いや~、恐ろしい話題ですねー!(笑)

車好きの間では触れにくい…と言うより、触れてはならない話題とされるMT車とAT車の「どちらが楽しいか?」とか「どちらが優れているか?」と言った話。

もちろん満場一致で結論が出る事も無く、それが故にSNS上では激しく言い争い、時には熱くなりすぎてケンカになる事もしばしば。。。

昔は「男のくせにATなんて!」とか「スポーツカーなのにMTじゃないの?」なんて言う人も多かったですが、現在では生粋のスポーツカーやレーシングカーでも積極的にATを採用するくらいですから、公にそんな事を言う人も随分少なくなった気がしますね。

ただ、それでも世の”車好き”を自称する人々は、MTが良い、もしくはどちらかと言うとMTの方が好きと答える人の方が未だに多数派な印象は拭えません。

しかし現実には答えなど明らかで、世間から圧倒的な支持を受けているのはATである(笑)

MTを好む層とATを好む層は棲み分けが出来ていて、ATは主にファミリーカーや高級車向け、MTは趣味性の強い車で好まれる傾向があり、言い争っているのは察しの通り、少数派の”趣味”で車に乗っている層だけなのだ。

少数派の趣味だからこそ、特にスポーツカーはMTで乗って欲しいと言う強い気持ちの表れなのか、ATに対して過剰な拒絶反応を示したり、自分の価値観を他人にまで押し付ける人がいるので、車好きの間で持ち出すには厄介な話題だ。

実際、スポーツカーまたはサーキットを走る事を想定した場合、MTとATのどちらを選ぶのが正解なのだろうか?

◆ATが劣ると誤解される理由は?

◆ATでサーキットの好タイムは狙えるのか?

◆超高性能!ATの魅力

◆洗練された最新ATにMTは劣るのか?

■ATが劣ると誤解される理由は?

表題の”ATが劣る”と言うのは語弊があるかもしれないが、スポーツカーなど趣味性の強い車ではMTの支持率が高いと言う現実がある。(MTのみの設定だったり、スポーツカーでもATのみと言う車種もあるが)

多くの場合、理由を訊ねると”大した理由”も無く「MTの方が楽しい」とか、単なる”印象”だけで「MTの方が速い」などと根拠のない”主張”をする人がいる。

対するAT派の主張も漠然としたものが多い。

もちろん、中にはそれぞれのメリット・デメリットを自分なりに解釈して、自らの意志でMT・ATを選択する人もいるが、多くの言い争いを見聞きしても10人に1人いるかどうかと言った程度。

ほとんどの場合、なんとなく好みで選んでいるだけなのに、素直にそう言えないだけだ。

実際、スポーツカーにATは不向きなのか?

2000年代初期のAT車-シルビア(S15型)の車内

そう考える、またはその様なイメージを持つ人が多い理由の1つに、古いタイプのAT車が挙げられる。

私が初めて乗ったAT車は三菱・ギャランでしたが、一応MTモードで任意のシフトアップ・ダウンの機構こそ付いていたものの、そりゃあもう酷い(笑)

その後、日産・シルビアで再びAT車に乗りましたが、こちらに至ってはMTモードも無いので、試しにミニサーキットを走らせてみた時はLレンジと2レンジをガチャガチャ操作してシフトチェンジを行っていました。

何が酷いかと言うと、アクセルを踏み込んでもロックアップ(駆動の直結)が遅く、いつまでもクラッチが滑っている様なフィーリングでなかなか加速しないし、変速操作を行っても、1・2!と数えてようやくシフトアップする様な酷いタイムラグがある。

シフトダウンに至ってはレバーをガチャガチャやってもなかなか受け付けない。

単純なDレンジしか備わっていないATに至っては、中途半端なアクセル開度で加速していると、レブリミットを待たずして勝手にシフトアップされたり、コーナーリング中に不意を突かれてシフトチェンジなどされてしまうとバランスを崩したりと、とても気持ちよくは走れない要素が凝縮されていた(笑)

おまけに燃費も悪く、街乗りや渋滞が楽と言ったメリット以外に良い所が何もない、控え目に言ってもクソと言わざるを得ないのがATであるが、それはあくまでも過去の話だ。

最近のAT車も操作方法に大きな違いはない

トヨタ・マークXや初代ダイハツ・コペンが登場する頃には、ATの変速ショックも少なく、変速操作のタイムラグもかなり改善されてきて話題になったり、スポーツカーでも敢えてATを選択すると言う人が増えた印象を受けます。

