていた。

◆整備士の仕事は修理ではない!

◆トラブルシュートにチャレンジしてみよう

◆OBD2でエラーコードをスキャンしてみる

■整備士の仕事は修理ではない!

修理ではない!とか言っちゃうと暴論ですが(笑)

“ビジネス”と言う意味では、本来は各個人で面倒を見なければならない車の点検や修理を、有償で代行する許可を受けた業者、或いは資格を有した者と言う事になるので、紛れもなく修理が仕事であるが…。

整備の醍醐味、”それ”は「トラブルシュート」である。

先程も書いた通り、素人でもやるべき事を理解して、道具と環境があれば時間を掛けて修理する事はそれ程難しい事ではない。

だから庭先でやる、所謂プライベーターが多く存在するわけだ。

単なる節約としてケチっている、ないしは本当にお金が無い!と言う学生や、純粋に趣味として車やバイクをいじりたいと言う人まで、理由は様々である。

例えば、エンジンが掛かりません!と漠然とした症状だけでお客さんがヘルプを求めて来たとしよう。

原因は色々と考えられる。

単なるガス欠だったり、バッテリー上がりだったり、エンジンの燃焼サイクルから追っていくと言うのも基本中の基本で、燃料系から吸排気の閉塞や動作不良などを疑ってみたり、そして最近では各種センサーも非常に多くなった。

これら多くの原因の中から、最短で、高精度に、ピンポイントにこれだ!と言う原因を特定するのが、整備士としての理想の職人業だって事になる。

これらの原因を特定するには、車の構造や機能的な理屈、それぞれの関連性を理解していないと難しい。

早い話、消去法になるからである。

これについても、素人でも車にそれなりに詳しければ、原因特定する事は不可能ではないが、経験や精度がまるで異なる。

プライベーターだと今まで乗ってきた自分の車と、精々家族や友人の車の修理を手伝う程度だが、職業としてやっている整備士は、1日に何台、多い日には十数台、何十台と点検しているわけで、自ずとレベルが上がる。

もちろん、単なるオイル交換や用品の取り付けと言う場合も多いので、全てがトラブルシュートや修理に時間を費やしているわけではないですが。

私は整備士でもなければ、車業界とは無縁の業種ですが、近年はどうも納得いかない発言を目にする事が多いです。

まあ、整備士と一言に言っても上手い人からへたっぴな人までいるのは事実ですが、一言にまとめて「最近の整備士はレベルが低い」とか、部品交換するだけで「エンジニアではなく、チェンジニアだ」などと暴言を吐く人の多い事。

それが例え部品交換だけと言う作業であっても、その部品の交換が必要だと素早く、確実に診断してくれているのが整備士だって事を忘れてはいけません。

最近では各社独自のダイアグノーシスコネクタ、ここ20年以内であればOBD2端子が標準装備となり、診断ツールでスキャンしたエラーコードから原因特定が極めて容易な時代となりました。

しかし、これらはあくまでもエンジン制御やドライブトレインの一部、電子制御に関するセンサー絡みの異常判定でしかないと言う事を予め断っておきます。

故障とは限りません。あくまでも、異常値を返したセンサーを確認したECUからの警告信号です。

結局のところ、冷却水やオイルの漏れだったり、雨漏りや異音、ベアリングやブッシュの破損などはエラーコードなどありませんし、点火系のエラーが出たけど本当に故障?エアフローセンサーのエラーが出たけど壊れたの?

それらを正しく診断してくれるのが整備士だって事は覚えておいてください。

それを踏まえた上で、便利なツールの使い方を紹介したいと思います。


■トラブルシュートにチャレンジしてみよう

ツールの紹介と言いましたが、その前に、ちょっとトラブルシュートにチャレンジしてみませんか?(笑)

実は、私の場合は単なる「推理」を楽しむために、何か問題が発生したら整備工場へ持って行く前に、自分なりに原因の特定を試みています。

以前から整備士の友人がいると言う事もありますが、お店に顔を出した際に、故障で入ってきたお客さんの車の症状などを聞いて、実際に原因を特定するまでの流れや、実際に原因を特定した後に、何故その結論に至ったのかと言った話を良く聞いていました。

