平成を代表する2台のスポーツカーがある。

FD3S型マツダ・RX-7、そしてS15型ニッサン・シルビアだ。

この2台はお世辞にも新しいデザインとは言い難く、それどころか現在主流の最新のデザインとは程遠い。

にも関わらず、現代でも色褪せぬ人気を誇り、その最大の理由がデザインである事には驚かされる。

2台とも、スポーツカーの全盛期を過ぎ、人気が下火となっている時代に発売されたモデルで、販売台数はそれ程伸びておらず、不人気車種だったのか?とも思われるのだが、時代は不景気真っ只中。

これらのスペシャリティカーは、欲しくても買えない層が多かったのも理由の一つだろう。

そして現在、当時買えなかった層が思い出補正で美化しているのかと思ったら、どうやらそんな単純な話ではなさそうなのだ。

何より、我々おじさん世代以上に、若者の支持率が非常に高い点は無視できない。

また、最近の人気再燃に合わせ、中古市場の価格も日増しに高騰している。

以前ならRX-7など50万円以下でいくらでも手に入ったし、シルビアに至っては車体は車検のおまけみたいな値段で投げ売りもされていたくらいだが、近年は100万円を超えるのが当たり前と言った印象だ。

現代なら、安価な中古車でもRX-8フェアレディZなどがあるし、現行モデルでも86スイフトスポーツなど、カッコ良くて性能も良いスポーツカーが沢山あると言うのに、一世代前の古いスポーツカーに大金を払う価値があるのだろうか?若者達を虜にするその魅力は一体どこにあるのだろうか?

◆ニッサン・シルビアとは

◆グレードによる違いは?

◆シルビアの魅力

◆気になる実用性は?

◆走行インプレッション

■ニッサン・シルビアとは

シルビアの歴史は古い。

昭和40年。今から50年以上も前に発売された初代シルビアを目にする機会は無いが、時代は流れ、恐らく我々一般の層がシルビアとして認識出来るのは、精々S12型以降だろうか。

最も良く見掛けていただろうモデルが絶大な人気を誇ったS13型で、その兄弟車には180SXと言ったモデルもある。

元々製造メーカーである日産は、シルビアをデートカーと言う位置付けで販売しており、現在の様にサーキットを走り回る事はほとんど想定していなかったらしいのだが、S13型が発売された時点では希少となっていたFRクーペと言うパッケージから、走りを重視する層に受けた事が現在のイメージとして定着している様だ。

この頃から走り屋ご用達車種となり、事故率の高さからも保険料率は国内最悪レベルと、バカ高い保険料を払う事になる不名誉な一面もある。

その後モデルチェンジされたS14型、そして最終型となるS15型は7代目のシルビアとなる。

S15型は1999~2002年までの3年しか販売されておらず、輸出もほとんどされていなかった事から、知名度の割に販売台数は少ない希少なモデル。

しかし、特定のエリア。そう、峠やサーキットと言った場所では比較的目にする機会も多いので、意外と台数が少ないと言う実感が湧かない。

そしてもう一つ、人気の集中する層が比較的限定されている事もあり、ノーマルの車両を目にする機会が意外と少ないと言うのも、この車の特徴だ。

事故率も高いと言う点からも、中古市場で入手可能な個体は無事故車が少なく、状態の良い車両がなかなか手に入らないのですが…。

そこは期待に応えますよ(笑)

奇跡のワンオーナー・フルノーマル・無事故車をゲットしたので、ニッサン・シルビアと言う車をレビューしてみたいと思います。

機関良好で内装も綺麗なのですが、流石に年式的に外装の劣化は見られたため、オールペンしてリフレッシュしました。

S15型は2.0LエンジンSR20DEを搭載しており、大別してNAのSpec-SとターボのSpec-Rの2グレード展開。

ミッションには6速及び5速MTと4速ATの3種が存在し、5速MTはSpec-Sに、6速MTはSpec-Rに採用されている。

駆動方式はFRのみで、ABSこそ装備されているものの、その他の補助的電子デバイスはない。

車重は約1200kgと軽く、古典的なライトウェイトスポーツである。

 

■グレードによる違いは?