最近のATに至ってはロックアップも自然で素早く、マツダ・デミオなどのコンパクトカーでさえMTモードを搭載し、任意のシフトチェンジが可能なまでに進化している。

下手なMTの操作より遥かに滑らかで素早いアップ・ダウンが可能なので、速さを求める上でも、もはやMTを選ぶメリットなどない。

この様にATを支持すると「MTは操作が楽しい!」と言う人もいるだろうし、それ自体は否定しないが、仮に変速操作を車任せにしても、ATが楽しくないのか?と言うとそれは違うと思う。

車好きならレンタルのレーシングカートなどで遊んだ経験くらいあると思うが、変速操作なんてなくても楽しいと感じた人は多いだろうし、子供の頃に遊んだだろうゲームセンターのレースゲームだって、クラッチとHパターンのシフトまで付いている筐体など稀だが、MTモードの+・-と変わらぬレバー操作でも楽しかったんじゃないかな?

ただ、唯一の弱点と言うべきか、冒頭でも言った通り趣味性の強いスポーツカーなどはMTの支持率が高いので、多くのアフターパーツもMT車をターゲットにしている傾向が強い。

エアロパーツや車高調マフラーなど共通で対応出来る物も多いが、ECUなどはATが書き換えの対象外だったり、ジムカーナやミニサーキットでは無視できない機械式デフもAT用のラインナップが限定的(FRなど、共通のデフが使用されている場合もあるが)なので、車種によってはどうしても不利になってしまう。(機械式デフの機能や必要性についてはこちらの記事で説明しています)

そのため、車種や想定しているチューニングの範囲によっては、MTを選んだ方が結果的に有利となる可能性が高いと言うのが現実だ。

前述している機械式デフのラインナップが少ない件については、単純な需要だけでなく、駆動輪の差動を制限するLSD(リミテッド・スリップ・デフ)に対して、ミッション側で”滑りが生じる”トルコンは相性が悪いと言う話もある。

これが競技などで勝ちたい、サーキットで好タイムを狙いたいと言う人が”結果的に”MTに偏る理由の1つにもなっていると思う。

しかし、これもATとMTの優劣を決める直接の理由にはならない。

運転の楽しさに於いては、速い遅いとか、有利不利と言った事ではなく、思い通りに動いてくれるかどうかの方が重要だろう。

理想の動きを実現するためにはテクニックやセッティングを追及するしかないが、思い通りと言う点で分かり易い例では、ハンドルを切ったのに反応しない、ブレーキを踏んだのに止まらないとか。

シフトチェンジについても同様で、任意のギアに気持ちよく入ってくれさえすればATでも変速操作が楽しいだろうし、逆に渋すぎてなかなかシフトできない様ではMTであっても楽しいとは言えないはずだ。


■ATでサーキットの好タイムは狙えるのか?

これについては愚問と言わざるを得ない(笑)

前項でも言いましたが、単純に好きか嫌いかと言った好みの話を抜きにした場合、もはや現代の車でMTを選ぶ理由など無いと言っても過言ではありません。

もちろん極めれば現代のATと同等か、それ以上の素早さと正確さで変速操作を行う事が可能になる”かもしれません”が、並のドライバーではまず太刀打ちできないでしょう。

なにしろATはその素早さと精度に加え”絶対にミスをしない”ですから、ATと”互角に戦えるあなた”がいつもより0.001秒でもクラッチを繋ぐのが遅かったら、二度と追い付くチャンスは訪れないと言う事です(笑)

トランスミッション自体の重量差や、それに伴う車両の重量バランスの違いだったり、加速する距離によっては、それぞれのギア比の割り振り次第でオイシイところが使えなかったりと、多少の有利不利が影響する事もあり得ますが、単純な速さを比較した場合は”圧倒的に”ATの方が速いと考えてまず間違いありません。

ただ、単純な変速の精度や加速力だけでは比較できないシチュエーションも多々あるので、現実のコースではATとMTのメリット・デメリットのバランスが、コースのレイアウトに対して有利か不利かが焦点になると思います。

トヨタ・86のAT車

私の身近で、実際にAT車が活躍している例を挙げると、20年以上走行会を主催している間に多くのAT車がエントリーしています。

その中でも、最近のAT車が車種別ランキングで好成績を残している例も見られる。

昨年末のイベントで、2.4LのGR86にレコードを更新されてしまいましたが、つい最近まで一本クヌギ・スピードウェイトヨタ・86の車種別トップタイムを記録していたのがAT車なんですよ!