書いちゃって良いのかわかりませんが、トヨタ系のディーラーで、新人教育に使う教材の車両(実際に、意図的な不具合が仕込んである車)でトラブルシュートにチャレンジさせてもらった事が何度かあります。

トラブルシュートは何度かやっている内に的中率も上がって来ますが、何より初めて原因特定出来た時のあの快感は忘れられません。

余談ですが、トヨタ検定の様子を見学に行った事もあります。

トラブルシュートだけでなく、エンジンブロックやミッションなどの各部測定や点検と言った内容、工具の基本的な使い方、ハキハキした挨拶などもチェックされている様で、あれを見たら最近の整備士のレベルが低いだなんて絶対に言えないと思いますよ。

さあ、話を戻しますが、ここでマツダ・アクセラ(BK3P)のトラブルシュートにチャレンジしてみましょう!

ご覧ください。突然エンジンチェックランプが点灯しました。

車を所有する人にとって、一番見たくないランプだと思いますが、実際に点灯しているのを見た事はありますか?

国産車であれば、普通の使い方をして並のメンテをしていれば、新車で買って手放すまで一度も見る事がないと言うのがほとんどですが、さすがに10年、10万kmを超えた辺りからチョコチョコと軽微な不具合などは起き易くなってくる印象です。

今回のランプ点灯ですが、この状態で特に不具合を感じる事もなく走行には差支えないまま近所のコンビニまで辿り着いたのですが、買い物を終えて再度エンジンを始動してみたところ、やはりチェックランプは消えません。

エンジン始動もスムーズで、アイドリングも安定しています。

他のインジケーターは点灯していませんし、確認出来る範囲では水温計も問題なく動いている様です。

しかし、そこから動き出そうとしたところ、先程まで普通に走って来たはずなのに、アクセルペダルを踏み込んでも全く反応がありません。

真夜中である事、ど田舎である事が幸いして、道路には全く他の車も走っていない事と、家まで2km弱の地点なので、JAFなどは呼ばずにクラッチ操作のみで帰宅しました(笑)

翌朝、再度エンジンを始動してみると、やはりチェックランプは消えていませんが、始動もスムーズでアイドルも安定し、昨夜と違ってアクセルペダルにも反応する様です。

さあ、何が悪いのでしょうか?

この場合ね、大体の人が真っ先に答えるのが「O2センサー」とかなんですよ(笑)

次いで「エアフローセンサー」を疑う人が多いみたいですが、アイドルは安定しているので、どうかな?

“体感として不具合がない”場合や”吹けなくなったら”これらを真っ先に疑う人が多いのは、良く壊れると言った認識が強いからでしょうか。

私もアクセルに反応のある最初の内はO2センサー辺りかな?と思いましたが、気になるのは昨夜コンビニから帰ろうとした際にはアクセルペダルを踏んでも”全く反応しなくなった”と言う点です。

クラッチ操作だけでノロノロ帰っている間も、ペダルをガンガン踏んでみましたが変化無しでした。

そして、翌朝にはランプこそ点灯したままですが、昨夜と違って普通に動くし、普通に乗っている分には特に不具合は感じない。

やっぱりO2センサーとかがクサいでしょうか?(笑)

でも、O2センサーやエアフロセンサーの故障でアクセルに全く反応しなくなるなんて聞いた事がありませんよね。

複数の不具合が同時に発生している可能性もあります。

こう言う時に威力を発揮するのが、経験などから得られるデータベースです。

例えば、電子制御のスロットルが装備された最近の車だと、アクセルペダルにセンサーが付いていて、ペダルストロークに応じた電気信号でスロットル開度を電子制御でコントロールしている。

実は以前、RX-8で全く同じ症状が出た際に、まさかのアクセルペダル故障って事で交換した事があります。

これがクサいか?と思いましたが、RX-8の時は翌日に復帰はしていません。

候補として考えられますが、今回のアクセラは翌日に復帰しているので断定は出来ない。

じゃあ、次にどうやって点検してみるかと言う話ですが、例えばエアフローセンサーが壊れていると仮定しましょう。

んで、エンジンを始動させたままエアフローセンサーのカプラーを引っこ抜いてみる(笑)