年式を考慮するとある程度は仕方がないが、足回りの構造は全車共通でフロントにテンションロッドで支えられたIアーム式のストラット、リアはマルチリンクとは言うものの、剛性感に不安のある肉薄なコの字構造のアームで支えられている。

そして何より、S13の世代から大した進化が見られない点が気懸りで、ボディの重量増やターボモデルのハイパワーに対してシャシー性能が下回らないか不安が過ると言うのが本音だ。

今回入手したのはNAのSpec-S bパッケージで、カタログスペックでは160馬力となっているので大丈夫だと思うが。

対して、ターボモデルのSpec-Rは250馬力を発生し、合わせてフロントに大径ブレーキの装備、ヘリカルLSD、スポーツチューンドボディ(ハンドリングパッケージに含まれる)が標準となる。

補強の内容としては、アンダーフロアの前後にバーが追加される他、トランクルーム内の一部板厚増し及び、ガセット補強、後方にバーの追加と言ったメニューになっている。

ATモデルのデフについては、オープンデフか、オプションのビスカスLSDの2種となり、ファイナルギア比もグレードによって3種類が存在し、S14までの世代と異なり、どれもサイズがR200に統一され、また、車速センサーはドリブンギアを廃止して車輪速センサーとなった事、サイドフランジも共通となっている事で流用が容易になっている。

走りを重視する層には圧倒的にSpec-Rが人気だが、NAモデルでもハイコンプピストンにハイカムの組み合わせで200馬力を絞り出す、オーテックバージョンと言うハイパフォーマンスモデルも存在するので、意外と選択肢も多い。

尚、ターボモデルがダイレクトイグニッションに対し、NAモデルはディストリビューターを採用しているなど、部分的に使い回しの効かない部品もあるので、中古部品などには注意が必要である。

また、致命的な弱点として、ターボモデルの6MTは、元々マツダ・ロードスター用に設計されたアイシンAZ6型が採用されており、容量不足からチューニングでパワーを上げて行くと耐えられずにブローしたり、エンジンについては高回転を多用するとロッカーアームが脱落し易いと言った持病もある。

ただし、対策部品やチューニングパーツも非常に豊富なので、情報収集してしっかり仕上げていけばネガティブな部分はほとんど改善出来るため、極端なハイチューンでなければそれ程心配する必要は無い。


■シルビアの魅力

S15型シルビアの魅力は、冒頭でも説明した通り、何と言ってもその美しいデザインである。

走行性能云々を語り始めては、最新の車には到底敵わないのが現実であるが、デザインに於いては文句の付け様がない程素晴らしい。

全体的に全高の低いローシルエットで、強調されたロングノーズのスタイルは絵に描いた様なFRスポーツのそれである。

日本車には珍しい、ヨーロッパスタイルのリア下がりのシルエットは定評があり、ウイングレスでより一層際立つ。

そしてS15の特徴の一つは、シャープなプレスラインだ。

プラスラインを境にコントラストの強調される色が良く似合うデザインで、当時もスパークリングシルバーの人気が圧倒的であった事も頷ける。

FD3S型RX-7と大きく異なるのはここで、流線型で角の無いデザインと、S15の様にエッジの効いたデザインで人気を二分する印象だ。

S15の純正ホイール

ちなみに、参考車両は17インチの大径ホイールを履かせたスタイルであるが、意外と言うか、世代と言うか、S15の純正ホイールは15インチ。

オプションや、一部のグレードで16インチが採用されるに留まる。

最近では大径ホイールが主流となり、5ナンバークラスの車種でさえ17インチや18インチを履く事も珍しくはないが、当時としては16インチでも大きめのサイズと言える。

ホイールアーチもそれに合わせて、そんなに広いとは言えないので、タイヤ外径を考えても17インチ以上を履かせようと思ったら、少々工夫は必要だ。

フロントデザインはフェンダーサイドへ回り込んだ、シャープなデザインの大型ヘッドライトが採用され、こちらも当時を物語るオーナメント入りと言う凝った造り。

尚、ハロゲンHIDの設定がある。

ヘッドライトの内部に「Silvia」のオーナメントが見られるのはバブル世代ならではで、ボンネットマスコットも専用だ。

フロントバンパーも開口部が大きいデザインと、両脇には大型のフォグランプが装備され、さり気無くリップの付き出したエアロスタイルとなっている点も、スポーツカーらしいスタイリングに一役買っている。