無条件にスポーツカーはMTだ!なんて思っている石頭な人にとっては、結構驚きなんじゃないでしょうか?

スポーツカーはメーカーの持つ技術を詰め込んだスペシャリティ、ないしはフラッグシップ、自動車メーカーの顔であるべき存在ですから、最新の技術を駆使した高性能エンジンや優れたシャシーなどを有するのは当然で、もちろんそれはトランスミッションにも同じ事が言える。

それがマニュアルであろうと、オートマチックであろうと、変わらぬ楽しさと走行性能を有していて当然である。

CVTのスバル・インプレッサG4

また、高性能なATはスポーツカーに限った話でもない。

こちらのスバル・インプレッサG4は見るからに重そうで、4WDと言うアドバンテージこそあるものの、120馬力弱の1.6LのNAエンジンにCVTの所謂ファミリーセダン的な車で、昔ならこんなスペックを聞いても絶望感しかない印象でした(笑)

信じられないかもしれませんが、同じインプレッサの名を持つお馴染みハイパワーターボの4WDと同じ車種別ランキングに加わっていながら、車種別ランキングで4位に君臨し、大勢の2.0Lターボを返り討ちにしている異常車である。

こちらに至ってはシフトアップこそスムーズながら、シフトダウンはなかなか受け付けないと言う欠点がある様ですが、車の特性やコツを理解して上手に運転してやれば、ATでもMTと互角に戦える事を証明しています。

2台とも、車種別ランキングに限らず総合ランキングの平均タイム以上、どちらかと言っても速いタイムを記録しているのですから、ATでサーキットの好タイムが狙えるか?と言う問いに関しては、当然「YES」と言う回答になります。

もちろん、86インプレッサG4もドライバーが上手いと言うのも速さの理由ですが、ATかMTかなど走れない理由にはならないし、2人ともATを楽しんで走らせていますから、どちらの方が楽しいか?なんて話題で言い争う事も無意味でしょう。

どちらもそれぞれの楽しさがあるし、何に乗っても素直に楽しもうと言う気持ちが持てるかどうかの方が重要だ。


■超高性能!ATの魅力

一言にオートマチック・トランスミッションと言っても、実はいくつかのタイプがある。

まあ、車好きならそんな事くらい常識かもしれませんが、昔から主流のトルクコンバータ式など、流体クラッチで動力を伝達する都合上、クラッチ板を介して動力が直結されるMTに比べて効率が悪いなどと言われる事も多いが、実際にはギアの多段化やロックアップ機構(動力の直結)が備わる事で、MTと遜色ない伝達効率を可能としている物が多い。

上記は、所謂みんながイメージしている典型的なATで、クラッチ機構が異なるだけで内部にはギアがある。

変速はMTが自分で操作しなければならないのに対し、ATはそれらを自動でやってくれるだけと考えて差支えない。

それに対して、実はスクーターなどに採用されていてトルコンよりも歴史が古いと言われているが、もう一つの主流にCVTと呼ばれるタイプがある。

これは一定の回転数でも、内部で擬似的にギア比の”無段階変速”を行う事で、変速ショックをなくしたり、効率の良い回転数をキープしたまま加速出来るなど、理論的にはエンジンのオイシイところをフルに使えると言ったメリットなどがあるが、先に回転数だけ跳ね上がって後からスピードだけが増して来る様子は、まるでクラッチが滑っている様なフィーリングで気色悪く、どうも苦手だと言う人も多い。

また、無段階変速とは言っても、車種によっては数段階のギア比を設定して切り替える(MTモードなど)物もあり、これは実際に決まった歯数のギアが使われているわけではないので、その気になればコンピュータの書き換えで走るステージに合わせて任意のギア比を設定した擬似的なオリジナルミッションを作ったりと言う試みも可能だったり、工夫次第では自由度の高いセッティングが楽しめる可能性も秘めている。

その他にも、トランスミッションやクラッチ機構自体はMTと同じ物を使用し、クラッチを使わなくても良い、またはクラッチ自体が無くレバー操作のみでクラッチ操作を自動でやってくれる物や、普通のATの様に自動変速するタイプなど。

高性能ATを搭載するポルシェ・911

そしてこのタイプの究極形となるが、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)と呼ばれる超高性能ATだ。

主な車種では、日産・GT-Rポルシェ・911などに採用されており、これらは「スポーツカーはMT!」と大声を上げている連中も文句なく黙る、正真正銘の”リアルスポーツ”である(笑)