まあ、壊れていても何かしら信号を送っている可能性があるので何とも言えませんが、カプラーを抜くと調子が悪くなるので、とりあえずは動いてるのかな?と言った感じ。

ちなみに、この時点でメーターを覗き込んでみると、DSCのインジケーターが点灯している。

なんで??良くわからないが、エアフローセンサーが異常を起こすとDSCのランプも点くらしいと言う情報が得られた(笑)

次に目を付けたのは、カムポジションセンサー。

とは言っても、カムセンサーが故障している場合、エンジンが全く掛からない車もあるし、始動性は悪くなるが掛からない事もないと言った車種もある。

そして何より、クランクアングルセンサーがあるので、エンジン始動後に引き抜いたところで、意外と何ともないって事が多い。

引き抜いてみると案の定特に変化は無しで、運転席からメーターを覗いてみてもこちらも特に変化なしだ。

他のカプラーなどは作業性が悪かったり、冷却ファンのすぐ傍だったりと危険を伴うので、とりあえず目視だけで表面上の破損や断線が無さそうな事だけ確認。

さあ、ここまでの結果ですが、全くトラブルシュート出来ていませんね。

何のコーナーだったんでしょうね(笑)

ただね、私の場合は調べるまでもなく「症状」から、もう答えを出しちゃってるんですよ。

アクセルペダルの故障です。これ以外にないでしょう。

さあ、予想は当たっているのでしょうか?

それではみなさんお待ちかね、OBD2コネクタを使って実際にチェックしてみたいと思います。

整備士ってやっぱり凄いなって感心すると同時に、診断ツールの便利さを実感できますよ!


■OBD2でエラーコードをスキャンしてみる

OBD2でスキャンするには、専用の診断ツールを使用します。

ディーラーに限らず多くの整備工場が持っている道具で、最近ではこれ無しでは仕事が捗らないでしょう。

しかし、これを個人で買おうと思えば安い物でも数万円はします。

でも、以前紹介した事がありますが、最近ではスマホのアプリでOBD2のスキャン機能を使う事が出来ます。

そのために必要なアイテムが、OBD2との通信アダプタなのですが、1個1000~2000円程度で入手可能です。

これに、スマホの安価なアプリを組み合わせて、追加メーターとして使用したり、故障診断を行ったりと、持っていて損は無い便利なツールを使ってみたいと思います。

使い方は簡単!

まずは車両側のOBD2コネクタを探します。

大体の車種は、運転席の足元から上を覗けば、上の写真の様な端子が見付かると思います。

車種によっては蓋が付いていたり、全く別の場所に装備されている場合もあるので、どうしても見付からない場合はディーラーなどで確認してみてください。

コネクタが見付かったら、先程のアダプターを差し込み、スイッチON!

スイッチの付いていないタイプもありますが、こちらのスイッチ付きのタイプの場合は、矢印で示したスイッチを押せば本体が起動し、赤丸で示したパワーランプが点灯します。

これで車両側の準備は出来ました。

後は、GooglePlayストアからTorquePro(500円)をインストールしてください。

無料版のTorqueLiteと言うバージョンもあり、こちらはエラーコードの確認は出来ますが、リセットには対応していません。

必要に応じてどちらかお好きな方を選択すると良いかと思いますが、機能を考えてもそれ程高価ではないので、TorqueProをお勧めします。

以下はアダプターの設定方法となりますので、Bluetoothのペアリング方法や、アプリの細かい設定、追加メーターとして使う方法について知りたい方は、過去に紹介したスマホを追加メーターとして使う記事でご確認ください。


1.アプリ側の設定を行う

ELM327(OBD2アダプタ)のペアリングが完了したら、TorqueProを起動し、左下の設定メニューを開きます。

メニュー内から「設定」を選択してください。

 