ナンバーフレームはバンパーと一体成型で、輸出を考慮していなかった事もあってか、日本のプレートサイズに合わせて設計されている印象を受ける。

また、この世代の車には多いが、ルーフにレインガーターなど一切なく、Aピラーからリアフェンダーまで一体の造形は、より一層美しさを際立たせている。

実際に1パネルと言う事ではないと思うが、ルーフに継ぎ目を作らないと言うのは、かなり印象に影響を与える部分である。

そして、最大の特徴はリア周りの造形だ。

サイドからトランクに掛けて絞り込まれたプレスラインが独特で、S15シルビアのデザインに於いて最大の魅力である。

また、トランクパネルまで食い込む様な大型のテールランプが、フェンダー及びトランクパネルとフラットになり、テールランプの形状がそのままボディ形状を担っている。

テールランプより高い位置には何もない。

まるで、全て型に嵌めて押し固めたかの様な一体感があり、相当凝ったデザインである事が窺える。

 

■気になる実用性は?

ない!

いきなり一言に片付けてしまうのは少々乱暴かもしれないが、やはり気になるのはセカンドカーを持たずにシルビアのみを所有しようと思ったら、人は乗せられるのか、荷物は載るのか、乗り心地はどうなのか?と言った実用面は無視できない。

…が、残念ながらお世辞にも実用性のある車とは言い難いのが本音だ。

まず、フロントシートは本当に純正シートかと疑う程のローポジションで、まるで床に直接座っているかの様な姿勢である。

ダッシュボードからボンネットラインまで低いので、意外と前が見難いと言った事はないが、まるでレーシングカーの様にペダルを奥へ蹴り込む様なドライビングポジションとなる。

ステアリングにはチルト機構は付いているので、角度の調整は可能だ。

助手席も同様に座面は低いが、意外なのは運転席・助手席共に意外と広くて快適だと言う点である。

しかし、問題なのはリアシートである。

2ドアクーペと言う都合上、乗りこみ難いのはある程度仕方がないにしても、頭上のスペースを確保するためなのか、強引に抉り込んだ様な座面と、絶壁の様に垂直に立ち上がった背もたれが最悪の座り心地をハイレベルなバランスで実現している。

良かれと思って作ったのか、側面に備え付けられた収納スペースのせいで肘を置く様な場所もなく、とてつもなく窮屈な思いをする事になる。

それでも、RX-786・BRZのリアシートに比べれば遥かにマシではある。

何より、86と違って前の座席の下に足のつま先が入るのはせめてもの救いだろうか。

座り心地とは裏腹に、意外と荷物は載るが…

比較的浅いものの、買い物や1泊2日程度の旅行くらいであればトランクスペースも十分な広さがあると言えるし、リアシートの背もたれが倒れ、トランクと繋がっているので長物も問題ない。

ただ、どうにかタイヤを数本積み込む事には成功したものの、フロントシートを倒しても後部座席へ入れる事の出来るサイズはそんなに大きいとは言えないので、実際にリアシートを荷台としてフル活用できるかと言えば少々難しい。

そしてもう一つ!夏は暑く、冬は寒い。

現代の車と比べても鉄板が薄いと言う事はないと思うのですが、5ナンバーサイズの車で限界まで空間を広げようと内装のパネルがアウターパネルギリギリに貼り付けられているのか、特にエアコンの送風が届かないリアスペースは地獄のような空間が広がっている。

例えるなら、壁が薄く、断熱材の入っていない古い住宅の様な感じである。

ある程度割り切りの必要な車ではあるものの、ファミリーカーとして使わなければ許容範囲と言えるでしょうか。

美しさにパラメータを全振りした、その代償は大きい。


■走行インプレッション

最後にシルビアを走らせてみた印象をレポートしてみたいと思います。

じゃ~ん!貴重なシルビアのノーマルエンジンの写真(笑)