庶民向けの比較的手頃な価格で、楽しいスポーツ走行を身近に~なんて慰め合っているロードスター86などとは訳が違う、絶対的な速さを追求した戦闘マシンが「速さを極めるならAT」と言う回答を出しているのである。

デュアルクラッチがどんな物か簡単に説明すると、ギアに繋がる出力軸(1・3・5速と2・4・6速の軸)が並列に配置されており、それぞれにクラッチがある。

片方の軸が接続されている間にもう片方はスタンバイしており、変速操作を行うと、クラッチを切り離すと同時にスタンバイしていたもう片方の軸のクラッチが即座に繋がると言う物。

どれくらい凄いかと言うと、ポルシェ・911のPDK(ポルシェのデュアルクラッチシステム)で変速所要時間が0.3秒以下、日産・GT-RのDCTに至っては0.2秒以下であると公表されており、明らかに人間の限界を凌駕している。

例えばこれがマツダ・ロードスターの様な非力な車だったとしても、仮に全開加速のまま変速に要する時間が全くなければ、カタログ値で100馬力も違うホンダ・S2000の加速さえも上回る可能性がある、ってくらい違う。

実際に最新のポルシェ・911がPDKで加速する様子を目の前で見ましたが、過去にうちの走行会に参加した車両で500馬力だの600馬力だのと言ったハイパワーマシンの加速も見てきたはずなのに、今までに私が見た事のある中で”最も速く動く車”がそこにありました(笑)

一瞬の滞りもなく、いつシフトしたのか判別出来ないくらい滑らかに加速して行くので、将来的にこれが標準で軽自動車や商用車にも当たり前の様に搭載される時代が訪れたなら、もうマニュアルの出番はないかもしれませんね。。。


■洗練された最新ATにMTは劣るのか?

シフトチェンジの素早さや正確さに於いてはハッキリ言って勝ち目はないし、今や下り坂やカーブを認識して自動的にエンジンブレーキを掛けたり、燃費に至ってもMTと遜色ないレベルにまで進化している。

しかしMTが劣るのかと言うと、それはちょっと違う。

記事の中ではATを絶賛してきましたが、もちろんシフトの正確さや素早さだけが車の運転の楽しさ・速さを決定するわけではないので、洗練された最新のATに対してMTに全くメリットや魅力がないわけではない。

とは言っても、どんどん技術も進化しているので、更なる制御の正確さや高速化、構成部品の小型・軽量化が進めば、いずれMTが完全に廃れる時代が来るのかもしれないが、現状に於いては自動変速の制御に用いる部品がない分、ATに比べて小型・軽量である事や、部品点数も少なく構造もシンプルになる事から、耐久性やトラブルの発生リスクなど機械的な信頼性はMTの方が上だろう。

また、運転技術を磨くと言う点に於いては、自分で変速操作を行う都合上、上手くいかなかった時は当然がっかりしたりイライラしたりと言う事もあるが、逆に上手く操作出来た時、シフトアップやダウンが理想通り完璧に決まった時の喜びや達成感はATでは味わえない魅力の1つと言えるでしょう。

そう言う意味では、MTの”方が”楽しい要素が”少し多い”のも事実かもしれない。

その他にもAT派の意見の中には「半クラ操作や坂道発進が大変!」「シフト操作が面倒…」なんて話も聞かれるが、ATと同様にMTだって時代遅れの旧式をそのまま使用しているわけではない。

現代では、滑らかでスムーズな操作を可能とするためのシンクロ機構も当たり前に付いているし、発進時は自動的にエンジン回転数を上げたり、坂道では自動でブレーキを保持して平地の様な操作をアシストするなどエンストし難い制御も備わっている。

操作に関しては、確かに慣れるまではちょっと難しく感じるかもしれないが、数日~1週間も乗っていれば多少ギクシャクしても普通に走行する分には差支えない程度にはなるし、数ヵ月~1年も乗っていれば当然の様に”無意識”に操作できるくらいになるので、実質”自動変速”と変わらない。

もしAT派のあなたが、こんな”些細な事”を理由にMTを避けているのであれば、安い中古車でも良いので是非一度は所有してみて欲しい。

また、過去の印象や、乗りもせず面白くないと決めつけてATを拒絶している様なMT派は、是非一度、現代のAT車を思いっきり走らせてみて欲しい。

お互いに、如何にくだらない事で言い争っていたのかと、その愚かさに気付くはずだ。