2.OBD2アダプタの設定

設定メニュー内から「OBD2アダプタ設定」を選択すると、次のような画面になります。

この中から「Bluetoothデバイスの選択」をタップしてください。

3.デバイスを選択する

表示されたペアリング済みリストの中から、対象のデバイスを選択する。

通常、新たに設定された物が下に表示される様ですが、実際に使ってみて通信出来ていない様であれば、このメニューでデバイスを切り替えてみてください。

これでアプリの設定は完了となります。

4.スキャン機能を使ってみる

設定が完了したら、車のキーをONまで回し、アプリのトップ画面に戻ります。

通信が出来ている場合は、画面上部にスマホ・アダプタ・車の3つのアイコンが点滅表示される様になります。

問題なく通信出来ている事が確認できたら「Fault Codes」のアイコンをタップしてください。

5.自動でスキャンされる

車両と通信状態にあれば、アイコンをタップしただけで自動的にスキャンが開始されます。

車種や通信状況にもよりますが、大凡30秒~1分程度で完了しますので、そのまま待機してください。

6.エラーコードの確認

何らかの異常が見付かった場合は、エラーコード(P0102、P2088など)とその内容がリストアップされます。

特に異常がない場合は何も表示されません。

尚、現在発生中の異常は赤色で、既に復旧済みで過去に発生したエラーログは、リセット(ログ消去)されていない物に限り黄色で表示されます。

エラーログを消去したい場合は、右上のメニューを開き、エラーログの消去を選択してください。

7.エラーログの消去

エラーログの消去を行うと、選択式ではなく一括してログをリセットします。

この場合、現在発生中のエラーを除き、全てのエラーログが消えますので、通常は問題を解決した後に行う作業となります。

または、特に修理など行っていないのに自動復帰しているなど、たまたま何らかの誤作動で生じたエラーなどは、一度ログを消去してから再発するか確認すると言った方法を取ります。

おまけ.エラーログの活用方法

例えば、今回の例に表示されている「P2119」であれば、スロットルボディの開閉信号異常である事がわかります。

つまり、今回アクセルペダルと疑っていたのはハズレで、エラーの原因はスロットル本体にあった事がわかりました。と言った感じ。

これらのエラーログが判明しても、そもそも内容が何か良くわからないと言う場合は、エラーコードをインターネットで検索してみてください。

ちなみに今回の例では、上の4つのエラーは、エアフローセンサーとカムセンサーのカプラーを引き抜いた事によって記録されたエラーログで、先日ランプ点灯の原因になったと思われるエラーは、スロットル本体と言う事になります。

今回スキャンして黄色表示になっていると言う事は、前日、アクセルに全く反応しなくなった際には異常が発生中だったと考えられますが、翌日にアクセルに対して反応が見られる事から、既に復帰している様です。

とりあえずログのリセットをしてエンジンチェックランプを消灯させます。

もし再発する場合は入念にスロットル本体を点検、必要に応じて交換する事になると思いますが、実はこれ、良くあるトラブル。

スロットルが汚れてくると、開閉がスムーズでなくなったり、固着して開かないとか、全閉しないと言った動作不良が出る事がある。

この際に、アクセルペダルのストロークセンサーと実際のスロットルポジションに一定以上の差異が認められる場合、異常と言う事でフェイルセーフモードに移行すると言ったもの。

どちらにしても、時間がある時に一度スロットルを取り外して清掃した方が良さそうですね(笑)

…と言った感じで、エラーログから不具合箇所の特定と、どう言った修理が必要なのか判断を行います。

実際にランプが点灯したからと言って、必ずしも部品の交換が必要になる様な”故障”とは限らないと言うのがポイントで、これらの症状や現状を確認した上で整備士の方は適切に判断してくれます。

ど定番なのがエアフローセンサーで、エラーが出ても外してみたら汚れて正常に計測出来なくなっているだけと言う事が多く、とりあえず洗浄して再利用と言うのがお約束みたいな不具合ってありますよね。

対してO2センサーの様に、実はセンサーそのものは正常なんだけど、内臓されている非分解式のヒーター断線のせいでまるごと交換しなきゃエラーが消えないってパターンもありますが。

エンジンチェックランプが点いても焦らずに、むしろラッキー♪と思って、是非OBD2スキャンを楽しんでみてください(笑)

ちなみに、OBD2端子はエラーのスキャンだけでなく、ECUの制御に使用される各センサーなどの値を読み取ろう事もできます。

つまり、エンジン回転数や水温、吸気温など、追加メーターとして欲しいデータがここから読み取れます。

スキャンアプリのTorqueProでは、これらのデータを基に追加メーターとして使う機能も備わっているので、興味のある方は以前紹介した記事で詳しい使い方をご覧ください。