車両はSpec-S、エンジンはNA2.0LのSR20DEで、ミッションは4ATとなる。

エンジン音はあまり静かとは言えないものの、これは単純にエンジンのメカニカルノイズが大きいのか、車両側の遮音材が薄いのか判断に迷うところ。

ノーマルマフラーなので大きな音はしないが、トンネルなどで窓を開けると悪くない音質である。

乗り心地としてはボディの軽さや剛性不足なのか、やや突き上げを感じるものの、普通に乗る分には世間一般がイメージする様なスポーツタイプの乗用車と言った感じで、可もなく不可もなくと言った感じだろうか。

街乗りでは、特にこれと言ってクセも無ければ、特段面白いと言った印象も受けず。

次にワインディングを軽く流してみたり、サーキットを走らせてみる。

加速感はトルコンの影響もあるのか、低速ではそこそこ十分なトルク感で鋭い加速をするものの、5000rpm付近から伸びがまるで感じられない。

この高回転のもっさりした感じをターボで補うと言うのがSpec-Rなのだろうか。

エンジンフィーリングは完全に乗用車タイプである。

ATはロックアップ機構付きではあるものの、最近のATとは明らかに異なる。

ロックアップまでのタイムラグは大きく、また、レンジを切り替えてシフト操作を加えても、チェンジがとにかく遅い。

敢えてタイミングを早めに操作して丁度いいと言った感じで、ある程度クセを掴んでおかないとこの世代のATはデメリットの方が大きい印象である。

こう言った一面があるので、かつてはスポーツカーにATの組み合わせが良い印象を持たれなかったのかもしれない。

ただ、ATに乗って気付いたが、Spec-R用のファイナルギアと組み合わせると、1速レブで80km/h近く出る計算になる。

これだとストリートやミニサーキットのコースレイアウトによっては、1速固定で走れてしまうので、シチュエーションによっては案外速いと言う結果が有り得るかもしれない。

もう一点気になるのが、妙にブレーキペダルのタッチがフカフカしている事だ。

見た感じ、マスターバックが大き過ぎではないか?と感じるが、大型ブレーキを装備したSpec-Rと共通でオーバースペックなのかもしれない。

正確な理由は定かではないが、最後までカチッとしたフィーリングは感じず、踏み応えでブレーキの強弱を判断し難い点はコントロール性の面で弱点となりそうだ。

ハンドリングについては悪くは無いが、重量バランスか?足回りの構造か?

緩くターンインを開始する際には全く気にならないレベルで素直に曲がるが、少々攻めた走りに切り替えると、ブレーキングでしっかりフロントに荷重を乗せてやらないと若干アンダー気味な印象を受ける。

ドリフトユーザーが多いので、てっきりオーバー気味の挙動が出易いのかと思っていたが、そうではない様だ。

また、ターンインをクリアしても、あまり早い段階からアクセルを開けるとプッシングアンダーが出易い印象で、ラインを少し工夫しないと思った程コーナーでは踏めないと言う事態に陥りそうである。

ちなみに、センター付近のレスポンスが悪いのか、舵角を抑えるより、少し切り込んでやった方がグイグイ曲がる様である。

この後、この問題をクリアするために車高調を導入し、前傾させてみたのですが、これだと露骨にオーバーが目立って尚更踏めない状況に陥るので、姿勢より減衰を工夫した方が良いかもしれない。

最近では露骨なブレーキ残しは非推奨とされる事が多いので、時代と共に認識が変わったのかと思っていましたが、ブレーキ残しが推奨されていた時代の車は、そもそも必要とする特性なのでしょうか。

動きは比較的分かり易く、テールスライドが発生してもスライドスピードは鈍いので少し慣れていれば特に怖い思いはしないと思います。

また、車重も軽いので、リペアが容易な点も入門に最適なモデルと言えるかもしれません。

ただし、これはあくまでもNAの話であり、これにハイパワーエンジンの組み合わせだとどうなるか、それは乗った者にしかわからない(笑)